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1年1組、みんなの自己紹介が始まった。
私はメインキャラたちの自己紹介を後ろから見学している。
男子一人目は、レオニダス・オルドー王太子。この国の第2王子である。イケメンで頭が良く運動神経も抜群。一番人気ながらも攻略最難関である。
男子二人目は、モレノ・シズモンド。国一番のシズモンド商会の息子である。自分の内面や商才を褒められると好感度が上がる。意外と単純なタイプだ。
男子三人目は、オスカル・アルベルゴ。国一番の魔法使いの息子である。魔法の実力があれば好感度が上がる、魔法の実力主義タイプだ。
男子四人目は、ガイア・エザグランマ、騎士団長の息子である。運動神経抜群で剣の腕も立つ。魔物討伐イベントなどで活躍すれば好感度が上がるかと思えばそうではなく、家庭的な女性が好みと言う好感度アップに苦労するタイプだ。
男子五人目は、ジェンマ・クラウディオ。裏社会のドンの息子である。暴力や脅迫に屈しない芯の強い女性に心惹かれる意外と真っ直ぐなタイプだ。
女子一人目は、ソフィア・デルフィーノ。孤児院出身の平民。聖女の才能があり清楚な雰囲気を持った女性だ。
女子二人目は、フランチェスカ・ガスパロ。中位貴族の娘だ。見た目が華やかだが、人当たりもよく心配りの出来る女性だ。
女子三人目は、ファルファラ・ポルコスピーノ。中位貴族の娘。魔法が大好きで魔力量も多いのだが、詠唱が苦手な為初級魔法すら使えないただの魔女っ子に憧れてるだけの女性だ。
女子四人目は、クラリッサ・メッゾジョルノ。こちらも中位貴族の娘だ。料理するのが大好きな家庭的な女性だ。
女子五人目は、ルドヴィカ・クレシェンテ。下位貴族の娘だ。姐御肌で気合いも入っていて、見た目や格好もそのままヤンキーの女性だ。
いや~~さすがメインキャラたちはイケメンと美人が揃ってる。眼福眼福。
ゲームではメインキャラ10人の自己紹介で終わりだったが現実はクラス30人全員だった。まあそりゃそうか。
その後、学園内での注意事項の他に1年間に行われるイベントなどの説明が担任のピエトロ先生からなされた。
学園祭、武術大会、課外授業など、元気な身体になったからなんか楽しみだな。
無事初日のホームルームは終了し解散となった。
しかし私は大人しく帰る訳にはいかない。何故ならレオニダス王太子攻略の為には是が非でも熟しておかなければならない初日にしか発生しないイベントがあるからだ。
私はその他大勢の自己紹介の間中その事ばかり考えていた。
最難関であるレオニダス王太子攻略の為には、初日のイベントによる好感度アップは欠かせない。このイベントを逃すとレオニダス王太子攻略に手が届かなくなるのだ。
まあ、聖女の才能を持つソフィアだけはこのイベントを逃しても可能性はあるんだけどね。
私はイベント発生キャラを固定する為ソフィアさんに帰り道をおすすめして、イベントが発生する中庭へ先回りして木陰に隠れてスタンバイした。
イベント名はズバリ【傷ついた子犬】だ。
目の前の通りで子犬ちゃんが元気に虫とじゃれている………可愛い。
あれっ?子犬ちゃん元気?このイベントは傷ついた子犬よね。これから怪我をするって事かしら。
暫くぴょんぴょん跳ねる子犬ちゃんを眺めている。
やっぱり可愛い。
怪我をするところを見なきゃいけないのかしら………見てられないかも。助けちゃったらソフィアがレオニダス王太子の好感度を稼げなくなってしまうのよねぇ…………どうしましょ。
暫くすると不機嫌そうな男子学生二人が通りかかる。
「ったく!なんで俺が遅刻で怒られなきゃなんねえんだよ!」
「貴族の馬車が正門前にずっと止まってたせいだって言っても聞いちゃくれなかったしな」
「ほんと貴族ってのはムカつくぜ!」
遅刻?正門前で貴族の馬車?………聞かなかった事にしよう。
「ちっ!邪魔なんだよ!」
男子生徒は目の前をぴょんぴょん跳ねている子犬ちゃんを蹴ろうと右足を大きく振りあげた。
そんなんで蹴ったら死んじゃうじゃない!!
力が入ってつい木陰から身を乗り出してしまい、葉っぱの擦れる音がしてしまう。
右足を振り上げたままの男子学生と目が合った。
びくっ!!
男子学生の身体が縮こまって動きが止まる。
私と目が合ってビビっただと!ほっぺたがポッと赤く染まるとかだったら好感度アップだったのに失礼な奴だ!後で靴に小石を入れてやる!
「そんな体制で止まってどうした?」
「………なんでもねえよ。行くぞ」
友人の声で我に返った男子学生は、子犬ちゃんを蹴る事なくその場を立ち去った。
ふんっ、子犬ちゃんを蹴らなかったから、小石の刑は勘弁してやるか。
そこにソフィアが近づいて来るのが見え、更に距離を置いてレオニダス王太子も近づいてくる。
よし、役者は揃いそうだわ………うわっ!子犬ちゃんが怪我をしてないじゃない!どうしよう。
私がおろおろしている間にソフィアと子犬ちゃんの距離は縮まる。
そして元気に遊んでいる子犬ちゃんをほほ笑ましく眺めながらソフィアが横を通り過ぎようとする。
「危なぁぁぁぁい!!」
無我夢中で飛び出した私は子犬ちゃんに覆い被さる。
ソフィアは驚いて立ち止まる。
「えっと、オリビアさん?」
視界の奥に近づいてくるレオニダス王太子が見えている私には、悠長に話してる余裕など無い。
「この子犬ちゃんは重い病にかかってます!触れてはいけません!」
「えっ?オリビアさん触れてません?」
「離れてソフィアさん!離れて!」
「よう、どうした?」
そこにレオニダス王太子が到着。だいぶ違うがイベントは発生したのだろうか………。
疑問を持っても仕方が無い。やるっきゃないのだ!
