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第3話 ギフト

PCが壊れてしまったので、少し間が空きました。

「冒険者ギルドとか、神殿とか、なんか益々ゲームっぽくなってきたね」


 呑気な感じでそんなことを言ってくる美陽姉。時折、俺の部屋に来ては俺の持っているラノベや漫画なんかを読んでいた美陽姉らしい。実のところ俺もそんなことを感じていた。


「ゲームっぽいってことはさ、あれも出来るんじゃない? ほら『ステータスオープン』とか」


 そう言って美陽姉は手を高々と上にあげる。何かウインドウらしきものでも現れるかと少し期待しながら見ていたが、特に何も起こらなかった。往来で美女が何やら叫んで手を挙げているだけにしか見えない。はっきり言って他人の振りをしたいところだ。

 ところが、俺のそんな反応に反して美陽姉が喜色を浮かべた。


「おおっ、凄い。本当に出てきた!」


 えっ? 特に何も見えないけど…… でも美陽姉は目の前にある何かを読んでいるように見える。これはあれか。本人にしか見えないパターンのやつか。


「ほら、大地もやってみなよ」

「お、おう。 ステータスオープン!」


 しかし俺の言葉に反応するものは何も無かった。道行く人たちが俺に奇異の目を向けてくるのが辛い。


「……美陽姉、何も起きないんだけど」

「あれぇ、おっかしいなぁ。声が小さかったんじゃない?」


 ちらりと美月姉の方を窺うと苦笑を浮かべている。クソっ、また美陽姉に騙された。自分だけ恥ずかしい思いをしたくないからって、人を巻き込むな! というか、周囲の目は美陽姉ではなく、俺だけに向いてる気がする。くそっ、美人はこういうところでも得をするのか。




 そんな馬鹿な事をやりながら、俺たちは案内の人に連れられて神殿へと着いた。

 神殿の入口らしき場所には二通りの列が出来ていた。これは見ただけで分かる。一方は神殿に参拝に来た人たちの列で、もう一方は冒険者がギフトを示してもらう列なんだろう。並んでいる人たちの着ている服で違いが分かる。

 案内してくれた人に礼を言ってから、俺たちも冒険者然とした人たちの列へと並んだ。

 

 見るとはなしに並んでいる人たちを見ていると、殆どの人が若い。が、全くの新人という様子でもないようだ。

 俺の疑問を察したかのように、美月姉が声をかけてくる。


「マーロンさんに聞いたのだけど、ギフトを調べてもらうのにもそれなりのお金が必要らしいわ。それで、冒険者になってある程度稼げたところで神殿に来たんでしょうね」


 いつものことなんだけど、美月姉はこうやって俺の気持ちを察して言葉をかけてくる。疑問に答えてくれるのはありがたいんだけど、俺ってそんなに分かりやすいんだろうか?


「大地ちゃんだもの」


 むう、やっぱり俺はこの二人には頭が上がらないなぁ。


「ちなみに、私たちの分はマーロンさんが支払い済みらしいわ。先行投資だそうよ」


 マーロンさんには俺たちが一体どう映っているんだろう? いや、俺は勘定に入っていないか。この二人なら十分見返りがあると踏んでいるのかもしれない。流石大商人ってところか。



 そんなやり取りをしていると神殿から若い冒険者のパーティーらしき人たちが出てきた。俺たちの近くを通りかかったとき、彼らの話が聞こえてきた。


「『弓使い』かよ。俺、剣が好きなのに……」

「贅沢言うなよ。ギフトが貰えただけで十分だろうが!」

「そりゃあそうだけどさ」

「それより、うちを抜けることになっても、俺たちのこと見捨てないでくれよな」

「勿論だ。その時になってみなければ分からないけど、出来る限りのことはしてやるよ」

「頼むぜ」


 どういうことだろう? 俺は美月姉に目で訴える。


「この世界の冒険者と、私たちがフィクションで知っている冒険者とどれくらい違いがあるか分からないけれど、恐らく冒険者という職業は一生やるものではないんじゃないかしら」

