ギルド スノープリンセス2 勇者編 オラシオン③
次回は月曜日0:00か8:00頃の更新です。
「私たちは勇者ケインを殺したい。だが、君たちが隠してしまった」
「だからここで見張ることにしたの」
当たり前のように、アリスの『なんでお前たちがここにいるぞ?』の問いに答えるオラシオンたち。
「ここは王宮の土地だぞ。私有地だぞ。使うなら借地料を払うぞ」
アリスの正論。だが蘇ったばかりのオラシオンは一文無し。
「私たちは手持ちがない。蘇ったばかりなのだ」
「わかって頂戴。無い袖は振れないの」
だが許すアリスではない。
「お金が無いなら稼ぐぞ。ちょうど勇者向きの仕事があるぞ。お金さえ払えば、此処の使用を許可するぞ」
アリスの提案にオラシオンは食いついた。
「世界で暴れる、蘇った勇者たちを倒してくるぞ。そうすれば、食事は無料でつけてやるぞ。風呂は有料だぞ」
オラシオンの動きを把握でき、甦った勇者の対応もさせる。
「わかった。仕事をして金は払う」
「ここを使わせてもらうわよ」
王道故、基本は真面目。
「契約書を作るぞ。後でもめるのは嫌だぞ」
オラシオンはアリスワールドへ引き込まれていることに、気が付いていなかった。
「借地料は1日37.68Gだぞ。庭全部を使っていいぞ。払えない分は借金になるぞ。仕事の雇い主は、私とママだぞ。食事は1日3回、無料で賄を用意しておくぞ。仕事の報酬は17.9件で1.06Gだぞ」
アリスは早口で言う。オラシオンは、アリスの言う数字を指を折りながら計算する。
「7連勤で1.36%の連勤手当がつくぞ。連勤手当は、1日連勤が伸びるごとに0.17%ずつ増えていくぞ。長く連勤すると報酬が跳ねあがるぞ。支払いは20日ごとでいいぞ」
数字が複雑になり、オラシオンは、指での計算が追い付かなくなる。
「厚生福利に、癒しをサービスするぞ。タヌキのシリウスを無料で貸し出すぞ。遊んで癒されると良いぞ。よければ契約書にサインだぞ」
計算ままならぬうちに、契約書が出された。
「嫌なら出ていくぞ。不法占拠は犯罪だぞ」
王道勇者は犯罪など犯せない。オラシオンはサインをする。
アリスがにやりと微笑んだ。
「いくら頑張っても借地料は払えないぞ。借金漬けにして、言うことを聞かせるぞ」
くっくっくっ、と笑いながらアリスが言う。
「流石はアリスですわ。我が娘ながら恐ろしい子ですわ」
アイリスはアリスを褒め称えた。
「ハハハハ・・・マジで恐ろしい奴です」
エクセレントは、笑いながら言うが、目は笑ってなかった。
「適当に借金が膨らんだら、アレを使うぞ」
アリスが言うアレとは、『ケインロボ』の事。
以前、敵に愛実を捕らえられ、ケインを殺しに来た閻魔との戦いで使った、ケインそっくりのロボット。
姿かたちはもちろん、血も出れば、匂いまでケインと同じ。
「ケインロボに手を出さなければ、オラシオンは脅威ではなくなるぞ」
アリスワールドとは『気が付けば、アリスの掌の上でコロコロされていた』のような状況になる、恐ろしいワールドなのだ。
「でもアリス、いざとなれば借金の踏み倒しや、契約無視なんてこともありますわ」
確かに王道勇者が『するはずがない』と、思い込むのは危険。
「プランBもあるぞ。とりあえず馬車馬の如くコキ使うぞ。食事は豪華にして、油や塩分たっぷりの消化の悪いモノを3食出すぞ。10日ぐらいで体調が崩れるぞ」
悪魔的発想のアリス、2段構えの策。
「体調不良になれば、スキルの効果も落ちるはずだぞ。ケインロボを攻撃するようなら、私達で殺っちゃうぞ」
アリスの言葉を聞いたエクセレントが、ドン引きしていた。
「おいケイン。ヴィーナスから、これが届いてるぞ」
閻魔城にいるケインの元に、ヴィーナス経由で届け物が来た。
「通信機か・・・トーレフだな」
箱を開け中の機器を説明書に従い組み立てる。
「あーあ―こちらケインだ」
「ズズ・・ズズズ・・ケ・・ズ・ケイン・・ズズ・ケイン殿でござるか?」
トーレフの声がする。通信が繋がる。
「アリス殿から聞いたでござるよ。災難だったでござるな。この通信は超特殊回線でござる。オラシオンどころか、天界の女神殿にも分からない仕組みにしてあるでござるよ」
気が利くのが科学班の良い所だ。
「それは助かる。で?どうなんだ?」
俺が聞くと、トーレフの顔は困り顔になる。
「間違いなく、ハイパーブラックホールでござる。女神殿が時間停止魔法を施してなお、今も成長を続けているでござる」
やっぱりなのか・・・。
「現段階では『最悪』と表現するしかないでござる。とにかくデーター取りで、質量の計算ができるまでは、何とも言えないでござる。今後の方針でござるが、女神殿に頼んで、実験時の映像の確認と、機器の示していた数値の調査でござる」
一応聞いておくが、よく出てくる女神殿ってのは、ディーバじゃないよな?
「あっ、ケイン殿はクソディーバ殿が嫌いでござったな。この重要な案件をクソに任せる天界ではないでござる。担当はとっくに変わって『天界科学部の女神エーテル殿』でござる」
そうか、安心した。
「何かわかったら報告してくれ。俺はここから動けないから、連絡は付きやすいと思う」
トーレフとの通信が終わる。
「女神エーテルは、天界の学者の中では最高位です。本件に対しての、天界の本気度が伺えます」
良い女神を担当にしてくれたようだ。
「でも、下界レベルと比較すると、天界の科学力は『高校3年生』レベルです。トーレフさんたちと話が合えばよいのですが」
変なプライドが高くなければいいが・・・。
「ふー。大分倒したな」
「ええ、蘇った勇者がこんなにいるとは思わなかったわ」
「今日だけで265件か。いくらになる?」
「今、計算するわね・・・・オラシオン!大変よ!16Gにもならないわ!1日の借地料の半分に届かない!」
「なんだって!?これだけ倒したのにか?」
「待って、7連勤以上で手当てが付くから、10連勤以後は借地料を払っても黒字になるわね」
「ああ、そうか‥良かった。10日以上頑張ればいいんだな」
オラシオンたちは電卓で計算した。
勇者の報酬は依頼額で決まる。なので日割りの日当で働いたことなど無い世間知らずでもある。
そしてアリスワールドは、そんなに甘くはない。
ヘーゼルは『連勤手当1.36』に騙されている。『17.9件ごとに1.06G』と言う『G』単位ではなく、『%』を使うことで、実際は7連勤しても『16Gの1.36%は+0.22G』にしかならない。それを『1.36倍』になると勘違い。
この勘違いが、知らず知らずのうちに、借金を膨らませることになる。
支払い日である20日後には『約400G』日本円で400万の借金を生む。
オラシオンたちは、まだアリスに絡め取られている事に気が付いていなかった。




