べ、別に御社なんか第一志望じゃないんだからね!!
最近の学生は個性や多様性の意味をはき違えている人が多い。奇抜な恰好や変わった性格は個性として尊重すべきだが、TPOをわきまえるべきだ。
これまでの就活生の中には面接という場であるのに、サキュバスのコスプレをしてきたり、ラップで自己紹介や志望動機を話したりする就活生もいて、門前払いしたくなった。だがそういった面は就活生の一部でしかなく、その一点だけで判断してしまうのもよくない。限られた時間ではあるが、その人の本質を見抜かなければならない。
そろそろ今日の面接が始まる。
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
入ってきたのは金髪ツインテールでややつり目の少女だった。正直、面接において不適切な髪型だが、金髪については両親の遺伝かもしれないし、見た目だけで判断してしまうのは良くないから、これ以上考えないことにした。
「自己紹介をお願いします」
「早慶大学3年法学部の紡照子です。よろしくお願いします」
紡さんはきれいなソプラノ声ではきはきと自己紹介をした。見た目は少し派手だが真面目そうな人だと思った。
「よろしくお願いします。では、まず志望動機について教えてください」
「私は、幅広い使い方でお客様から愛されている、御社のバリエーション豊かな化粧商品に魅力を感じており、その魅力を実際にお客様にお伝えする営業の仕事で尽力したいと思い、御社への入社を志望しております」
ちゃんと考えられた志望動機だ。声の大きさや話すスピード、目線も完璧だ。面接を受ける学生の中には当然聞かれるような質問の準備もしてこないと考えられる人も多くいるが、紡さんは大丈夫そうだ。ただ、少しテンプレートで使いまわしている感じがするのが気になる。
「志望動機についてですが、他社でも同じような文言を使いまわしていますか?」
意地悪な質問だがどう答えるのか気になる。
「あなたがそう感じたのならそう解釈してもらっても構いません」
紡さんは少し棘のある答え方をした。
「すいません、怒らせてしまったようですね。紡さんの志望動機の内容や話し方、目線が優れていたので、つい意地悪な質問をしてしまいました」
「なっ……! べ、別に御社のために準備したわけじゃないんですからね!」
紡さんは少し顔を赤らめ、目線を下げてもじもじした後に、俺の目を見てはっきり言った。
なんか動揺し始めたぞ。
「弊社で働く意思はないということですか?」
「そんなことはないです。言葉以上の意味はないです。とにかく次の質問に行ってください」
「学生時代に力を入れたことは何ですか?」
「カフェのアルバイトです。複数回来店された方の顔を覚え、コーヒーや料理の好みをまとめて従業員全員で共有しました。提供の効率化とお客様に愛されることに成功しました。
また、ひざ掛けや荷物かごの準備、新商品の紹介により新規のお客様にもまた来たいと思ってもらえるように努力しました。その成果が認められ、本社から表彰されました。お客様一人一人に合った対応をすることができるので、御社の営業でも貢献できます」
なるほど、お客様一人一人と丁寧に向き合うことは単純なことだが、続けることは難しい。
「お客様のために色々な工夫をしたのですね。丁寧な接客を続けることは大変だと思いますがなにをやりがいにしていましたか?」
「それは見当違いですね。お客様のためではなく、自分のためにやっていました。お客様が笑顔で食事をしているのを見たり、ありがとうなどの温かい言葉をいただいたりして、自分も嬉しくなったりとか全然ないです」
紡さんは口ではそう言っているが、きっと今までのエピソードを思い出しているのだろう。頬が緩んでいる。
この後、長所や短所、10年後の理想の自分、苦手なタイプの人との接し方などの質問をした。限られた時間ではあったが、紡さんの真面目さや熱意は伝わってきた。そして、紡さんがツンデレであることも伝わった。そろそろ最後の質問にしよう。
「それでは最後の質問になります。紡さんにとって弊社は第何志望ですか?」
「か、勘違いしないでよね! 御社が第一志望とかじゃないんだからね!」
紡さんは耳まで真っ赤にしながら答えた。第一志望かどうかなんて聞いてないのに。ツンデレであることがわかれば逆に素直な人だと考えられる。
「ありがとうございます。面接はこれで終了です。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
紡さんはきれいにお辞儀をした後に退出した。
さて、今日の面接結果を報告しよう。
「もしもし、紡さんのお電話でよろしいでしょうか?」
「はい」
「本日面接を担当させていただいた古川です。紡さんは採用です」
「ありがとうございます!」
採用の連絡を入れると、素直に嬉しそうにお礼を述べた。
素直にお礼を言われたことが逆に恥ずかしくて少し俺は返答の仕方を間違えてしまった。
「勘違いしないでほしいですね。別に俺が紡さんと働きたいと思ったわけじゃないんですからね!」
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