「うん」

「価値ある財宝を見つけて一攫千金とか、凶悪なモンスターを倒して名声を得るとかして、ハッピーリタイアが出来れば最上。それはごく一部だとしても、上手くいけば王国軍とかどこかの領主に採りたててもらえるんじゃないかしら」

「ああ、そうか。『弓使い』のギフトで技量を上げて、どこかに仕官するってことか」

「多分、そんなところだと思うわ。そしてエースに抜けられたパーティーは戦力ダウン間違いなしだから、その辺りのフォローをお願いしたんでしょうね。あわよくば自分たちも一緒に採りたててもらうとか」

「成程ねぇ」


 世知辛い話だ。元の世界での就活とかコネとかという言葉が頭に浮かんだ。




 そうこうしているうちに俺たちの番になった。俺たち三人が神殿の中に入ると法衣を着た若い男性が立っていた。神官だろうか。美月姉がマーロンさんから預かったという手紙を男性に渡す。


「成程、マーロン殿のお知り合いですか。それでは早速ギフトの識別をすると致しましょう。そちらの男性の方からあちらへ」


 神官の指し示す方を見ると扉がある。あそこでギフトの識別を行うのか。俺は言われるままに部屋へと入っていった。

 部屋の中には、先ほどの男性と違い、かなり年上の神官がいた。四十代くらいだろうか。


「ではギフトの識別を行います。こちらに手をかざしてください」


 神官の目の前にある水晶球に手をかざすと、何やら光り輝き始めた。おおっ、俺にも何かギフトがあるのか。

 しかし水晶球が発していた光は徐々に弱まり、やがてその輝きは消えてしまった。


「……えっと、これは?」

「さて、弱りましたな。私もそれなりに長くやっておりますが、こういうケースは初めてです。恐らく何かのギフトはあるかもしれませんが、はっきりとはお答え出来ません」


 予想外過ぎる。異世界物って言ったらチート能力で無双して美女に囲まれてウハウハ、だろうが! いや、一応美女は二人ほどいるけど……


「本来、光の強さはそのギフトの強さを示しています。あなたの輝きはかなり強いものでした。ええ、私の経験からでも十本の指には入るでしょう。ですが、その輝きが消えるというのは、初めてです。過去にそう言ったことがあったという話も聞いたことがありません」


 レアケースといえば聞こえは良いが…… 結局どういうことなんだろう?


「そうですな。はっきりと断言は出来ませんが、何某かの経験を積まれてから再度また来ていただくというのは如何でしょう? ひょっとしたら今回とは違った結果になるかもしれません」

「はぁ……」


 曖昧に答えるくらいしか出来なかった。しかし、現状どうしようもない。今回は大人しく帰った方が良さそうだ。


 そうして俺は部屋を出た。そこには何かを期待するような眼差しを向けてくる美人姉妹がいた。


「どうだった? 大地」

「どんなギフトだったの? 大地ちゃん」


 何と答えれば良いんだろう。上手く伝えられる自信が無い。


「……うん、まあ何だ………… 俺のことより次は美陽姉だろ。さあ、神官の人も待っているから」


 適当に誤魔化すように美陽姉を促した。そんな俺の反応を見て、二人は何かを察したようだった。


「よし、じゃあ、行ってくるね」


 そう言って美陽姉は部屋へと入っていく。そして俺は近くにあった椅子に腰を掛けた。

 気を使っているのか、美月姉は何も話しかけてこなかった。


 数秒後、識別の部屋の扉から、かなりの光が漏れてくるのが見えた。そういえば神官が言ってたっけ。光の強さはギフトの強さだって。流石、美陽姉ってところか。


 しばらくすると美陽姉が部屋から出てきた。


「私のギフトは『大賢者』だって!」


 美陽姉は嬉しそうにそう話した。大賢者かぁ。何か凄そうだな。でも美陽姉が賢者って…… いや別に美陽姉が頭が悪いってわけじゃないけど、賢者ってイメージではないような……


 入れ替わりに美月姉が部屋に入っていくと、美陽姉と同じくらいの光が漏れてくる。こっちも流石、美月姉だな。


「大魔導士だそうよ」


 僅かに笑みを浮かべているが、努めて冷静に振舞っているところが美月姉らしい。しかし『大魔導士』か。美月姉もなんか凄そうなギフトだな。でも美陽姉が『大賢者』で美月姉が『大魔導士』か。俺の勝手なイメージだと、全くの逆なんだけどな。


