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第22話 転送魔法

短めです。すみません。

「大地、美月、ちょっと来て。凄い魔法を開発したの!」


 とある日の午後、俺がリビングで美月姉に膝枕をしてもらいながら耳掃除をしてもらっているところに、美陽姉が凄い勢いで飛び込んできた。


「凄い魔法?」

「そうなの。ちょっと見に来てよ」


 美陽姉にそうせかされて、俺と美月姉は裏庭の工房へ赴いた。

 工房の一室、中央の作業机には、対角に位置する場所に二つ直径十センチくらいの魔法陣が展開されていた。


「見ていて。この石を片方の魔法陣に置いて……」


 詳しい説明も無く美陽姉は何かを始めた。二つある魔法陣の片方に石ころを置き魔力を注いだ。すると、魔力を注いだ方の魔法陣が輝くのと同調するように、もう片方の魔法陣も輝き出した。

 石が置いてある方の魔法陣の光が石に収束していく。もう一方の魔法陣も同じような収束を見せた。そして光が消えたとき、石はもう片方の魔法陣の上に現れていた。


「移動したの?」

「そう。転送魔法よ!」


 おおっ、凄い。流石美陽姉。聞けばこの世界では転送魔法は確認されてはいないらしい――優秀な魔法使いが秘匿している可能性は除いて――から、相当な事だと思う。


「まだ工房内でしか実験していないから、どれくらいの距離、転送出来るか分からないんだけど、理論上はキロ単位で転送可能なはずよ。今度どこかで実験しないとね」


 こんなに浮かれている美陽姉も中々見たことないな。言い方は悪く聞こえるかもしれないが、今までなんでも器用にこなしてきたから、こういう達成感的なことを感じることも少なかったはずだ。

 ……でも。


「なあ美陽姉。この魔法って、どこで使うんだ?」

「へっ?」

 

 おっと、美女にあるまじき反応だ。普段の美陽姉なら絶対に出てこないだろうな。へっ? なんて。


「いや、見たところ転送出来るのは魔法陣がある場所だけなんだよな。受信側の魔法陣って任意の場所に展開出来るの?」

「……出来ない。予め魔法陣を展開させておく必要があるわ」

「そうなると限られた場所にしか物を運べないとなる。俺たちは三人行動が普通だからお互いが遠距離での物のやり取りをする事って殆ど無い。依頼や買い物なんかで出かけたときに手に入れたものは美陽姉たちの鞄に入れれば済むことだ」

「ううっ」

「日本なら配送業とかで重宝しそうだけど、俺たちだけなら、殆ど使う機会は無いんじゃないか?」

「がーん」

 

 実際にがーんって言う人、初めてみた。それだけショックだったんだろう。


「ねえ、美陽。これって生き物は転送出来るの?」

「……ん? やったことない」


 俺の言葉に打ちひしがれながらも、美月姉の問いに答える美陽姉。あっ、そうか生き物が転送出来るなら転移魔法ってことで使えるんじゃないか。

 美陽姉も美月姉の質問の意味を捉えたらしく、ショックから立ち直ってきたようだ。


「いきなり人ってわけにもいかないから、まずは虫で試してみるね」


 そう言って魔法を使って外にいる虫を捕まえてきた。黄金虫っぽいな。

 捕まえた虫が逃げないよう魔法で押さえつけながら送信側の魔法陣に置き、先ほどと同じように魔力を込めていく。

 送信側に現れた黄金虫はピクリともしなかった。


「死んでいるわね」

「……そうね」


 無情にも黄金虫は死んでしまっていた。合掌。どうやらこの転送魔法は生物は生かしたまま転送は出来ないようだ。詳しい理屈は分からないが、フィクションなんかでも空間を飛び越えるときの衝撃がなんたらとかあるし、そういうことなんだろうか。


「それと美陽、この魔法は絶対に外部に漏らしては駄目よ。三人だけの秘密にしないと」

「どういう事? 美月姉」

「私たちの中では無用の長物かもしれないけれど、この魔法は軍事利用すれば絶大な効果を得られるの」


 そうか! 生きている兵士は直接送れなくても武器防具や補給物資なんかを転送する事はは出来るんだ。輜重部隊を作らなくて良いというのはかなりのメリットだ。しかし美月姉、さりげなく酷いことを言ってたな。

 こっちの世界での世界情勢とか、まだ良く分かっていないけど、美月姉がこういうことを言うんだから、どこかで戦争が起きている、あるいは起きる可能性があるってことか。俺はともかく、美陽姉と美月姉を戦争なんかに絶対に関わせるわけにはいかない。



 美月姉は大分打ちひしがれているな。無理もない。今まであまり失敗らしい失敗ってしなかったからなぁ。というか、いつもの美陽姉なら俺が指摘することくらい自分で気が付いたはずだ。それをこんなミスをしてしまうというのは、よっぽど新魔法の開発が楽しかったんだろう。手応えを感じているというやつだろうか。

 いや、ミスと決めつけてしまうのはどうだろう? 転送魔法自体は凄いものなのは確かだ。現状使いどころがないというだけなんだから、巧い利用方法を考えれば良いだけの話だな。

 俺程度に何が出来るか分からないが、少しでも美陽姉の助けになれれば良いな。こんな機会は滅多に無いし。


 美陽姉はというと、なにやらブツブツ言いながら魔法陣を色々と弄っていた。それでこそ美陽姉だ。いつまでも落ち込んでいるはずがない。頑張れ美陽姉。

次回更新は数日空いてしまいます。

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