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4話 如月ニヒト


「あ、今度俺んち来る? 人んちのインテリアって、けっこう参考になるかなって」

「え? うん……じゃあ、行こうかな」


 あの時のあいつの顔、分かりやすく狼狽えてたな。

 それなのに平然としたフリして、乗ってくるのアホかよ。実家暮らしとはいえ、男の部屋だぞ。

 意識したら負けだとでも思ったんだろうな。

 必死に余裕ぶってる俺もダセェけど。


 あいつ、同じシチュエーションだったら、俺以外でも泊めるのかな。

 きゅー太郎のジャージにすっぴんて、俺意識されてなさすぎだろ。可愛かったけど。妙に似合ってて可愛くてご褒美だったけど。

 きゅー太郎の可愛いくせに無感情な視線が、「手を出すなよ」って意思表示に思えてしまった。


 それにしても、三ヶ月も真っ白なままの部屋で過ごせるとかどういう神経してるんだ?

 調味料もそれなりには揃ってたから料理してるのは本当だろう。異様に片付いてるし、ズボラではないよな。


 単に優柔不断とか?

 このままだと退去になって会う時間が作れなくなるかもしれない。俺が何とかしてやらないと。

 手伝ってたら、そのうち自然に告れる雰囲気になるかな……



「わざわざ迎えに来てもらってごめんね」


 約束した土曜、うちの最寄り駅まで迎えに行った。

 曇り空にコンクリートの建物が並ぶなか、彼女一人が鮮やかに目に飛び込んでくる。

 いつも、すぐに見つけちゃうんだよな……


「誘ったの俺だし。店にも寄りたかったから、ついで」


 部屋と違い、相変わらず私服はカラフルで可愛い。

 ふわっとしたイエローのニットにデニムのロングスカート。

 カーキのイカついジャケットはオシャレなのか牽制なのか。


 絶妙なラインをついてきやがって、どれだけ悩ませれば気が済むんだ。

 小さめのショルダーバッグを肩に掛けて、手には何やら紙袋まで持っている。


「あ、それ手土産? 家族は居ないって言っとくの忘れた。すまん」

「え? えええ。いや、まあ、家にお邪魔するのは変わらないから手土産はいるよ。うん」

「なんか動揺してない?」

「そりゃ、先に言ってよ! 二人きりだなんて……」


 いまごろ迂闊さに気づいてぶつぶつ言い出した。


「二人きりでお泊まりした仲だし、家族はいないほうが気楽だと思ったんだけど、違った?」

「え、いや……それは、確かに?」


 顔を逸らしたかと思うと小声で「また負けた」とか何とか呟いている。負けず嫌いめ。


 しかしこうして二人で並んで歩いてると……やっぱりデートみたいでソワソワするな。

 横目で見ると目が合って、パッと逸らされた。


 おい可愛すぎるだろ。

 意識されてるの確定で心の中でガッツポーズする。

 俺もたいがい可愛い。


「店に寄るって、お昼ご飯でも買ってくの?」

「そうそう、作るにしても材料足りないし」

「ねえ、今日こそ私に作らせてよ」

「手土産もあるんだし、気をつかわなくていいよ」

「美味しいって唸らせてやりたいの!」

「ははっ、それなら任せた。楽しみにしてる」


 この展開はちょっと期待してた。

 にやけそうな顔を必死に引き締める。

 不味くても余計なこと言うなよ俺。


「なあ、きゅー太郎のアニメ、絵本っぽいイラストがよく出てたろ?」

「え? うん。普通のアニメと違って怖かわというか、絵もこだわってて良かったよね」

「あの部屋さ、絵本をコンセプトにしてみるとかもいいんじゃないかと思って」

「絵本かあ。普通じゃつまらないし、絵本モチーフいいかもね!」


 やっぱり自分で決めるのが苦手なタイプなのかな。

 俺が背中を押してやればすんなり進みそうだ。



「あ、アリスフェアやってるー! 食器とか可愛い」

「仕掛け絵本もあるぞ」

「ほんとだすごい」


 女子は雑貨が好きだよな。見に来たのは本なんだが。

 土曜の大型書店はかなりの賑わいで、お互い自然と声がデカくなる。妙にテンションが上がって楽しいし、まあいいか。


「あっ、うさぎ!」


 突然声のトーンが変わり、緊迫感を帯びた。

 目線を追うと雑踏のなかだ。

 白ウサギがちょこんと立っている。


「なんでこんなとこに。本物……か?」


 赤い目がこちらを見つめていてゾッとする。

 きゅー太郎みたいな、感情の無い瞳……


「動いた!」


 ウサギは頭だけ動かしてキョロキョロしだした。

 何かを見つけたようにまた動きを止める。

 突然、入口に向かって駆け出した。

 人が入ってきているところでドアが開いている。


「外に出たら危なくね?」

「待って!」

 

 追いかけるのかよ!

 ウサギなんて……追いつけるのか?


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