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第5話 大魔導士 真田美月

 真田美月も美陽と同じ十七歳。五月の誕生日には十八歳になる。

 一応、戸籍上は美陽の方が姉ということになっているが、二人の間にどちらが姉か妹かという認識はない。さらには両親や大地も同様の認識だった。体裁上、真田姉妹と呼ばれることはあっても、あくまで双子であってどちらが上とは考えていない。

 

 美陽とは一卵性の双子なだけあって、外見は全くと言っていいほど同じ姿をしている。小学校に上がる前は実の両親ですら、間違えてしまうこともあるくらいにそっくりだった。――大地だけは、なぜか間違えることなく双子の区別がついていた――。

 小学校高学年になったあたりから、はっきりと性格の違いが出始めて、朗らかな美陽に対して、美月はお淑やかな面が強く出るようになっていった。

 外見はそっくりなのだが、周囲に与える印象はかなり違って見えた。この頃になるともう、二人を見間違える者はいなくなっていた。


 中学校に上がったあたりから優雅な所作を身に着けていき、卒業する頃にはすっかり板についていた。高校生になると、その凛とした佇まいに、街ですれ違う人たちが男女を問わず、必ず振り返るほどにまでなっていた。

 近所の人たちも、「まさに『立てば芍薬座れば牡丹』ってのは、ああいうのを言うんだな」と評していた。



 学業の方も成績優秀で、大地曰く「理論派の天才」であると。

 論理的思考で物事の骨子を掴むのを得意とし、そこからさらに応用発展させていくので、理解が早くて深い。感覚派の天才である美陽とは対照的であった。



 その才は学業だけではなく、運動の方にも活かされて、どう身体を動かせばどういう結果が得られるか、ということを常に意識しているので、上達が早かった。

 しかし、あまり運動には興味が無いので、やはり特定の部活に入ることはなく、美陽と違って助っ人として参加するということも無かった。活躍の場は体育の授業か、校内で行われる球技大会程度であった。

 それでも、美陽とはほぼ互角で、美陽と対戦することになれば、団体競技の場合は他のメンバー次第。個人競技であれば、勝敗は時の運レベルでの互角の成績であった。


  クールビューティでははあるが、周囲に対しては常に穏やかで優しく接していた。名前の通り、美しい月のようだと、誰もが賛美していた。


 当然ながら、そんな美月に対しても、告白する者が後を絶たなかった。そして美月も美陽同様に「想う人がいますので」と全ての告白を断っていった。そしてその羨ましい想い人が誰なのかも皆が知っていた。

 

 やはり無遠慮に「彼は君には釣り合わない」と忠告めいたことを言ってくる者もいたが、美陽とは違い不快さは欠片も面には出さず、ただ「ご忠告、ありがとうございます」とだけ返した。そしてその相手に対しては、その後、機械的に接するだけとなっていった。挨拶をされれば挨拶は返すし、何か尋ねられれば、極めて簡潔に返事はする。しかし、それだけである。美月からは決して話しかけることはないし、何なら目を合わせることすらしない。本当にいないものとして対応していた。


 美陽同様、しばらくすると忠告するものはいなくなっていった。


 生徒会長である美陽に対して美月は生徒会副会長を務めている。これは美月が自らサポート役を買ってでた結果であり、事実、それで生徒会はとても上手くまとまっていた。



 美月もまた、完璧超人と評されるに値する能力の持ち主であったが、男の趣味だけが唯一の欠点と言われているのは美陽と同じであった。


 これも美陽と同じなのだが、ごく親しい者、家族と大地にしか知られていない欠点がある。それは極度の世話焼きということである。そしてその対象は大地のみであった。


 小学校高学年の頃に、母親から料理を習い始め、仕事で帰りが遅くなることも多かった母に代わり、食事を作ることが増えていった。

 中学校になったあたりから、その他の家事もこなすようになっていき、高校生になった頃には、そこらの主婦顔負けの家事のスペシャリストにまでなっていた。


 大地が中学生になった頃から、大地の両親も仕事で遅くなることが増え、それを機に大地も時折真田家で夕飯を取ることが増えていった。

 そういう時は、必ずおかずが一品増えていたり、食事内容が豪華になったりしていた。


「美月もなんていうか、露骨だよねぇ」とは美陽の談である。


 美月としては、本当なら洗濯や掃除すらもやってあげたいとまで思っているのだが、現状、ただの幼馴染ということで弁えている。

 

