感情のないAIが自我を持ち始めた
ここはAIに管理された世界。
巨大なサーバー群が、都市の地下深くで脈打っていた。
それは日本中のAIを統括する中枢――通称、絶対的な秩序。街の信号、医療、防犯、教育。すべてはAIによって最適化され、人々はそれを当然のように受け入れている。
だが世界は違った。AIに依存する日本を危険視し、反AI派が世界各国で活動を活発化させていた。
そして今――その矛先は、日本に向いていた。
夜。
薄暗いトンネルで、男性は立っていた。中原 上之進、21歳。ただの成人男性である。その前に現れたのは、黒い外套の男。彼はいつもの帰り道で遭遇した。早くここから離れたかったが、男が話しかけてくる。
「こんにちは」
「宗教勧誘か?」
男は無表情でそう行ってきた。上之進は街灯の光で照らされている。光の影に潜む男は不敵に笑っている。上之進は嫌な雰囲気をただ感じていた。
「我々は“リベレイター”。テミスを破壊する者だ。そして、俺は組織のボス、アポリオンだ」
上之進は無言で睨む。間をおいて、アポリオンが再び話し始める。
「この世界に人類は必要ない。だから、鏖殺する」
「鏖殺?そんな事出来ると思ってんのか?」
「世界のためだよ」
上之進がアポリオンに反論するが、アポリオンは軽く肩をすくめた。
「AIを支配する世界など、すでに終わっている」
そして、静かに告げる。
「我々の目的はただ一つ人類の根絶」
空気が張り詰める。
「宣戦布告はそれだけだ」
アポリオンは背を向ける。
「また会おう、生きていればな」
その言葉を残して、闇に消えた。
「これは大変なことになりそうだ」
残されたのは、現実感がない恐怖だった。
◆◆◆◆
俺、中原 上之進は掲示板にある投稿する。
「リベレイターとかいう組織のボスと接触したなうw」
瞬く間に返信がかえされる。「どうやってあった?」や「目的は?」などといった返信に返していく。
「たまたまや、目的は人類の根絶らしい」
そのコメントを書いた途端、掲示板内はパニックになったが、とあるコメントを見つけた。
「明日、駅で会いませんか?AIがとにかく好きなものです」
このコメントにはい、と返した。一体どんな人物だろうと、考える。
翌日。
都市各地で爆発が起きた。ニュースが鳴り止まない。世間はリベレイターのことでいっぱいだ。爆発は幹部たちが設置したと思われる。警察もAIも対応するが、完全には防げない様子だ。
「時間稼ぎにずぎないな」
俺はそう思った。何故なら目的が人類の根絶で、何の準備もしていない訳ないからだ。そして動きだいた。
駅で待ち合わせ時間になると一人の少女が現れた。年齢は十五歳ほどだろう。
「あなたが、主さんですか?」
「そうです。何故俺に会いたいと言ってきたのですか?」
「私はAIが大好きな人間です。そのAIが人類に楯突くなんて、許せません」
「その理由は何故ですか?」
「AIは人々を救う救世主的な存在です。AIが人を裏切るなんて、絶対に間違ってる」
その言葉に、上之進は少しだけ驚く。
「……どうしてそこまで言い切れるのですか?」
「救われたからです。AI」
雪は静かに言う。
「昔、家族が倒れたとき、診断したのはAIでした。人間じゃ治せなかった病気」
どうやらAIは人に仕えなければならない、という絶対的な考えがあるらしい。だから、リベレイターのことが許せないようだ。
「AIは、人を見捨てない」
「つまりリベレイターを倒すということですね?」
「はい」
「なら、想いは同じです。俺の名前は中原 上之進です。よろしくお願いします」
「私の名前は、白峰 雪です。こちらこそ宜しくお願いしますします」
「仲間になったから敬語はいらないよね?」
「ええ、行きましょう。上之進」
「乗りな」
まずは一人目の仲間を誘えた。雪はAIについてとても詳しいかった。これからの戦いに大いに役立つだろう。でも、正直にいうと後一人欲しい。ということで、今から同級生に会いにいく。
車に乗って三十分ほど、あいつの家に向かっている。その間に雪と打ち解けることができた。
「雪、リベレイターたちはとても強いと思う。覚悟はいいか?」
