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第25話 花火

 バーベキューをした日から、時々プールサイドで食事を取ることが増えてきた。まだまだ暑い日が続いているので、こういう趣向は大歓迎だ。毎回バーベキューではなく、その時々で美月姉が色々と工夫を凝らした食事を用意してくれている。本当に感謝しまくりだ。


「夏と言えばさ、こっちの世界にも花火ってあるのかな?」

「あるわよ。と言っても日本と違って鑑賞や娯楽としての花火じゃなくて、主に戦場なんかでの狼煙や伝達に使われるくらいらしいけど」


 子供の頃、田舎の爺ちゃん家に遊びに行ったとき、早朝からバン、バンと大きい音がして、何事かと飛び起きたら、あれは祭りの日だと知らせる花火だと教えて貰ったことを思い出した。


「っていうか、火薬があるんだ。こっちの世界にも」

「あるでしょ、それくらい」

「えっ、だってこっちの世界って魔法があるじゃん」


 魔法がある世界って火薬って無いものじゃないの?


「魔法があるといっても、誰でも使える技術じゃないからね。火薬に限った話じゃないけど、そういう道具や技術は使い方さえ知っていれば誰でも使えるっていう利点があるからね。土木関係なんかでは火薬は重宝されているらしいわよ。魔法には魔法の利点が、道具には道具の利点があるから、どちらの技術もそれなりに発展していくんじゃないかな」


 そういうものか。まあなんとなく分かる気がする。


「あれっ? 火薬があるってことはもしかして銃なんかもあるのか?」

「銃があるという話は聞いたことがないわね。大砲らしきものは戦場で使われているらしいけど」

「大砲はあるんだ……」

「恐らくだけど、個人が携行するレベルまで小さくする技術がまだ無いんだと思うわ。そこはやっぱり魔法があるから発展する速度が遅いようね。後は現状、大陸内外での情勢もある程度落ち着いているから大きい戦争が殆ど無いってことも理由の一つでしょうね」


 そういう点では俺たちは幸運だったんだろうと思う。少なくとも戦場に駆り出される心配な殆ど無いということだから。


「でも、こっちの世界には魔物がいるじゃん。銃なんかあれば便利なんじゃない?」

「私も本で読んだ知識しかないけれど、火縄銃なんかはかなり命中率が低かったという話もあるわね。まあ、これは使う人の技量によるところが大きかったらしいけど」

「じゃあ、技量がある人が使えば命中率は上がるんじゃないの?」

「とは言っても、仮に個人携帯出来る鉄砲が出来たとしても、最初のうちはかなり高価でしょうね。鉄ランクの冒険者が買えるものでは無いし、ベテランの金、銀クラスなら高価な鉄砲を新しく使うよりも使い慣れた剣や弓を選ぶだろうから……」

「需要が無いわけか」

「そういうことね。つまり鉄砲が出来たとしても需要が無いから技術の発展も無いし、当然価格が下がっていくことも無い」


 仮に国同士が争うような大きい戦争があった場合は銃器の発展する可能性もあるわけか。ファンタジー風の漫画でも銃が出てくる作品も珍しくはないからな。



「話は戻るけど、じゃあ仮に美陽姉が打ち上げ花火を作ったとしても……」

「あんなものを街中で打ち上げたら、大騒ぎになるでしょうね。間違いなく」

「だよなぁ……」


 どうしても見たいというわけでもないけれど、何かがっかりした気持ちになってしまう。


「打ち上げ花火とはいかないけれど、こんなもので良ければ作ってみたわよ」


 そう言って美陽姉が見せてきたのは、良く知るおもちゃ花火と言われるものだった。


「魔法で作ったものだからね。本物とは微妙に印象が違うかもしれないけれど、遊んでみる?」

「ああ」

「あっ、ちょっと待ってて」


 そう言って美陽姉と美月姉は屋敷へと戻っていった。十分くらい経っただろうか。戻ってきた二人は浴衣に着替えていた。

 美陽姉は白地に向日葵柄。美月姉は紺地に月見草。二人共イメージにピッタリの浴衣だった。


「お待たせ。せっかくだから着替えてきちゃった。どう?」

「うん、二人共良く似合っている。そういう恰好も素敵だね」

「ありがとう大地」

「ありがとう大地ちゃん」

 

 意外なサプライズもあったけど、改めて美陽姉から花火を受け取り、簡易炎魔法陣――こっちの世界におけるライター的なもの――で火を点けてみる。すると筒先から色とりどりな火花が出始めた。美陽姉が言う通り、確かに微妙に違う気もするけれど、これはこれで十分楽しい。俺たち三人はしばらく花火遊びに興じていた。


「じゃじゃーん。花火の最後と言ったらやっぱりこれでしょ」


 美陽姉が最後に出したのは、所謂「線香花火」だった。


「これは他の花火とは違って、かなりの自信作よ。試作を何度も繰り返して漸く納得のいく物が出来たんだから」


 フンスという鼻息が聞こえてきそうなドヤ顔の美陽姉。余程自信があるらしい。これは楽しみだ。

 美陽姉から一本受け取り火を点けてみる。すると先端の炎が丸まっていき、パチパチと音を立てながら小さな火花が散っていく。まさに線香花火そのものだった。


「凄いよ美陽姉、これ本物の線香花火そっくりだ!」

「でしょう」


 再びドヤ顔を見せる美陽姉。美月姉にも一本渡し、自分の持っている花火にも火を点けた。


「これまた定番だけど、誰が一番持つか勝負よ」

「先に火を点けた俺が不利じゃんか」

「ハンデよ、ハンデ」

「何だよハンデって」


 口では文句を言いながらも、花火を楽しんだ。まあ結局俺が負けたんだけど。

 美陽姉と美月姉の火玉は落ちること無く最後まで綺麗に、そして静かに燃え尽きていった。線香花火の最後は独特の儚さがあるが、それも線香花火の良さの一つだと思う。


 こうして楽しい夏の一夜が過ぎていった。

  


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