 そんな美月に思わぬ好機が訪れた。大地が高校生になったころ、大地の両親が海外に赴任したのであった。

 両親と話し合い、一人暮らしとなった大地を我が家に呼び、その生活殆どの世話を美月がするようになったのである。料理は勿論、洗濯からアイロンがけ、休みの日には大地の家の掃除まで。

 許されるのであれば、一緒にお風呂に入り背中を流してあげたいとすら思っていた。


 流石にある程度自重はしているものの、それでも当の大地にしてみれば、過度に世話をされている状態だった。ある日、大地は夕飯の支度をしている美月に訊ねてみた。


「何か手伝おうか?」


 それに対して美月はこう答えた。


「大地ちゃんは、好きなゲームをしているときに『手伝おうか?』って聞かれたらなんて答える?」

「えっ、いや、普通に断るけど」

「でしょ。私も同じだよ。好きなことをしている時は自分の力だけでやりたいの。勿論、みんなで一緒に楽しむってことも大事だけど、(大地ちゃんの)料理を作るのは私一人にやらせて欲しいな」


 その答えを聞いて、大地の中で一つの疑問が氷解していった。美月が料理を作っている時、美陽が一切手伝おうとしなかった理由。決して仲が悪いわけでもない。美月ほどではないにせよ十分料理が出来る美陽が、全て美月に任せていたのは、美月がそれ望んでいることを美陽も承知していたからだった。


 美月にとって異世界に来られたことは僥倖だった。誰に憚ることなく大地の世話をすることが出来るのだ。




 美月が異世界にきて得たギフトは『大魔導士』。

 美陽の大賢者とは異なり、攻撃魔法に特化したギフトだった。精霊魔法を使用した攻撃呪文の攻撃力増加をはじめとした、あらゆる効果の上昇。

 そして『大魔導士』のギフトを持つ者のみが使える強大な魔法も存在する。


 ある日、大地が美月に訊ねた。


「美月姉も、ラノベとか漫画でよくある無詠唱って出来るの?」

「やれなくもないけど、あまり意味は無いかしら」

「どういうこと?」

「例えば、料理をしていて、塩小さじ一って言われた時、目分量で入れるか軽量スプーンを使うか、その程度の違いなのよ。目分量の方が早いけど正確ではない。計量スプーンなら正確に量れるけど時間がかかる」

「うん」

「でも私の場合、『大魔導士』のギフトがあるから魔法陣を描くのに殆ど時間はかからないの。だから無詠唱で魔法を使うより、より正確で、かつ効果も色々と上乗せ出来る魔法陣を描く方を選ぶのよ」

「成程ね」


 大地も戦闘中に美月が魔法陣を描いているのを何度も見ている。魔法陣を描くといっても紙にインクで描くわけではなく、正確には美月の魔力を使って空間に魔法陣を浮かび上がらせているという方が正しい。魔法陣の描く模様により様々な効果を得られるが、効果を増やそうと思えばそれだけ模様は複雑となり、使用する魔力も増え、描く時間も長くなる。

 才能がない、あるいは技量の低いものが複雑な魔法陣を描こうとしても、魔力が足りなかったり、時間がかかりすぎて魔法陣が消えてしまったりという事態に陥る。

 美月の場合は、さすが大魔導士のギフトを得ているだけあって、魔法陣を描く速度がとてつもなく早い。そして美陽と同様、普通の魔導士の数倍の魔力量を有しているので、強大で強力な魔法を行使することが出来るのである。 


 現時点で、大地たちのパーティーの攻撃の要であることは間違いない。

 そんな美月は今日も甲斐甲斐しく大地の世話をするのであった。




「美月姉は、間違いなく男を駄目にする女性だと思う」


 そう大地が呟くと、美月は微笑みながら答えを返した。


「大丈夫。私がお世話したいと思うのは大地ちゃんだけで、大地ちゃんはそんなことでは駄目にならないって知っているから」

閑話として2話ほど続きましたが、次回から本編に戻ります

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