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可哀想なんかじゃない

作者: 巽 由佳

主人公は生きることを選んだ。

だが世の中に死を選ぶ人もいる。

世の中に飛び交う可哀想と言う言葉

軽々しく使っていないですか?

きっとあなたのまわりにも可哀想と思っても

よく考えたら可哀想じゃない事が

隠れているはず

私は今朝リビングでコーヒーを飲んでいた。

苦いコーヒーは飲めずインスタントの甘めのコーヒーだ。猫舌の私は冷たい牛乳を入れて

少し緩くする。

そして毎日たわいのないニュースが音楽のようにながれてくる。昨日あった出来事、最近の流行りを興味もなそうな顔でアナウンサーが歌っている。

それを興味のなさそうな顔で聞くのが日課だ。


母は朝から私に、あら?遅い起床ですね〜などと言い、横で掃除機かけ終えていた。お母さんはもう掃除機までしました!などとまた小言をいいコンセントを戻している。

私はいつもそれを聞こえないふりをするのだ


でもそんな時テレビが話しかけててきた


「今朝、東京都30代女性がマンションの17階から転倒し、午前6時頃、ゴミを出しをしていた住民が発見し、死亡を確認。部屋には遺書等はないが、警察は自殺と見ている。以前交際していた男性と別れたがきっかけではないかとのことだ。」


母はコードを戻す手を止めて、こう呟いた。


「あら…まだ若いのに、生きていたらいいことも沢山あるのに…可哀想にねぇ〜」


自分の子でもないのに神妙な面持ちで母は言った。

でも私はそれを聞いて本当に可哀想かどうか、なぜわかるの?いいこと沢山ないから飛び降りたんじゃないの?などとひねくれた回答が頭をよぎったが、言わなかった。めんどくさいからだ。


だが耳から離れない音楽のサビのようにこのニュースだけが私の中へ入ってきたのだ。

歳が近いからだろうか?

寝ぼけた思考回路は考える事をやめて

だまってもう冷たくなったコーヒーを飲み干した。


今日は定期的に通っている病院の予定だ。なので早めに支度をしなさいとまた、母の小言が飛び交う。

私はめんどくさそうに返事をし、病院なんてどんな格好でもいいと思い、寒くない程度の物を着、病人に見えない程度の化粧を済ませる。どうでもいい靴を履く。母がいってらっしゃいと可哀想な娘を見る目で言う。

あの目が私は嫌いだ。いってきますと振り向かず、身なりなんて見ることすらせず家を出た。


私が通う病院はそう遠くはないので、天気もいいし自転車で行く事に決めた。私は自転車に跨り、その足をゆっくりと進めた。

すっかり外は春で、春匂いがした。

だか少し肌寒い。服間違えたかな?そんな事を思いながら自転車を走らせる足を早めた。

10時半の予約ギリギリだ。


交差点に差し掛かり、赤信号だ。

あ、ここ信号長いんだよな〜と信号機をみる。

その信号機の向こう側には20階はあるだろう高層マンションがあった。

すると音楽が流れたかのように、今朝のニュースをふと思い出した。

17階…17階…あ、あんなに高いのか〜

そう思った瞬間信号が青に変わり自転車を漕ぎ出した。

知っている子でもないに、なぜかわからないが、飛び降りる時どんな気持ちだったんだろう?そう思った。


そう考えているうちに病院についた。田舎町の唯一大きい病院だ。お年寄りが沢山朝早くから来たのであろう。内科は座るところがないくらいだ。

私はたくさんの高齢者を横目に二階へ上がった。二階の一番角。


「精神科」


私が行くのはここだ。受付をして静かなフロアにある冷たいソファに腰をかける。

ふーっと息を吐いて落ち着かせた。


2年前、先生いわく私は心が壊れたらしい。

そう、丁度2年前私は、6年付き合った彼と結婚し、今は離婚調停中だ。離婚理由は沢山あるが、だだあの時、いつもどこか完璧でいないといけない。いい嫁でいなくてはならない。義理のお母さんのようにいなくてはならない。潔癖症の夫のため常に綺麗でなければならない。ごはんも不味いものはだせない。

そんな色んな気持ちに押しつぶされそうだった。プレッシャーっていう奴がまるで槍のように降ってきたことだけは覚えてる。

そして彼は心が壊れた私は理想の嫁とは程遠くボロボロな私より、離婚の話でごたついて、なぜか体調をくずした義理母。つまり自分の母親が心配だと言い離婚を告げられた。

そしてついに私は糸が切れたように、プツンと壊れてしまったのだ。


冷たいソファーがやんわり暖かくなった頃

先生に呼ばれ、深呼吸をし中に入る。

すると疲れ切った顔の先生がこんにちは〜と挨拶をしてきた。

私は先生の顔をみながらこわにちは。と言う。ずっと人の不満や不幸話を聞くとそりゃこうなるか〜なんで思ったが、でもこの先生の疲れた顔や、このくるくると回る椅子、この空間がやっぱり嫌いだ。


