第24話 伝説の聖剣を作ろう
「伝説の聖剣?」
「そう。美陽姉の魔力をありったけ込めて、凄く硬い剣を作って、それに付与魔法を付与出来るだけ付けて、最強の剣を作ってみないか?」
自分で言っていて何だが、とんでもないことになりそうな気がしてきた。ゲームなんかで言うところのバランスブレイカーになりそうだ。
しかし、美陽姉の反応は俺の思ったものと違っていた。
「そんなものを作ってどうするの?」
「えっ、どうするって……」
ただ、なんとなく作ってみたら面白そうだと思っただけなんだけど……。てっきり美陽姉も「面白そうね」とか言って食い付くと思ったんだが、これは思惑が外れたか。
「面白そうじゃないかな?」
「仮に作ったとしても、大地には使わせないわよ。それでも良い?」
ああ、美陽姉が思っていたことが分かった。俺がその剣を使いたくてお願いしていると勘違いしているのか。
「勿論だよ美陽姉。というか、美陽姉は忘れているのかもしれないけれど、俺って現状、殆どの依頼でただ突っ立っているだけだぜ、情けない話けど。そんな俺が伝説の聖剣を手にしたところで、使う機会がないだろ?」
いや、本当に言ってて情けなくなってくる。残念ながら今の俺は獲物の一匹も倒したことが無い。倒すことが出来ないという方が正しいかもしれない。角兎くらいならどうにかなるかもしれないが、正直な話、それも怪しいと思う。
とはいえ、俺がこんなに情けなくても、困ったことにパーティーとしては何にも不都合が無い。美陽姉と美月姉の二人がいれば、殆どの依頼はこなせてしまうのだ。そんな状況で伝説の聖剣を持っていても、それこそ宝の持ち腐れである。
俺の言葉を聞いて、美陽姉が想定外だったというような表情になる。とりあえず誤解は解けたかな。
「正直に言えば、一、二回くらいは試し切りくらいはしてみたいけど、多分、そんな剣は怖くて使いこなせないよ」
「…………ふふっ」
少し間を開けて美陽姉から笑みがこぼれる。
「アハハハハ。そうよね。大地はそうだよね。ごめん。ちょっと勘違いしていた」
どうやら理解してもらえたようだ。多分、いつもの美陽姉ならこんな勘違いはしないんだろうけど、よっぽど行き詰まっていたんだろう。伝説の聖剣作りが良い気分転換になってくれるだろうか。
「よし、じゃあ作りますか。伝説の聖剣とやらを」
「おお、良いね」
「ここじゃあなんだから、工房へ行くよ」
俺たちはリビングを後にして工房へと向かった。
「じゃあ、どんな剣にする。見た目ド派手なやつが良い?」
なんとなく美陽姉らしくなって気がする。良い感じだ。ならばと俺も意見を出すことにした。
「好みで言えばド派手な物よりもシンプルな方が良いな。装飾とかは最低限だけど、それでいて迫力があるような」
「おっ、難しい注文だねぇ。面白くなってきたわ。じゃあ、いくつかサンプルを作ってみるから、良いのがあったら選んでちょうだい」
そう言って美陽姉は魔法陣をいくつか展開して、それぞれ違う感じの剣を作り出した。俺がその中からイメージに近いものをいくつか選び、更にそれらの良いとこどりをするような剣を作っていく。
そうして聖剣のデザインが決まった。サイズや重量は俺が普段使っているものとほぼ同じにした。
美陽姉が改めて魔法陣を展開すると、全力に近い魔力が魔法陣に注ぎ込まれる。流石の美陽姉も額にうっすらと汗を浮かべている。注がれる魔力に比例するかのように光量も普段のそれとは全然違っていた。直視することが出来ない輝きだった。
いつもよりも時間をかけて光が収束していくと、一振りの剣が現れた。シンプルながら迫力のある外見。俺の希望通りだ。
両刃の剣身はすらりと真っ直ぐ。ガード部分は相手の剣を受けられるよう少し大きめ。柄頭には何やら宝玉っぽいものまで入っている。おおっ、いかにも聖剣って感じの見た目だ。
「持っても良い?」
「勿論」
美陽姉の許可を得て、剣を握る。グリップは物凄く手に馴染む。重さも俺がいつも使っている剣と殆ど変わらない。
周りに気を付けながら剣を振ってみる。これもいつもの剣とまるで変わらない。しかし、何かが違う。いつもの剣とは違う何かを感じる。
「なんか……、凄いね」
「そりゃあ、硬さだけでも、下手すると地上最強かもしれないもの。その辺の剣とは違うわよ」
地上最強ときたか。しかし、過言ではないあたりが美陽姉らしい。
「魔力があまり残っていないから、付与魔法は後日ね」
魔力が全然ない俺には分からないことだったが、美陽姉たちくらいの魔力量だと一日眠っただけでは完全回復とはいかないらしい。ゲームとは違うということか。