「レオニダス王太子様。オリビアさんがこの子犬が病にかかっているとおっしゃっているのです」
「病?元気そうに見えるが」
覆い被さられている子犬ちゃんは私の顔をペロペロ舐めている。
「そんな事は有りません!ほら御覧になって下さい!」
一か八か、私は子犬ちゃんが遊んでいた虫をむんぎゅと掴み、子犬ちゃんの鼻の前でグーをする。
グーをクンクンする子犬ちゃん…………可愛い。
私は心を鬼にしてグーを一回転させると、それに合わせて子犬ちゃんも寝転がる様に一回転した。
グーを反対回りに回転させると子犬ちゃんもごろんと反対回り………やっぱり可愛い。
今はそんなことを考えてる場合じゃなかった。
「ほら!普通の子犬ちゃんはこんな動きはしませんから絶対重い病です!」
「………楽しく遊んでいる様にしか見えんがな」
「………ですね」
追いつめられた私は、グーを裏返して止める。すると子犬ちゃんもお腹を見せた状態で止まった。
「ほらほら!自然界の動物がお腹を見せた状態で止まるなど有り得ませんよ!きっと子犬ちゃんの中でもの凄い異変が起きているんです!!」
「お前に服従してる様にしか見えんがな…………どう思う?」
「さぁ………私にはなんとも」
レオニダス王太子とソフィアが顔を見合わせている。
おっ、なんかいい感じ。よし頑張ろう!
「でも大丈夫です!この病はソフィアさんなら治せる筈ですから!」
「えっ?私が??」
「はい、ソフィアさんもう回復魔法が使えますよね?!」
「えっ!どうしてそれを?確かに少しの回復魔法なら使えますが」
そう、ソフィアは簡単な回復魔法を使えるが、まだ人に言ったりしてない時期なのだ。しかし私は知っている!ソフィアは回復魔法の授業で徐々に覚醒していき大聖女にまでなる凄い才能の持ち主なのだ。
「ソフィアさんからは凄いオーラを感じます!さあ!子犬ちゃんに回復魔法をかけてあげて下さい!早くしないと死んでしまうかもしれません!」
「………普通のヒールでよろしければ」
困惑しながらもソフィアは子犬ちゃんに回復魔法をかけてくれた。
私は子犬ちゃんが白く淡い光に包まれるのに合わせてグーをひっくり返す。すると寝転がっていた子犬ちゃんがクンクンしながらすくっと起き上がる。
「おお」
「まあ」
レオニダス王太子とソフィアが顔を見あわせて微笑む。
いい感じ再び!
私は二人が見つめ合っている?瞬間に、握っていた虫を空高く放り投げる。
「そおぉぉぉぉら!」
「ワオ~~~~ン!」
虫を追いかける様に子犬ちゃんが高くジャンプした。
「おおおお!」
「あらまあ!」
「子犬ちゃんが治った~~!不治の病を一瞬で治してしまうとはさすがソフィアさん!少しでも遅れたら亡くなっていた事でしょう」
「元気に見えていたが、そんなに大変な病だったのか」
「普通のヒールの筈なんですが……」
「いえいえ普通のヒールではありませんでしたよ!ソフィアさんの持つ魔力には聖なる力が宿っているのを感じます!その力が不治の病を浄化したんでしょう!間違いなくソフィアさんは聖女となられるでしょう!いや!これ程なら大聖女間違いなしです!」
「なにっ?!ソフィアが大聖女だと?!」
レオニダス王太子のソフィアを見る目が変わった。
ソフィアはもの凄く見つめられ、俯いてもじもじし始めた。
「本当なのか!」
レオニダス王太子が私を見て確認してくる。
「ええ、控えめに言っても本当です!感じるのです!ソフィアさんから聖なる力を感じます!」
レオニダス王太子は動揺していた。
「本当に本当なんだな!」
私はトレードマークの扇子を取り出して、ビシッとソフィアを指す。
「本当の本当に本当です!占いとか予言ではなくソフィアさんの大聖女は決定事項ですわ!」
レオニダス王太子はもう一度ソフィアを見る。いや、もう目が離せなくなっているね。
ソフィアは赤くなって俯きっぱなしだ。
この二人、もうカップル成立でしょ!
実はレオニダス王太子の一番の好みは外見とか性格とかではなく聖女なのだ。だからソフィアが最適なのだ。ソフィアが聖女の才能を発揮し始めればレオニダス王太子の好感度は勝手に上がっていったりもする。だから大聖女の可能性を教えて勝手に好感度が上がり始める時期を早めたのだ。
私はソフィアが大聖女になるのを知っているのだから何の問題もない!なんなら早く覚醒するように手伝っちゃうんだから!
なんかゲームとはだいぶ違っちゃったけど、これにて今日のミッションコンプリートね!
「ふむふむ、後は若い者に任せて邪魔者は退散しましょうかねぇ」
私は頭を下げながらその場を後にした。