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第28話 転移魔法

「ようやく成功したのよ!!」


 俺がいつものようにリビングで美月姉に膝枕をされながら耳掃除をして貰っているところに美陽姉が勢いよく飛び込んできた。


「何が成功したんだって?」


 耳掃除を中断してもらい、身体を起こして改めて美陽姉に向き合い尋ねた。


「転移魔法よ、転移魔法。ついに成功したのよ」

「ってことは生き物を送ることに成功したってこと?」

「だからそう言っているじゃない。ほら」


 そう言って掌にいる黄金虫らしきものを見せてくる美陽姉。


「これは?」

「例の転送魔法で移動させた虫よ。今回は死んでいないでしょ」


 見た感じ、特に弱っている様子もなく、普通に手の平を移動している。そして指先に辿り着いたと思ったら、そのまま飛んで行ってしまった。うん、元気そうで何より。


「凄いじゃないか美陽姉! それで、結局何をどう改良したの?」

「この前の薬草を転送するときに、万が一と思って薬草を魔力の球で包んでみたのよ。ちょっとした保護みたいなつもりで。ほら、ガチャポンってあるじゃない。あんなイメージで。それを応用して、さっきの黄金虫も同じ感じで魔力で包んでみたの。そしたら無事生きたまま転送出来たってわけ」

「それで、人間は転送出来るの?」


 美月姉が気になることを尋ねた。


「ううん、流石にまだそこまで実験してはいないわ。そこで美月にお願いがあるの」

「なあに?」

「鳥小屋にいる鶏を一羽、実験で使いたいのよ」

「良いわよ。 ねえ大地ちゃん、今晩は鳥料理になりそうだけど、何が食べたい? 定番の唐揚げかしら? それともチキンソテーが良い?」

「どういう意味よ? 美月」


 ジロリと美月姉を睨む美陽姉。美月姉、そういう冗談は洒落にならないからやめて欲しい。


「冗談よ。自信があるんでしょ?」

「全くもう。勿論でしょ。じゃあ借りても良いわね」

「ええ。私たちも見学して良いんでしょ」

「是非見に来て頂戴」


 というわけで、俺たちは裏庭へと移動した。今回は工房の中ではなく、裏庭にすでに魔法陣が展開されていた。数メートル離れたところにも同様の魔法陣が見える。

 美陽姉が片方の魔法陣に鶏を置く。自由になった鶏はバタバタと動こうとするが、その場から逃げられない様子だった。なるほど、魔力で包まれているからか。

 魔力を注がれた魔法陣が光を放つと同時に、もう一方の魔法陣も同様に光り輝き出す。鶏に光が収束していき、そのまま鶏は光と共に消えていく。そしてもう一方の魔法陣の光が収束していき、やがて鶏が姿を現した。

 鶏に変わった様子は見られない。特に驚いたり怯えたりしている様子もなく普通に動き回っている。弱っているようでもない。これは成功か。


「うん、良い感じね。じゃあ、次はいよいよ人間で実験ね」


 美陽姉が少し緊張した様子で呟いた。俺は思わず手を挙げた。


「はい、美陽姉、俺やりたい」

「えっ、大地、良いの?」

「何で? 駄目なの?」

「駄目というか、怖くないの? 失敗するかもしれないのよ」


 ああ、美陽姉はそれを心配していたのか。


「いやいや、たった今、鶏で成功したじゃない。人間だって大丈夫でしょ。俺は美陽姉を信じているし」


 なんか言葉にすると軽くなっちゃう感じがするけれど、美陽姉を信じているのは確かなんだから、ここははっきりと言っておくべきだろう。


「……大地。ありがとう。でも、せっかくの申し出なんだけど、一回目は私が自分でやるわ」

「何で? 俺がやりたいんだけど」

「残念だけど、自分で実際に転移してみないと、どんな影響があるか自分で分からないからね。だから悪いけれど、今回は譲って頂戴」


 百聞は一見に如かずということか。仮に俺が何が起きたかを言葉で説明するより、自分で経験した方が分かるよな、そりゃあ。


「分かった。しょうがない、今回は譲るよ」

「ありがとう。次は実験台になってもらうから、覚悟しておいてね」


 おどけた口調でそう言いながら美陽姉は魔法陣の上に移動した。

 若干緊張した様子の美陽姉が魔力を注ぐと先程の鶏と同じように光に包まれながら、もう一方の魔法陣へと移動した。


「えっ? えっ?」


 移動が終わった美陽姉がきょろきょろとあたりを見回す。何かあったのだろうか?


「どうしたの美陽姉?」

「いやぁ、思ったより何もなくて……。 逆に戸惑っちゃったわ」

「何だ。びっくりさせないでくれよ」

「ゴメンゴメン。じゃあ、大地もやってみる」

「ああ、やらせてくれ」


 そう言って俺も魔法陣の上に立つ。美陽姉が魔力を注ぐと同時に俺の身体も光り出した。と思ったら急に視界が変わった。おお、確かに移動している。それに、全く何も感じなかった。気分も全然悪くない。エレベーターが下りていくときのような浮遊感とか、何か感じるかと思ったけど、本当に何も感じない。


「凄いな美陽姉。これは感動ものだ」

「ふふん、どうよ」


 ようやく美陽姉らしいドヤ顔が出てきた。うん、やっぱり美陽姉はこういう表情の方が似合っているな。


「じゃあ、美陽、今度は私もやって良いかしら」

「良いわよ。あっ、でも今度は少し距離を伸ばしても良いかしら」

「あら、私で実験するつもりね。さっきの意趣返しかしら」

「まあね。じゃあこっちに来て美月」


 今までの倍くらいの距離に改めて魔法陣を展開させて、その場に美月姉を立たせ、転送魔法を発動させた。

 

「うっ」


 もう片方の魔法陣から出てきた美月姉がその場にうずくまる。何かあったのか!!


「美月、そういう冗談は洒落にならないから」

「少しくらい動揺しても良いんじゃないかしら、大地ちゃんみたいに」


 美陽姉が指摘すると、何もなかったように立ち上がる美月姉。いや、本当にそういう冗談はやめてくれ。心臓に悪いから。


「まあ冗談はともかく、これで転移魔法は目途が付いたということで良いのかしら?」

「そうね。後はもっと距離を伸ばした時の実験とかもあるけど、概ね完成というところかしら」

「じゃあ、これからは色々なところに簡単に行けるということね」

「まあ、一度は自分たちで移動しなければならないけどね。後は魔法陣さえ展開させておけば、いつでもどこでも行けるようになるわよ」


 キラリ。美月姉の瞳が怪しく輝いたように見えたのは俺の気の所為だろうか。


「じゃあ、最初は海ね。港町が良いわ。そろそろ新鮮なお魚が欲しかったのよ。後は西の方ね。香辛料が安く手に入るらしいわ。それから――」

「ちょっとちょっと、どこまで行く気なのよ」

「それはもう、色々な食材が手に入る場所へ手当たり次第よ。大地ちゃん、これから料理のレパートリーが増えるから楽しみにしていてね。とりあえず何が食べたい?」


 美月姉がとても嬉しそうな笑顔を浮かべている。何だったら転移魔法を完成させた美陽姉以上かもしれない。

 まあ、何はともあれ、また新しい経験が出来ることになりそうだ。

一応、ここまでが第二章となります。

比較的美陽に焦点を当てた章になりました。

次章からは美月にスポットを当てた話が多くなります。

よろしければ、これからもお付き合い下さい。

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