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友人

 開け放たれた窓からそよ風が流れこんでくる。

 『羽飾りの間』の客席に、見覚えのある少女が座っていることにアリッサは気がついた。

 カデリ・トゥールサーナ。今日も学校帰りらしい。ただし向かいあう席に友人の姿はなく、彼女一人だけだった。何をするともなく、窓の外をボンヤリと見つめている。

 彼女の手元には青い縁取りのティーカップが、中身がほとんど手つかずのまま残されてる。アリッサはちょっと迷ったけれど、声をかけることにした。

「お客様。よろしければ新しいお茶をご用意いたしましょうか?」

 カデリは声をかけられたことに驚いたようだった。が、アリッサが持つティーポットに気づくとぎこちなく頷いた。

 アリッサは冷めたカップをソーサーごと下げてから、新しいティーセットと取り替えた。

 カデリはミモザ柄のティーカップに満たされてゆく琥珀色の果実茶を見つめながら、

「友だちが……故郷へ帰ったわ」

 ひとりごとなのか、それとも自分に向けられた言葉なのか、アリッサには分からなかった。もし後者だとしたら、何も答えないのは失礼だと思った。

「以前、ごいっしょに当店へお越しくださったお客さまでしょうか?」

 カデリはまた小さく頷いて、

「理由も告げずに」

 どうやら、シャーロナは魔法学校を辞めたらしい。そうかもしれない、とアリッサは思った。魔法が使えない以上、魔法学校に在籍していても仕方がない。

「ねぇ、あなた何か知ってる?」

  アリッサはあやうくポットを落としそうになったが、

「い、いえ。わたしは何も存じ上げません」

「そう。……そうよね。ごめんなさい、おかしなことをきいて」

 カデリは温もりを確かめるように両手でカップをつつむと、そのまま首を傾げて、

「──私にできることって何かあるかしら? 考えてるのだけれど、何も思いつかないの。手紙でも書いた方がいいのかしら? でも、何て?」

 今のシャーロナが必要としているもの。それが何なのか、アリッサは考えてみたが分かるはずもなかった。

 いったい、彼女は今後どうなるのだろう? プルドイリス家の令嬢が魔力を失った顛末(てんまつ)は遅かれ早かれ世間に知れ渡るにちがいない。そうなったとき、いくら名家とはいえ、魔法を使えなくなった人間を世間は貴族として認めてくれるだろうか?

(難しいでしょうね……)

 庶民と貴族を分け隔てているものが何なのか、アリッサ自身もまた痛いほど知り尽くしているひとりだった。もし意見を述べることが自分に許されているのなら、地虫を受け入れる他に選択肢はないと答えるだろう。けれどもそれは、シャーロナ自身がそう言ったように、一生()()()()のそしりを受けつづけることを意味する。

 いずれにしても、彼女が自分で考え、受け入れ、進んでいくしかない問題だ。

「申しわけございません。わたしには何もわかりません」

 アリッサは本心からそう答えた。結局のところ、シャーロナやカデリのような存在と自分とでは、生まれ育った環境に落差がありすぎて想像もつかない。

 カデリはちからなく笑みを浮かべると、

「……ごめんなさい、お仕事のジャマをしたわ。忘れてちょうだい。すぐに帰るけど、もう少しだけ、ここにいさせて」

 そう言ってまた窓の外に視線を移した。

 アリッサは黙ってお辞儀を返すと、その場から退いた。

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