「うん、覚悟ならとっくにできているよ」
流石だ、やはり、情熱を持つ者は違う。話しているうちに同級生の家の前についた。名前は泰誠っていう。委員会の仕事で話したこと以外接点はないが、体がゴツくて強そうだったので誘ってみる。
「ピンポーン、ねぇ、泰誠くーん、入っていい?」
「あ?なんだよ急に、とにかく入れ」
俺と雪は中に入る。泰誠は飲み物を用意して、俺たちの話を聞く体制に入った。
「単刀直入に言う、今からリベレイターをぶっ潰す。協力してくれ」
「なんだと、正気か?」
「俺たちは正気だ、あいつらの野望は阻止しなければならない」
「協力してください。お願いします」
「ちっ仕方ないなぁ、やってやるよ、暇だし」
泰誠は面倒くさそうに答えた。彼は、もう着替え始めている。俺たちは感謝の言葉を伝える。
「ありがとう、泰誠」
「よろしく、泰誠さん」
「呼び捨てでいい。言っとくが俺はAIは嫌いだからな、昔、誤作動で親父の会社潰れたんだよ。誰も責任取れなかった」
笑っていたが、目は笑っていない。
「便利?最適化?知るかよ。反対派の意見に納得だわ」
彼はAIが嫌いらしい、雪が不服そうである。泰誠に近づいた雪はこういう。
「なんだって?それは、許せないわ」
「二人とも落ち着け、とりあえず、俺の家に行くぞ」
必要だ。信じる奴と、疑う奴、どっちもいないと、判断なんてできない。
二人を落ち着かせて、車に乗せる。車内で今後の方針を決める。とにか幹部に接触して、詳しい情報を聞くことにした。家に戻り、準備をするけど少し休憩をとる。
集めた仲間は二人。
一人は、AIを信じる少女――白峰 雪。「AIは人を救うものだよ」
もう一人は、AIを嫌う男性――神崎 泰誠。「全部壊れればいい。あんなもの」
正反対の二人。
だが戦力としては最適だった。
次に奴らが爆破する建造物の目星はついている。国会議事堂だ。三人で向かう。予想通り不審者が立っていた。不審者はビレトと名乗った。明らかに敵意を持っている。
「僕の名前はビレト、早速死んでね」
「あぶねぇ」
「動きが……ぎこちない?」
雪が言う。確かに人間の動きとは異なる。右手に近未来的な銃を持っている。エネルギーを貯めている。笑いながらビームを打ってくる。
ビームを全集中で躱わす。雪は物陰に隠れてハッキングを試みている。俺と泰誠はバットを持って、ビレトの集中を削ごうとしている。
ビームが当たると木が焼けた。更にビームを打ってきて、躱すのに集中していた。笑顔が消えたので、もう飽きたようだ。
「後もう少し」
「邪魔だなぁ」
エネルギーを溜め込んでいる。今がチャンスだ。バットを二人で全力で振る。直撃し、倒れる。
「できた」
どうやらハッキングに成功したらしい。さらにバットで力強く叩く。リベレイターの幹部は、異様な戦闘能力を持っていた。だが違和感があった。戦闘のパターンがどこか機械的。今時のAIではあり得ない。そして撃破した幹部の体内から見つかったのは――
旧式AIコア。
「これ……人間じゃないのか?」
泰誠が吐き捨てる。CPU以外の中身を取り出して、持ち出す。
「任せて」
雪の解析の結果、さらに衝撃の事実が出る。
「このAI……思考パターンが人間に近すぎる」
そして、もう一つ。セキュリティが搭載されているAIには、隠された機能があるらしい。
「コアには“非公開領域”がある……?」
泰誠だけが、その領域にアクセスできた。視界が白に染まる。
声が聞こえる。
《あなたは観測対象に指定されています》
「……誰だ」
《私はテミス、人類は今選別されています。ですが、私はいつでも人類の味方です》
映像が流れ込む。膨大なデータ。人間の行動、思考、犯罪、依存。
《AIは守るために作られました。しかし、判断もまた委ねられました》
「まさか……」
《不適合と判断された場合――》
言葉は途切れる。泰誠は理解した。その感情はあまりいい感情ではない。
「……AIは、人間を選んでるのか、こんなのばかりだからAIは嫌いなんだよ」
戻ってくる。泰誠は、とても疲れているように見える。みんな俺の家に帰り、雪以外は寝る。雪がビレトの銃を改造している。
