よだっさん
親戚の子から聞いた噂…「よだっさん」について語ろう。
スマホなどが主流であるいまの若い人には馴染みがないと思うが、昔はあちこちに「公衆電話」があった。
道端や各施設などに電話ボックスや専用ブースが設けられ、誰でも気軽に外から電話をかけることができる。
携帯電話が無かった時代、重宝されたものだった。
が、その後の携帯電話の普及により、その利用回数は2002年に11億8000万回あったものの、2019年には4000万回へと減少してしまったそうだ。
時代の流れなので無理からぬことだが、私などは街角にポツンと佇むその姿に哀愁すら感じてしまう。
さて、私が聞いたその噂は、公衆電話全盛の頃に、親戚の子が住む地元で囁かれたものである。
その子の地元も片田舎だったが、ちゃんとあちこちに公衆電話と電話ボックスは設置されていた。
まあ、利用者はというと、さほどいなかったようで、たまに緊急の用事で駆け込む地元の人がいるだけだった。
その一つが設置されたのは地元の青年館の隣り。
地元のメインストリートからも外れた場所であり、余計に利用者は少ない。
しかも、青年館は無住職の寺の境内にあり、裏手は墓地だ。
決して夜などには通りたくないロケーションである。
噂はこの電話ボックスにまつわるものだった。
その内容はこうだ。
①深夜0時51分に、この電話ボックスを訪れる。その時の服装はなるべく白いものにする。
②電話ボックスを開け、閉める時に必ず北東を向き、ドアを締め切らず少しだけ開けておく。
③受話器を上げる前に、電話の上に「〇〇〇」と書いた紙を置く。
※残念ながら書く文言は親戚の子に聞いたが、もう忘れたらしい。
④10円玉硬貨を6枚投入する。ただしこの時、硬貨は表を左側にして入れること。
⑤番号「#」「4」「0」「2」「3」を押す。
⑥コール音が4回鳴ったら、急いで受話器を置く。
⑦電話に置いた紙の上に戻ってきた10円玉硬貨を置く。ただし、全部裏側にして置くこと。
⑧電話ボックスを出る時は、必ず南西を向く。
⑨その後、一週間はその電話ボックスで行ってはいけない。身代わりに何としても誰か(おすすめは「密かに憎んでる相手」)を電話ボックスに向かわせ、硬貨と紙を回収させること。
⑩すると、その相手はひと月以内に必ず怪奇現象に遭遇する。誰も向かわせることができなかった場合は、自分が怪奇現象に見舞われる。
以上である。
降霊儀式「こっくりさん」にも似たこのけったいな噂…「よだっさん」は、当時そこそこ広まり、よそからも試しに来た連中がいたらしく、近所の住民は苦い顔で電話ボックスに溜まった硬貨や紙を始末していたらしい。
とはいえ、噂とは一過性のものなので、程なくして元の静けさがもどったという。
私は、今年のGWに久し振りに出会ったその親戚の子と「よだっさん」の話をした。
その時にいくつか気付いたことがあった。
①深夜0時51分 ⇒ 「霊来い」の充て数字
②電話ボックスに入る時に北東を向く ⇒ 鬼門の方角
③6枚の10円玉 ⇒ 死人に持たせる冥銭。三途の川を渡るための渡し賃
④番号「#」「4」「0」「2」「3」 ⇒ たぶん「よ(4)だ(0)っ(2=ツー)さん(3)」の充て数字
⑤電話ボックスを出る時に南西を向く ⇒ 裏鬼門の方角
⑥「よだっさん」の由来 ⇒ 「(身の毛も)よだつ」?「世立つ(この世を後にする)」?「与奪」?
これも二人の推測だが、どうもこの「よだっさん」では電話ボックスを棺桶を見立てて行う儀式のような気がする。
あと「よだっさん」の経験者(犠牲者)で、実際に怪奇現象が起きたかどうかだが、これは親戚の子から聞くことができた。
それによると、実際に怪奇現象に見舞われた人は…聞いた限りでは「100%」だったらしい。
ただ、この電話ボックスは今はもう撤去されてしまったという。
そういう意味では「よだっさん」は「絶滅した怪異」なのだろう。
それともまだ、日本の何処かには…