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鳥のさえずりと、そよ風が心地いい。
病院のベッドで寝ていた私はゆっくり目を開く。
ベッドを覆う白い天幕が風に揺れている。
綺麗………気持ちのいい朝。
視線を横に向けると窓からキラキラとした陽射しが差し込んだ清々しい景色。
ベランダに出る為だろうか大きな硝子扉が開かれカーテンがそよ風に靡いていた。
あれ?ここ病室よね?
私の名前は木村優香。小さい時から不治の病と闘うために入退院を繰り返していた。
小学校は6年間を通して一週間も行ってない。中学校は入学式に参加しただけで、3年間の授業は全てリモートだった。
高校の入学式に行く筈の朝、激しい痛みと伴に私は意識を失った………と思う、覚えているのはそこまでだ。
だからここは病院の豪華な集中治療室…………な訳ないか。
もう一度周りに視線を巡らすが、医療機器なんて何も無い。
お姫様の部屋にしか見えない。
何処か特別な病院?こんなVIPな個室がある病院って凄く高そう。
トン、トン。
部屋の扉がノックされた。
自分の置かれている状況が分からず返事すら返せないで居ると、「失礼します」と声がして女の人が入ってきた。
看護師さんじゃ無くて、メイドさん??
コスプレのように着られているんじゃなくてエレガントに着こなしていた。
少ししか歩いてないが、その立ち居振る舞いは優雅でとても美しかった。
見とれていたら目が合った。
あれ?何処かで見たことあるぞ?
「おはようございますオリビア様。お返事がございませんでしたのでまだお休みされているのかと」
オリビア様?
後ろを見てみるが私しか居ない。
もう一度メイドさんを見ると、私をジッと見ていた。
「えっ、私??」
メイドさんはため息をついた。
「はぁ…………正解ですオリビア様。まさか学園に行きたくないが為に私じゃないとおっしゃりたいのですか?」
「オリビア様?学園?」
「はい、オルドー学園です。15歳となったオリビア様は通う必要があります」
オリビア様、オルドー学園、全部聞いた事がある。確か…………恋愛ゲーム?………あっ!悪役令嬢の名前がオリビアだ。そして付き添っていたメイドさんが…………。
もう一度メイドさんをよく見る。
うん、間違いない。
私はベッドの上にガバッと上半身を起こしてビシッと指を差す。
「マリアンヌ!!」
「はしたないですオリビア様」
うおっ!身体が軽い!
長い入院生活で上半身を起こすのもやっとだった自分を思い出す。
「何この身体!すっごく軽いわ!!」
メイドのマリアンヌがジト目で見てくる。
「それは何よりです。学園に行けますねオリビア様」
マリアンヌなどそっちのけで、ベッドを降りて立ってみる。
「おおおっ!余裕で立ててる!ほいっ!ほいっ!ほいっ!!ぬおぉおおお!」
片足でぴょんぴょん跳ねたりして涙目で喜んでいる私を見て、呆れたマリアンヌは、自分の仕事をする事にしたようだ。
「時間がありませんので早々にお着替えを済ませてしまいましょうオリビア様」
私の感動などお構いなしにマリアンヌに着替えさせられる。
今の軽い身体なら自分で着替えられそうだけど、素敵なマリアンヌに手伝ってもらうのも悪くない。
両手を万歳したり片足ずつ上げたりして幼稚園児の様に着替えさせてもらいながら、ふとマリアンヌを見つめる。
「どうされました?オリビア様」
きっとこれは夢だ。ゲームの世界の夢を見ているんだろうけどめっちゃ現実感あるわ。
両手でマリアンヌの頬に触れてみる。
「!?」
「綺麗…………それに温かいわ」
マリアンヌの目が見開き頬が赤くなる。
「オッ、オリビア様?!?」
「綺麗だからつい触っちゃった。ごめんなさいねマリアンヌ」
目をぱちくりさせていたマリアンヌは、赤い顔のままテキパキと着替えを済ませてくれた。
そして違う部屋に案内されると朝食が待っていた。
「美味しいわマリアンヌ!!人生で最高の味よ!」
病院食しか食べられなかった私にとって感動の味だった。
気を利かせたのかマリアンヌが料理長を呼んでくれた。
「とてつもなく美味しいわよ料理長!ありがとう!!貴方は世界一よ!」
「これ程喜んで頂けるなんて、精進してきた甲斐がありました。うぐっ……」
全力で褒められて、料理長は感極まっていた。
お腹いっぱいの苦しさに現実感が高まる。
学園に行く為に玄関を出ると、外には豪華な馬車が待っていた。
「おおっ!シンデレ〇が乗るやつだわ!」
執事っぽい人が乗るのをサポートしてくれた。ロマンスグレーの素敵なおじ様って感じ。
段差があって寝たきりだった私は無意識に構えていたが無事に乗れた。なんなら一人で階段無しでも飛び乗れたと思う。
「ふっふっふっ!楽勝だわ!でもありがとね執事の人」
ゲーム内ではNPCのサポート役で名前なんて無かったから知らなくてごめんね。
声をかけられて嬉しそうな執事っぽい人。
「恐縮にございますオリビア様。セバスチャンと申します」
初めてじゃない筈なのに私が名前を覚えて無いっぽいのをおこらずに名乗ってくれた。優しいなぁ。
「もっもちろん知ってわよセバスチャン!ありがとねセバスチャン!ってすっごい豪邸があるわ!!」
馬車の窓から乗り出してセバスチャンの後ろに見えた豪邸を指差す。
「はしたないですオリビア様」
後から乗ってきたマリアンヌが苦言を呈する。
「もしかしてこれが私の家!?!」
「………はいオリビア様」
「すっげえぇぇぇ!!直ぐ帰って来るからねセバスチャ~ン!」
進み出した馬車の窓から手を振る私。
「はしたないですオリビア様。それに学園から直ぐに帰って来てはダメです」
優しいセバスチャンは微笑みながら手を振り返してくれていた。