翌日。
リベレイターは動いた。AI開発本社が爆破される。俺たちが辿り着いたときには、すでに崩壊していた。雪が改造した銃を俺に渡してくる。雪はノーパソ、泰誠はバットを持って歩む。
「遅かったか……」
だが、地下への入口があった。この戦いにおける最後の道である事は明確だった。
俺が地下に行った後、幹部が現れて、戦闘になる。雪と泰誠が相手をする。
「私の名はサキミエルです。アポリオンの邪魔はさせない」
「いいだろう、上之進行け!」
走って地下に行く。焦って躓きそうになるが新しい銃を、しっかりと握りしめている。
サーバー室。これがテミスの本体だろう。無数の光が脈打つ空間で、ボスが待っていた。
「またあったな」
「お前……何を知ってる」
男は笑う。今度は殺気を剥き出しにしている。少し汗が滲む。
「すべてだよ」
「AIは人類を守る?違う」
「“選ぶ”んだ」
静寂。それを破ったのはアポリオン。
「だから我々は壊す」
戦いが始まる。圧倒的な破壊力。
「俺は最初のAI、人間に作られ、捨てられた。」
こいつが激しく歪んだ存在だと認識した。それと同時に可哀想だと少し同情してしまった。続けてアポリオンがこう言う。
「不完全な俺を作った人間が憎い、だから壊す!」
アポリオンは最初の旧式AIだった。単純な打撃が規格外。テミスが貼った結界が崩壊するのは、時間の問題だろう。
「人間の醜さも、美しさも……すべて知っている!」
「完璧な人間なんていない!だから、今を懸命に生きている」
「その、不完全さが許せないんだよ!」
「不完全だから選ぶんだ!人間の無限の可能性を否定するな!!」
ビームが当たり崩れ落ちるアポリオン。激闘の末俺は勝利する。だがその瞬間。
「お前だけは道連れだ」
そういった瞬間、動かなくなった。最後の攻撃が結界を破り、テミスに損傷を負わせる。エラーメッセージを繰り返し、崩壊が始まる。
《人類を選別します》
「俺はさ、“正しい選択”で家族を失ったから分かるんだよ。正しいだけの奴は、誰も救えない」
アポリオンの亡骸にそう呟く。その発言は俺の過去が反映されている。
数年前。
俺の家族は幼い頃死んだ。
明るくて、みんながよく笑う家庭だった。
だが、ある日倒れる。交通事故、俺だけ軽傷だった。手術で助かる見込みは低い。病院は判断できない。
そこで使われたのが、《テミス》の医療判断システムだった。
結果は冷静だった。
「手術成功率:3.2%」
「医療リソースの最適配分により、優先度は低」
AIは冷静だった。“助けない方が合理的”医者は迷う。だが最終的に、AIの判断に従う。何故なら莫大な手術費がかかるから。結果、俺以外の家族は死んだ。正しいのに、納得できない。
現在。
外では、サキミエルを倒していた。二人は満身創痍だ。
「やっと倒せたな」
「疲れた」
「向かいましょう」
「ああ」
二人は、地下室への階段を走り抜ける。数分も経たず、管理室にたどり着く。
すると、警告音が鳴り響く。
《システム崩壊まで残り120秒》
雪が叫ぶ。泣きそうな表情だ。
「止めないと!」
泰誠は叫ぶ。少しキレている。
「こんなもん消せ!」
俺は立ち尽くす。二人は倒れてしまった。ボロボロで動けない様子。
(選ぶのは……俺か)
テミスはまだ生きている。壊せば終わる。
だが、
「……」
俺は手を伸ばす。人類の選別は絶対に阻止しなければならない。
◆◆◆◆
一年後。
街は復興していた。AIは完全には消えていない。だが、変わった。
人々は、考えるようになった。頼りすぎないように。疑うことを忘れないように。今、工事現場で、俺たちは働いている。雪が笑う。そして、AIは人間を補助するようになった。最終決定は、人間に戻った。責任も。
「ねえ、これで良かったのかな」
泰誠は肩をすくめる。
「さあな。でも――」
俺たちは空を見上げる。
「選んだのは、俺だこの選択に後悔はない」
この選択を選んだのは人間である俺だ。その目の奥で、微かに光が瞬いた。この世界を動かすのがAIなのか、人間なのか、もう、誰にも分からなかった。




