【男の娘049】アカネと牧場防衛
そんなことを考えている場合でないのはわかっているつもりなんだけど、なにしろ初めての体験である。どうしてもそっちの方に考えが向いてしまう。
うう~~っ、マッシュ兄さんは真剣に走っているから、きっと、私の感触なんて気にしてないよね。
なにやらマッシュ兄さんがもぞもぞとなにかを喋っている。走っているので、風の音で聴きづらい。そして、喋り終わったかと思うと、後方から風が吹き、マッシュ兄さんの走りを後押しして、さらにスピードが上がった。
いや~~~こわい~~、はやいよ~~。それに上下運動が激しくて気持悪いよ。
大分走ってようやく、小屋らしきものが見えてきた。近づくにつれて、狼の鳴き声や、武器の音、人々や動物のうめき声が聞こえてきた。
段々怖くなって、足や手が震えてくる。
怖い。命の取り合いが行われている惨状に来てしまったんだ。マッシュ兄さんの背中にいるから、怖いは怖いけど、安心できる。
マッシュ兄さんも私の手が震えているのを感じているのか、走っているにもかかわらず、ポンポンと私の手を叩いてくれる。マッシュ兄さんって、優しい。こんなに緊迫した状況なのにそれでも私のことに気を遣って安心させてくれる。
私もビビッてる場合じゃないよね。私が動けないと、マッシュ兄さんも私を守るために私のそばから離れることは出来ない。ただの騒動を見に来た野次馬になってしまう。前に一歩足を踏み出すんだよアカネ。ファイトー。
そうこう考えているうちに牧場に到着した。
「さぁ、アカネ到着したよ」
と言ってマッシュ兄さんは、しゃがんで私を降ろしてくれた。私はゆっくりと、マッシュ兄さんに掴まり乍ら降りた。
少し安心した。とは言っても、まだまだ足が震えているんだよ。
「マッシュ兄さん、ありがとう。」
降りてから辺りを見渡すと、お父さんや知らない人、そして、グラファンさんやペレストさんらしき人が仲間たちと共に戦っている。というか、あたり一面に狼がいるのはなんでだろう?多すぎやしないか?せいぜい10匹ほどだと思っていてのだが、とてもそれではきかない数だ。30匹以上はいる。中でもとりわけ大きいガタイの狼をペレストさんとグラファンさんが挟撃して対応している。お父様は狼2匹を相手に立ち合っている。武器は農具だ。鍬や斧、三又の鍬、鎌で応戦している。
うん、まさかそんな戦闘とは露ほどにも思ってなかったよ。中世だよ中世、せめて剣や槍じゃなかろうか。でもま~、牧場にそんな武器が置いてあるはずもないか。
マッシュ兄さんは手に小さいハンマーを持っていた。どうも養蜂箱を作るのに使っていたやつを持ってきたみたいだ。でも、リーチが短すぎるよ。
「アカネ。僕はここで君を守りながら、父さんやグラファンさんたちを魔法で援護する。アカネは周囲の状況を見ていて、敵が接近してきたら教えてくれ。」
「うん、わかったよ。私も怖いけど、出来ることをやってみるよ。」
マッシュ兄さんはそう言って、風や火の魔法を使って、援護をし始めた。私は周囲を見回しながら、何が出来るかを考えた。こういう群れのボスが率いている時って、大概、雑魚をいくら倒しても形勢は変わらないんだよね。ボスを倒した時は、群れは散り散りになって退散するのが鉄則だ。
よし、私も魔法で援護しよう。お父様には魔法の使用を禁止されているけど、そんな場合じゃないよ。この場面で、人や動物の命を守るために使えない魔法なんて、なんの価値もないよ。魔法がばれたらばれた時だ。お父様には多分叱られるだろうけど、それで命が一つだけでも助けられるなら安いものだよ。その後の面倒事はとりあえず、隣にポポイのポイだよ。
「あっ、ペレストさんが体勢を崩していて危ないよ。」
『彼の者の時を縛れ、遅延』」
これで大狼の動きがゆっくりになった。飛びかかっているのに、スロウになるとなんとも滑稽だ。どうやって空中浮遊しているのだろう。
ペレストさんも何が起きたかわからず驚いているが、とりあえず転がって体勢を立て直している。その間にグラファンさんが風の刃で大狼に無数の傷を負わせている。
グラファンさんとペレストさんなら、これでもう大狼相手に負けることはないだろう。遅延の効果時間はわからないが、その間に致命傷を負わせることは出来るはずだ。おっと、今度はお父様の分が悪い。いつの間にか狼が3匹に増えている。
これはまずい。
『彼の物の時間を早めよ。加速』
あっ、放った後に気付いた。確か魔法って一度に二つの魔法は使えなかったよね。あちゃ~~と、お父様の方を見てみると、動きがさっきよりも格段に早くなっている。どうやら魔法はちゃんとかかっているようである。
なんで?前は確かに使えなかったのに?
でもいいや、魔法が使えるんならまだまだ出来ることがあるかもしれない。一気に優勢に持って行こう。マッシュ兄さんにも
『彼の物の時間を早めよ。加速』
魔法自体の速度は変わらないが、発動までにかかる時間や周囲を観察する時間が早くなれば援護も楽になるからね。
「ボス狼、打ち取ったり!!」
ペレストさんが大狼の首を刈り取ったようで、その首をみんなが見えるように上にあげて勝鬨を上げた。




