千本木さんと二人で心理テストをやって、とある問題でお互いの名前を挙げたら、その答えが「それはあなたの好きな人です」だった!?
「ねえねえ畠中くん、これ面白そうだからやってみない?」
「ん?」
とある昼休み。
今日も千本木さんと二人で、校舎裏のベンチで弁当を食べていると、不意に千本木さんがスマホの画面を見せてきた。
いつの間にか千本木さんは弁当を食べ終えている。
結構な量があったのに、相変わらず食べるのが早い。
その割にはスレンダーな体型をしているし、いったいカロリーはどこに消えているのだろう?
スマホの画面には、『無料心理テスト』という文字が表示されていた。
「へえ、心理テストか、確かに面白そうだね」
「じゃあ早速やってみよー。えーと、何何、『あなたは雪山で一人遭難してしまいました。ですが、偶然見付けた洞穴に入ると、そこにはあなたの知り合いがいました。それは誰でしょう?』だって」
「うーん、知り合いかあ」
この時、パッと俺の頭に浮かんだのは――。
「俺のじいちゃんかなあ」
「私は、妹かな」
ああ、千本木さんは中学生の妹さんがいるって言ってたもんね。
「では答えを発表します。『それはあなたが一番信頼している人物です』だって」
「ああ、それ合ってるわ。俺のじいちゃんメッチャ物知りでさ、困ったことがあった時は、まずじいちゃんに相談することにしてんだ」
「へえ、畠中くんのおじいちゃんカッコイイね! 私も合ってるな。私の妹はね、私と違って凄くしっかりしてて、頼りになるの。むしろ妹のほうがお姉ちゃんみたいだねってよく言われる。ハハ」
「そうなんだ」
妹さんの話をする千本木さんは、とても嬉しそうだ。
妹さんのことが本当に好きなんだな。
美しき姉妹愛――微笑ましい。
「じゃあ次の問題いくね。えーと、『あなたは弓矢で的を狙っています。その的にはある人物の名前が書かれています。その人物とは?』だってさ」
「的に名前かあ」
うーん、そうだなぁ――。
「俺は……千本木さんかな」
「あっ、奇遇だねー。私も畠中くんだったよ。ハハ」
ほほう。
てことは、答えは『仲のいい人物』とかかな?
「答えは何かなー。…………えっ」
「?」
途端、スマホの画面を見つめる千本木さんの顔が、耳まで真っ赤になった。
おや? 千本木さん?
「どうかした?」
「あ、うーん、こ、答えはね、『それはあなたの好きな人です』……だって」
「――!!」
なっ!!?
「ふ、ふーん。まあ、これはあくまで心理テストだしね」
「そっ、そうだよね! あくまで心理テストだもんね! ハハ」
あまりにも気まずいので、お互い何となく目を逸らしてしまう。
クソッ、全身から変な汗が出てきた……!
千本木さんから臭いって思われたらどうしよう……!
ここは話を逸らさねば。
「あ、他にはどんな心理テストがあるの?」
「あ、うん、じゃあ次の問題いってみるね!」
真っ赤になった耳を掻き上げながら、スマホの画面に目を移す千本木さん。
よし、上手く逸らせたぜ。
「えーと、何何、『あなたは長い一人旅の果て、一軒の民家に辿り着きました。その民家には、とある人物が一人で住んでいました。その人物とは?』だそうです」
「民家に一人で……」
パッと頭に浮かんだ人物の名前を、言っていいものかどうか一瞬躊躇したが、ここで下手に噓をつくのも、逆に意識してるみたいで恥ずかしいもんな。
正直に言おう。
「俺は……千本木さんだよ」
「わ、私も……畠中くん、かな。ハハ」
「――!」
またしても……!
どうか今回は、変な答えじゃありませんように……!
「答えは、何だった?」
「え、えーっとね……。ひゃあっ!?」
「千本木さん!?」
千本木さんはさっき以上に顔を紅潮させ、頭から湯気を噴き出してしまった。
今度はいったい何がッ!?
「……千本木さん?」
「あ、うん、ゴメンね! えーと、こ、答えはね、『それはあなたが将来結婚したいと思っている人です』だって……」
「けっ……!?」
えーーー!?!?!?
「そ、そそそ、そうなんだあ」
「い、いやあ、まさかまさかだよねー。ハハ」
くうううううう、メッチャ恥ずかしいいいいいい!!!
もう千本木さんの顔、まともに見れねーよッ!
話題を……!
話題を変えなきゃ……!!
「よ、よし、大分温まってきたね! この流れで、じゃんじゃん次の問題いってみよう!」
「そ、そうだね! うん! 次いくね、次!」
自分でも何言ってるのかよくわかってないけど、テンパってるのは千本木さんも同じみたいで、目をぐるぐるさせながらスマホの画面に目線を戻した。
セフセフ。
「次の問題が最後みたい。えーと、『あなたは森の奥で、イチゴが栽培されているビニールハウスを見付けました。そのビニールハウスには、所有者の名前が書かれています。その名前とは?』だって」
「イチゴのビニールハウス……」
何だか嫌な予感がプンプンするが、かといってやはり噓をつくのは気が引ける。
覚悟を決めて、正直に言うか……。
「俺は……千本木さん、です」
「私も……畠中くん、ですね。ハハ」
何でお互い敬語になってるんだろう……。
「して、その心は?」
そして何で俺は武士みたいな話し方になってるんだろう……。
「はい、えーと、その心はですね……。あぁ……」
「……!?」
遂に千本木さんは諦観の籠った表情で、天を仰いだ。
千本木さん……!?
「……発表します」
「は、はい、よろしくお願いします」
くう!
静まれ俺の心臓ッ!
「答えは、『それはあなたが今、キスをしたいと思っている人物です』だそうです」
「キッ……!!」
そっ……ッッ。
そうきたかァ~~~ッッッ。
……これはもういい加減、自分の気持ちを認めるしかないみたいだな。
俺の千本木さんに対する、この気持ちを――。
「……どうする?」
「え? ――!!」
その時だった。
千本木さんが俺の手に、そっと自らの手を重ねてきた。
千本木さんッ!!?
そして千本木さんはボソッと、こう言った。
「キス、してみる?」