 

「大賢者に大魔導士って、お二人のギフトは素晴らしいものですね。過去を遡ってもこれほどのギフトは殆どありません。これ以上のギフトだと、『皇帝』とか『英雄』くらいじゃないでしょうか」


 受付をしてくれた若い神官が若干興奮気味に話しかけてくる。勿論、二人に対してだ。もうこの神官に俺は見えていないようだ。

 

「ありがとうございます。この後、用事がありますので、今日はこの辺で失礼します」


 幾分、そっけなく対応する美月姉。そして俺たちはそのまま神殿を出て行った。

 神殿から出ると、結構、陽が傾いていた。外には俺たちをここまで案内してくれた人が、待っていた。あれ? 帰ったんじゃなかったっけ?


「お待ちしていました。主人から、お三方を家まで案内せよと仰せつかっております」

「家ですか……?」


 そういえば住むところとかお世話してくるとか言ってたっけ。こんなに早く対応してくれるとは。マーロンさん、相当俺たちのことを買っているんだな。そしてそれに見事答えている二人が凄い。

 一方で、俺は…………。




 馬車に揺られて辿り着いた先にあったのは、結構大きめの一軒家だった。お屋敷といっても良いくらいだ。三人で住むには大きすぎないか? っていうか家賃とかどうなっているんだ?


「あのう、何かの間違いじゃないんですか?」


 恐る恐る尋ねてみた。が、間違いではないらしい。どうするか、意見を聞こうと二人の方を見ると、なんか二人とも目をキラキラさせている。あっ、駄目だ。どうやらこの家が気に入ったらしい。こうなると、もう俺の意見は聞いてはもらえないだろう。


 家の中に入ると、外から見えてた以上に中も素晴らしかった。部屋の数も十分。食堂やリビングの内装も凄く豪華だ。よもや俺の人生でエントランスがある家に住むことになるなんて思わなかった。


「なあ、本当にこんな凄い家に俺たちが住んで良いのかな?」

「良いんじゃない? せっかくのご厚意なんだから」

「ここはマーロンさんの持ち家の一つなんですって。マーロンさんのお宅はもっと凄いらしいわよ」


 すでに情報は仕入れいているらしかった。やはりこの二人には敵わないようだ。


「そういえば夕飯はどうする?」

「勿論、私が作ります。美味しいものを作るから待っててね、大地ちゃん」


 美月姉が目を輝かせながら答えた。周到なことに食材なんかも用意されているらしい。

 美月姉はプライベートでは異様なほどの世話焼きだった。それは異世界でも変わらないようだ。そして美陽姉はというと……


「じゃあ、私はリビングで大地分を補給してようかなぁ」


 こちらは極度の甘えたがりになる。ていうか大地分って何だ?


「大地からしか得られない栄養があるんだよ。それが大地分」


 くっ、どっかの漫画みたいなこと言いやがって。

 俺は美陽姉に引きずられるようにリビングへと連れていかれる。そして二人でソファに凭れる。


 しばらくそうして休んでいると、料理の乗ったワゴンを押して美月姉がリビングへとやってきた。


「食堂もあるようだけど、三人だけだからリビングで良いわよね」


 そういいながら料理を並べていく美月姉。っていうか元の世界と調理器具だって違うだろうに、旨そうな料理ばかりだ。


「でも、やっぱり勝手が違うから、今回は味にはあまり自信がないわよ」


 そう謙遜してはいるが、美月姉の料理は相変わらず美味しかった。

 夕飯を食べながら、神殿での出来事を二人に語った。


「そっかぁ。でも、神官さんが言ったように、またチャレンジすれば良いんだよ」

「そうね。深刻に考えてもしょうがないわ。あまり気にしないことよ」

「ああ、分かっている」


 そう、いつものことなんだ。俺がこの二人に対して劣等感に近いものを覚えるなんてことは…………

 



 色々なことがありすぎて、俺たちは思ったより疲れていた。とりあえず今日のところは適当に部屋を決めて早めに休むことにした。 

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