「えーと最近はどうですか?」

先生の一発目のお決まりのセリフ。

最近はどうって逆にどうなのか見て欲しくてきたんだけど。なんてまたひねくれた回答が頭をよぎる。

でもそう思いながらも、最近あった出来事を言う。旦那との離婚の進行状況、体調、睡眠障害、自傷行為。

先生はまた切ったの?腕を見せて?と言う

私は数十ヶ所ある傷跡に新しくつけた傷を見せる。今回はどうしてしたの?と、先生が問う。私はいつもすぐ言う「生きたいから」

すると先生は何も言わず、エスカレートしないなら切ってもいいと言うのだ。

私は生きたいから切る。腕を切るとなんだかリセットした気になれるのだ。まわりはバカじゃないかと思うだろう。

だからここに来ている。周りと違うからだ。


でも先生はこう言う。

死んではいけないけど、腕は切ってもいい、エスカレートしなければっと。

でもこの時の先生の顔はどこか私を可哀想な子のような目で見ている。あーこの顔だ。


数十分で終わったが、嫌な事を話すのは高校の時の持久走くらい疲れる。

ため息が何度も出た。


いつも通り次の予約を取りお会計をし

薬局で数十個の薬をもらう。

こんな粒を毎日何錠も飲んで治るのか?と思うのと同時に、あと何回ここにくればいんだ。そう思うとますます嫌になる。またため息がはぁーとでる。


帰り道疲れたのもあって、さっさと来た時と同じルートで帰ると、また同じ交差点でひっかかった。また赤か〜と同時にあの高層マンションの17階を探す。

あ〜あそこにいけばあの子の気持ちがわかるのではないかとふとなぜか、あの子の気持ちを知りたくなった。

自転車は気づいたらマンションに向かっていた。


オートロックは付いていたが修理中で中に入れてしまった。不法侵入にならないかキョロキョロしながらエレベーターを呼び17階のボタンを押す。

さほど古くもないマンションだ。

高所恐怖症の私からしたら17階に住む人の気がしれない。

よく住めるな〜と思い上へ上へと向かう。

チーンという音と共にドアがゆっくり開く。


17階だ。


おそるおそるでると、そこには真っ青な空があった。雲ひとつなく淡い水色の空。

小さな一軒家がずらっとならんでおり、人間が米粒みたいに見えた。

少しだけ優越感に浸れた。世界が小さくも広く見えた。


その瞬間あのニュースの子はこの景色を見て死んでしまったのなら可哀想な子ではなく、

この風景に見惚れて飛んでいってしまったのではないかとも思うくらい。綺麗だった


「可哀想」

なぜ母はそう言ったのだろう。

この景色、この空気、この優越感をしらずして。


どうして世の中可哀想が付き纏うんだろう。

私は腕に傷があるから可哀想なんだろうか?

離婚をつげられたから可哀想なんだろうか?

青空に見惚れて死んだあの子は可哀想なんだろうか。あの子の本当はわからないけれど。

きっと可哀想なんかじゃない。そう思いたくなる。


なんて、17階でそうな風に思って眺めていると、ここに住むマンションの方だろう。30代後半くらいの綺麗なお姉さんが上がっきた。

こんにちは。と言われて私は目を合わさず

こんにちは。といった。


するとお姉さんはこう言った

「綺麗ですよね。この景色」

私はもう一度、空と街を見て少し間が空いて

「…そうですね」と、返した

お姉さんは私にニコリと笑ってみせた。

青空をバックに笑うお姉さんはとても綺麗で

何も言えなかった。


「では…」


そう言って部屋に戻ったお姉さんを見て私も自転車に乗り家路に戻る。



数ヶ月

リビングでまたインスタントコーヒーを冷たい牛乳で冷まし飲み始めた頃、

母が「この近で飛び降りあったらしいよ〜可哀想に」

と、私に言ってきた。

私はまた可哀想だ、はぁーっとため息をつき

ぬるいコーヒーを飲むと

母が、みてこれこれ!と、テレビを指した。


すると、私が登ったあのマンションだ


アナウンサーが現場中継している


「こちら現場です。東京都にお住まいの〇〇さん(37歳)は、こちらのマンションの17階から飛び降り、頭部をぶつけて倒れているところを同じマンションの住民の方がが発見し、救急車をよんだところ死亡が確認されました。なを事件性はないと警察はみており、自殺とみてよいかとの話であります。人通りの多いところではあります。くれぐれも気をつけください。

現場からは以上です。」


それに対して売れっ子の若い元アイドルの女の子がウルウルとした目で事件に対してコメントし始める。


「最近自殺される方が多いと思うです。どうにかして止める事はできないんでしょうかね?あなたが死んだら悲しむ人がいるって事をちゃんとわかってほしいし、誰にでもいいから相談して、今ほら相談窓口もあるんだし、勇気を出して相談してほしい!最悪な事になる前に!ほんと…可哀想に…いたたまれないです」


20代前半の若い元アイドルがそう言った


私は根拠はないがあの時のお姉さんだと思った。何があったかわからない。

けれどわかることがある。

この元アイドル女の子はあの景色を知らないし、

あの「綺麗ですよね。この景色」と言って

青空をバックに笑いかけてくれたお姉さんは

確かに綺麗で、ちっとも


可哀想なんかじゃなかったと。


誰だって可哀想じゃない。

きっと今辛くて泣き出しそうな人だって

きっと今死を覚悟した人だって

生きたくても生きれなかった人だって

可哀想じゃないんだ。


ただ必死に生きて終えて行っただけなんだと…


可哀想なんかじゃない。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

まだまだ文面等、下手分分がありわかりにくいところがあるかと思いますが、少しでも考えてまた明日から人生の選択肢をして行っていた抱けたらと思います!

ありがとうございました。

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