ギルド スノープリンセス2 勇者編 強敵たち②
「あれは過去のエレノアではありません。エレノアは、私の言うことをよく聞いた良い子でした。私の可愛いエレノアが…まさか私の前で『850ヘクトパスカル』を使うとは・・・」
エクセレントは寂しそうに言う。
「勇者と担当女神は固い絆で結ばれています。操られているとは分かっていても、担当した勇者から攻撃を受けるのは、とても悲しいことです」
確かに勇者と女神は特別な関係だ。エクセレントの気持ちは、痛いほどわかる。
「私調べの昨年度実績では、勇者と結ばれる女神は、実に48%も居ました。5年以内の離婚率も3%と低く、平均5.3人の子供に恵まれ、『幸せ』と回答した女神は89%です」
お、おう・・・ティナのリサーチだが、なんか詳しいな。
「私とケインさんが結ばれるのは、必然でした」
来年結婚予定だ。ティナは奥さん2号になる。
「そうだぞ。ケインとティナは良い夫婦になるぞ」
と、奥さんも申しております。
が、これはアリスのおふざけとかではない。俺への愛の表れなのだ。
アリスはチームの主戦力。前で戦う故、いつ自分の身に何かがあってもおかしくない。そんな時、俺の悲しみが少しでも和らぐようにと、ティナを2号に推した。ティナなら自分の代わりができると考えたからだ。
俺はそんなアリスの深い愛情に感謝している。自然と目がアリスに向かう。アリスもまた、俺の視線に視線を合わせる。
「あの、すみません、戦闘中なので宜しいでしょうか?」
セイレーンが良い雰囲気の俺たちに割って入る。
「現在進行方向からの強い風で、本体は進行困難な状況です」
魔道機関のセイレーンが?
「この低気圧は魔法で生み出されています。強い風魔法は、私の飛行性能をも上回ります。そしてこれが術者です。バードが上空からとらえた映像を出します」
台風の目、中心に居るエレノアが映し出された。
「誰だぞこれ?」
ああ、誰だ?エレノアではないよな?
マッチョな肉体に、ペヤングのような大きな顔と割れた顎。暑苦しい男が映し出されていた。
「ああ、私のエレノア!!」
すまん、もう一度頼む。
「ああ、私の愛おしいエレノア」
エクセレントが俺のリクエストにこたえてくれた。
「アレのどこが『エレノア』だぞ!どの辺が『風の妖精』だぞ!」
エレノアはドラミングを遣り、雄たけびを上げていた。
「あれゴリラがやる奴だぞ!胸を叩くドラミングだぞ!」
それでもエクセレントはエレノアを、愛のまなざしで見ていた。
「はい。姉は『蓼食う虫も好き好き』属性です。男の子の好みが、一族で一番ぶっ飛んでいます」
まじかぁ・・・・エクセレントが・・俺は言葉を失う。
「まぁ、人は外見じゃないぞ。中身が重要だぞ。女神として中身を見る正しい・・・うぷぷぷぷだぞ!真面目な顔して言える台詞じゃなかったぞ」
アリスは腹を抱えて笑い出した。
「ケインさん!お願いです!エレノアを殺さないでください!」
そんなアリスはお構いなしに、エクセレントは俺に縋る。
「エクセレント、それは無理だ。エレノアは世界を攻撃している。説得に応じない以上、倒すしかない」
心苦しい決断だが、勇者として譲ることはできない。
「エクセレントねぇさま、ケインさんを困らせないでください!」
ティナも言うが・・・。
「ならティナ!あれがケインさんだったら、お前は攻撃でると言うのか!?アリスさん!あなたにも問う!」
エクセレントの反論に、ティナとアリスが考え込んだ。
「無理だぞ。仮にあれが蘇ったケインだったら、私はケインと一緒に世界を破壊するぞ」
「はい。私もです。神の加護を使い、暴れまくります」
ってダメだろ!
「私の気持ちが分かったかぁぁぁぁ!!」
「わかったぞ。今から私はエクセレント派だぞ。愛に生き愛に死ぬぞ。語り合うぞ!」
「私もです!姉に教えられました。愛のためなら堕天できます。アリスさん、ねぇさん!語り合いましょう!真の愛についてを」
良し、お前たちはそっちの隅で語り合ってろ。
「そろそろ機体のコントロールが難しくなってきました」
「ねぇさま、右からの力に負けます」
「ねぇさま、目を中心に周回中です」
セイレーン本体は右からの風、台風の目を中心に、左回りの風に流される。
「ウリエル、同じ風魔法だ。ここから攻撃は出来ないか?」
ウリエルは魔族。強い魔法を持った風属性だ。
「無理ね。魔法の強さが数段上よ。私では手も足も出ないわ」
流石はランク2位と言ったところか。
「氷魔法は厳禁です。風の中で礫となり、本体を削る恐れがあります」
セイレーンの忠告は、アリスとアイリスが使えないと言うことだ。
物理組は全滅だし、マオの毒魔法も風には弱い。アズサはリキャストタイム中・・
「セイレーン、魔道攻撃は無理か?」
たぶんダメだ。セイレーンには『高い倫理観』がプログラムされている。
『相手からの攻撃』を受けなければ、攻撃できない。先制攻撃は出来ないようになっている。
最近はマスターのアリスの指示で『試し打ち』と称し撃たせていたが、今回ははっきりとした戦闘だ。本当に一撃貰わないと打てないはずだ。
「無理です。この台風は魔法ですが、私から飛び込んでいます。まだ攻撃を受けた認識になりません」
だよな…打つ手が無くなった。
「エクセレントに説得に行かせるぞ」
アリスが言う。
「はい。姉の愛の力でエレノアさんを止めます」
説得には応じない・・今までの勇者で見たはずだ。
「ケインさん!私をエレノアの前に降ろしてください!私がエレノアを止めて見せます!」
エクセレントの真剣な目、姉を信用するティナの目。アリスの『行かせるぞ』と言う目。
「セイレーン、台風の目の真上に付けろ!」
俺はエクセレントに賭けることにした。
「上昇します!魔道機関出力最大!」
セイレーン本体が大きく揺れる。台風の雲の上に出ると、中心へと移動した。
「神の加護!エクセレントねぇさんをエレノアの前にです!」
ティナが神の加護を使う。
アリスが護衛にレナを付け、レナはエクセレントを抱え消えた。
「私でも同じことをするぞ」
アリスがボソッと呟いた。




