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【プロローグ】

 2097年。

 地球は未曾有の危機に瀕していた。


 産業革命前から3.5℃上昇した気温は、南アジア、中東、サブサハラの一部を日中50℃を超える灼熱の大地へと変え、人類の生存を事実上不可能にしていた。


【水没する世界と失われる生命】

 海面は約2メートル上昇。東京湾岸、バングラデシュ、ベネズエラのデルタ地帯、オランダの沿岸都市など、かつて数億人が暮らした土地は、高潮が頻発する危険地帯へと姿を変えた。


 さらに、地下水の塩水化と激化する豪雨が、湖沼や河川の水質を急速に悪化させる。

 水温の上昇と酸素濃度の低下は、世界中の淡水域で藻類の異常繁殖を招き、魚類の大量死はもはや日常の光景となっていた。


 結果、全世界の淡水魚の約40%、およそ6000種が絶滅、あるいはそれに瀕するほど個体数を減らしていた。

 かつて多様な命を育み、美しい音と色彩に満ちていた川から、その輝きは完全に失われていたのだ。


【宇宙に託された、小さな命の希望】

 この絶望的な状況下で、壮大な夢を追い続ける一人の日本人魚類学者がいた。


 彼の名は、神崎優希かんざき ゆうき

 幼少期に母と経験したある悲劇をきっかけに、彼は淡水フグへ深い愛情を注ぎ、絶滅の危機に瀕するこの魚を宇宙で保全するという、前代未聞の計画に人生を捧げていた。


 幸運にも、宇宙ステーション「エデン」の人工重力モジュールの一つが、淡水魚の種の保存施設――通称「アクア・ドーム」として転用されることが決定する。

 そして、その舞台となるのは、奇しくも神崎の父がかつて建設に携わった居住区画「サイド3」であった。


【立ちはだかる壁と、一縷の光】

 しかし、神崎の計画は決して平坦な道ではなかった。


 国際宇宙生態系委員会(ISERC)は、淡水フグを「食料に適さず、実験価値もない」と断じ、彼の提案を一蹴。さらに、貴重な居住空間を魚のために明け渡すという決定は、宇宙で暮らす住民たちの激しい反発を招いていた。


 それでも、神崎は諦めない。

 彼が最後の希望として着目したのは、世界最小のフグ、アベニーパファー(Carinotetraodon travancoricus)だった。


 その「省スペースでの飼育と繁殖が可能」という利点を証明するため、彼は「アクア・ドーム」の若き常駐技術者、林芽衣リン・メイの協力を得て、困難な挑戦に身を投じる。


 母との約束を胸に秘め、限られた宇宙の資源で、小さな命を未来へ繋ぐために。


 これは、深い悲しみを乗り越えた一人の男の情熱が、宇宙に希望を繋いだ、実話に基づく物語フィクションである。

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