数日後。美陽姉の魔力量も回復したところで、本格的に付与魔法を行うことになった。
「じゃあ、何を付与する?」
「そうだな。聖剣を名乗る以上、聖属性はつけたいよね。悪霊とかに特効があるやつ」
「ふむふむ」
「後は魔法剣っていうのかな。剣身に炎や雷を纏うやつ」
「うーん、アニメや漫画ではよく見るけど、あれって実際のところ意味あるのかしら?」
「どういうこと?」
「だって、炎を纏ったからって切れ味が上がったりはしないでしょ? 雷、というか帯電している剣なら鍔迫り合いでもすれば相手を痺れさせることが出来るかもしれないけど……」
おっと、いきなり現実的なことを言い出したぞ。いや言っていることは分かるけど、そこはロマンだよ美陽姉。
「いやいや、ほら、こっちの世界にいるか分からないけれど、氷の魔物とかがいたら炎を纏った剣なら特効がありそうでしょ」
「それなら、炎魔法で攻撃した方が良くない?」
「それはそうなんだけど……。 って美陽姉、分かってて言っているな」
「バレた? まあお遊びだしね。実際がどうとかより、面白い方が良いわよね。とりあえず炎と雷で良いの?」
いたずらがバレたときのように舌をペロリと出しておどける美陽姉。うんうん、やはり美陽姉はこうでないとな。
「せっかくだから、氷属性や風属性も付けたいな。光属性は聖属性とかぶっちゃうか?」
「良いわよ。お遊びなんだから徹底的にいきましょう。ありったけの属性を付けるわよ。あっ、闇属性はどうする?」
聖剣だけど、と確認してくる。悩ましいところだな。まあ実際に使うわけじゃないから、ここはロマンを優先だ。
「闇属性は無しで。やっぱり聖剣だからね」
「分かったわ。他には何を付与する?」
「そうだなあ……」
一旦頭の中で整理してみる。美陽姉のことだから大抵のものは付与出来るんだろうけど、あまりゴチャゴチャしているのも聖剣らしくないと思うんだよなぁ……。
「とりあえず切れ味アップは欲しいな。岩でもバターのように切れますって感じなやつ。後はいいや」
「いいの? オートパリィとか自動追尾とか、何なら剣からビームが出せるようにも出来るよ」
「オートパリィとか自動追尾とかは俺の中の聖剣像とはかけ離れているんだよ。それに剣からビームもなんか違うんだ」
「そこは拘るんだ」
クスクスと笑う美陽姉。
「こっちに来てから剣を振り続けたってのがあるかもしれないけれど、剣からビームはいらないな。やっぱり直接切りかかってこその剣だと思う」
「まあ、使うのは大地だから、大地の思うとおりにすればいいわよ」
「いや、使わないけどね」
「そうだった」
何を付与するかも決まったところで、いよいよ付与魔法を行うことになった。
美陽姉が付与魔法の魔法陣を展開させ、色々と書き加えていっている。流石に属性が多いから大変そうだ。それでも作業が滞ることは無い。
数分後、ようやく魔法陣が完成した。色々と書き加えられていて、かなり細かい。見る人が見れば驚くんじゃないだろうか。
魔法陣の上に剣を置いて美陽姉が魔力を込めていく。光が剣に収束していきやがて消えていく。
「出来たわ。最強の伝説の聖剣よ」
美陽姉が魔法陣から剣を取り俺に渡してくる。
「大地が念じれば剣身に炎が出たり氷が出たりするわ。お望み通りあくまで剣身に纏うだけだけど。あと切れ味は本当に凄いから気を付けてね。指とか簡単に落ちるわよ」
中々に物騒なことを言ってくる。
「それで? 銘は何にするの?」
「そこまで考えていなかったよ」
「じゃあ、『大地の剣』かな?」
「流石にそれは恥ずかしい。いいよ銘は」
「試し切りしてみる?」
「良いの?」
「せっかく作ったんだしね。外に出ましょう。ここじゃあ危ないから」
工房の外に出ると、美陽姉が魔法陣を展開させた。そこから出てきたのは猪モドキだった。
「大地が最初に戦った獣よ。強さもあの時と同じくらいに設定したわ」
恐らく美陽姉が魔法で操っているんだろう。猪モドキはあの時と同じように俺に襲い掛かってきた。俺はあの時と同じように袈裟切りで猪に切りかかった。
「えっ?」
殆ど手応えも無く、猪は真っ二つになってそのまま霧散していった。とんでもない切れ味だ。
しかし漫画やアニメのように周囲の物まで切ってしまうということは無かった。流石美陽姉、安全設計に関してもばっちりだ。
「えーと、またなんかやっちゃいました? とか言えばいいのかな?」
「何よそれ」
さっきと同じようにクスクスと笑う美陽姉。やっぱり美陽姉は笑っている方が良いな。
せっかく作った伝説の聖剣だったが、美陽姉が厳重に封印することになった。あれは過ぎたる力だ。などと中二病めいたことを言ってみた。