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第14話 経験

 俺たち三人は晴れて恋人同士となった。


「それはそれとして……」


 美陽姉にしては珍しく、何か言い辛そうな感じで言葉を濁していた。


「私たちの方こそ、大地ちゃんに謝らなければならないことがあるの」


 美月姉がフォローするように言葉を続けた。


「何? 二人に謝られるような覚えはないけど?」


「実はね、大地。昨日の猪、あれ私たちが態と大地にけしかけたの」

「え? えええっっっ!!」

「ごめん。本当にごめんなさい」


 美陽姉は顔の前で両手を合わせ頭を下げている。美月姉もすまなさそうに頭を下げている。


「何でだ? 理由を聞かせてくれ」

「怒らないの?」


 聞いた瞬間は驚きもしたが、二人が理由も無くそんなことをするはずがないことは俺が一番分かっている。だから冷静に聞くことが出来た。

 それに今にして思えば、昨日の状況はおかしな事がいくつかあった。

 いくら離れていたとはいえ、たかが三十メートルだ。美陽姉が実際にどれくらいの範囲を探知出来るか正確なところまでは分からないが、その程度の距離をカバー出来ないはずがない。いや例え数キロ先まで探知していると言われても驚きはしない。

 それに、二人が俺の異変に気が付くのが遅すぎた。

 美陽姉たちは、俺と一緒にいるときは、常に俺の方に注意を払っている。これは子供の頃からずっとそうしてきた。だから俺は二人と行動している時、、地元のお祭りや遊園地など、どんな人込みに行っても逸れたことが無い。逆に二人を撒こうとしても逃げることが出来た試しがない。

 そんな二人が、俺が猪モドキと対峙していた数分の間、気が付かないはずがないんだ。

 

 あの時はいきなり猪モドキに出くわしたから、やはり動揺していたんだろう。今は落ち着いているから、あの時の状況のおかしさにも気が付けた。

 二人が俺をただ危険な目に合わせるはずがない。それは断言出来る。だから今は理由を聞くことにする。


「それはね、大地に獣と戦うということを実践で理解して欲しかったからなの」

「やっぱりな。そんなことだと思ったよ」


 実際に猪モドキと戦った今なら二人の考えが良く分かる。庭で素振りをしているだけじゃあ分からなかったことだらけだった。


「私たちと一緒にいるときなら、私たちが全力で大地を守る。でも、こっちの世界では何があるか分からない。だから早い段階で実際に野生の獣と戦う経験を積んで欲しかったの」

「分かるよ。あれは良い経験になった」

「でも、軽かったとはいえ怪我までさせちゃったし……」

「すぐに治してもらえたし、ズボンだって繕ってもらったんだ。何の問題も無いよ。というか、怪我をすることまで織り込み済みだったんじゃないの?」

「まあね。あの状況だと大地なら少し怪我をしたくらいならパニックにはならないだろうと思ったわ。それに私たちに助けを求めないだろうってことも」

「そこまで?」

「勿論よ。大地ちゃんなら私たちに危険が及ぶかもしれない可能性があったら自分が戦う選択をするだろうって思ってた。そして実際にその通りにしたでしょ?」


 全く、この姉妹はどれだけ俺のことを理解してくれているんだ。完全に手の平で転がされているじゃないか。

 

 少し、ほんの少しだけ、この二人が怖くなってきた。が、その何倍もの魅力に溢れたこの二人にここまで想われているのが本当に嬉しい。


「でも、猪をけしかけたって言ったけど、一体どうやって?」

「簡単よ。あの場所に着いたところで探知魔法で猪を見つけて、魔法であの位置まで自然に誘導したの。後は大地と接近するまで眠らせていたの。で。大地が近くまでいったところで覚醒させたってわけ」

「えっ、でも俺があそこまで行ったのは偶々だろ。何で事前に猪を誘導出来たんだ?」

「大地なら尿意は我慢せずにその辺で用を足すだろうって思ったし、その場合女の子たちとは反対方向へ行くだろうし、距離に関しても大体あれくらいだろうって分かるもの」


 くそう、本当に全部見透かされている。する気は全くないが、浮気とかしようものなら、すぐにバレてしまいそうだ。いや、この二人なら浮気をする前に阻止されてしまうのか?



 とりあえず、ここまでの話は納得出来た。そして改めて美陽姉たちに尋ねる。


「やっぱり俺はもっと強くなった方が良いのかな?」


 野生の獣と戦う経験は出来たとはいえ、現状、次に猪モドキに出くわしたところで、今のままでは何も出来ないに等しい。素振りを増やすとか、他に何かするべきなんだろうか?


「強くなるに越したことはないけれど、無理をしたところで、そんな急に強くなったりはしないわよ」

「そうよ。さっきも言ったけど、私たちといるときは全力で守ってあげるから、大地ちゃんは今のままでも十分よ」

「それはそれで、男として情けない気がするんだけど」

「でも現実問題として、大地が昨日の猪くらいに勝てるようになるには、一年くらいはかかるんじゃないかな? 増してや熊とかになったら勝てる日が来るのか? って感じよ」

「そんなに?」

「子供の頃から剣を握っていて、それなりに戦闘経験があるこっちの世界の人たちと違って、今まで日本で暮らしてきた大地が、いきなりそんなに強くなるはずがないでしょ。漫画じゃあるまいし」


 変なところで現実を突きつけられてしまった。いやでも、そんなものかもしれないな。とりあえず二人がこう言っているんだから、俺はじっくりやっていくことにしよう。無理をしたところで二人が喜ばないことは過去の経験で知っている。二度とあんな顔はさせたくないしな。



「さあ、じゃあ遅くなったけどご飯にしましょう。大地ちゃんはがっつり行く? それともあっさりの方が良いかな? 分からなかったから両方用意したんだけど」

「腹が減っているからがっつりいきたいかな。……って美月姉、気の所為かな、なんか精が付きそうなものが多いように見えるんだけど……」

「だって、大地ちゃんには頑張って欲しいから」

「何をだよ!」

「あら、言わせる気?」

「勘弁してくれ……」



 翌日、俺は美陽姉の指導の下、猪モドキの血抜きと解体を行った。鞄に入れている間は状態保存の魔法が掛かっているらしく、鞄から出した猪モドキの死体は、まだほんのり温かかった。

 初めての解体は中々胃に来るものがあったが、なんとかやり遂げた。これもまた経験だ。

 ちなみに美陽姉たちは田舎の爺ちゃんに解体の方法を教わっていたらしい。どれだけ高スペックなんだこの二人は……



 それからの俺たちはのんびりとしたペースでアイアンランクの依頼をこなしていき、一か月が過ぎようとした頃、青銅ブロンズランクに昇格した。

一応、この話までが全体としてのプロローグとなります。


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