ギルド スノープリンセス2星猫編最終章 時の止まった世界 ②
プロローグのなぞりになります。
漆黒の宇宙。そこに浮かぶ宝石のような星。青く輝き、多くの生命を育む星、地球。
私達は、地球が見える宇宙空間に浮かぶ、光る球体の中に居た。
「簡単に説明するぞ。地球はもうだめだぞ。OUTだぞ」
「天界の16評議会で、地球の救済は否決された。俺たちには、もうどうすることもできない」
アリスさんとケインさんが言う。
「なんで、こんなことに?」
私は呟くように言うが、アリスさんが冷たい口調で言う。
「書類上の問題があるぞ。メイドイン地球の2人には、できれば同意をしてほしいぞ」
同意だと!?
「ダメだ!私は認めない!!」
こんな事、認められるはずがない!
「認めるとか、認めないじゃないぞ。これは決定事項だぞ」
「済まないがアリスの言う通りなんだ。地球を救う方法はない。放置すれば、全宇宙の崩壊が起きてしまう。地球を犠牲にするしかないんだ」
「はい。いろいろな方法を探りました。でも、もうどうすることも・・・残された時間は少なく、すぐにでも処置を始める必要があります」
アリスさん、ケインさん、ティナさんは、あくまでも地球に処置を施すと考えていた。
「自分たちの意見は無関係。なら、なぜ自分たちが呼ばれたでありますか?何のために呼んだのでありますか?」
飛鳥さんは意外と冷静に聞いた。
1か月前、地球では超大型ハドロン衝突型加速器による実験が行われた。
これは、素粒子同士を高速でぶつけることで、未知の素粒子やブラックホールの形成などを調べ、ビックバン当時の再現とも呼ばる実験だった。宇宙的には、ある程度の科学が進んだ世界なら行われている実験だという。
しかし全く危険が無いかと言うと、そうでもない。実験により、極々低確率で危険な物質が生成されてしまうことがある。
女神たちは実験のたびに待機し、危険な物質が生成されると時を止め、適切に対処してきたと言う。
が、今回は想定外の物質が生成されてしまった。それが「ハイパーブラックホール」と呼ばれる、仮説にだけ存在したブラックホールだった。
ハイパーブラックホールは、通常のブラックホールとは異なり、空間を食らうことで成長する。つまりハイパーブラックホールに食われると、宇宙空間は空間ごとハイパーブラックホールの中に引きずり込まれ、最後は全宇宙がハイパーブラックホールの中に飲み込まれ、宇宙は消滅する。
しかもその速さは、想像を絶する速さなのだ。
今は誕生したばかりで、点にも等しい大きさのハイパーブラックホールだが、5秒後には地球を、10秒後には太陽系を、30秒で銀河を、1分後には全宇宙を食らいつくすという。
女神は生成された瞬間に時を止めた。
だがハイパーブラックホールは、時の止まった世界でも活動を停止しない。極々ゆっくりだが、周囲の空間を食らい始めているという。
女神たちは最終手段として、『空間の固定』と『時間凍結処置』を選択した。
これは地球の周りの空間を固定することで、小さなハイパーブラックホールでは、飲み込みにくくする効果を狙う。空間をゼリー状と考えた時、ゼリー状から固体に変えたと考えればいい。個体は飲み込みにくいため、空間の固定は有効な対策となる。そして、時間凍結をすることで、空間から時間を奪ってしまう。時間の無いモノは絶対に形を変えない。
処置が施された地球は、未来永劫、時が進むことは無い。
ハイパーブラックホールを抱き抱えたまま、永遠にこの空間でその姿を維持することになる。
「形式上の理由だぞ。書類を作る上で、地球の誰かの同意が必要だぞ。だから呼んだぞ」
淡々とアリスは言う。
「私達は同意なんかしないよ。するもんか!」
私はアリスさんを睨みながら叫ぶように言う。
「なら仕方ないぞ。同意が得られたことにして、書類を作っておくぞ」
アリスは、うっすら笑いを浮かべながら答える。
「そんな・・・」
「アリでありますか?」
地球の未来がかかる重要な書類・・なのにアリスは書類の偽造をほのめかす。
「言い方を考えろアリス!」
そしてすぐさまケインがアリスを咎めた。
「柊さんと飛鳥さんを呼んだのは、今まで地球への帰還を禁止していたからだ。時が止まった今なら、時間凍結処置が終わるまでは、自由に帰還してもらって構わないことを伝えるため・・そして、君たちは、このことが理解できる唯一の地球人だ。伝えておくべきだと考えた」
雪姫と飛鳥は、地球では解禁していない魔法を使える。
なので、魔法未解禁の地球への帰還は禁止されていたのだ。
雪姫は言葉を失う。頭の中を洋々なことが駆け巡り、考えが纏まらない。
対して飛鳥は冷静だった。今聞く事、聞かなくてはいけないことが分かっていた。
「その時間凍結処置とは、いつでありますか?」
頭を抱え呆然とする雪姫をよそに、飛鳥が質問した。
「空間の固定は3日以内に行います。しかし空間を固定しても、外部からの出入りは可能です。固定された空間内の移動もできます。時間凍結は最短だと現地時間で10日ほどです。時間凍結は時間停止とは違い、多くの女神たちによる術式の展開が要求されます。失敗すれば最初からなので、予備日として20日間を見ています」
ティナが淡々と答える。
「20日・・たった20日しかない・・」
雪姫の頭の中は、自分の通う学校や友達、親戚、自分の家、両親のお墓が走馬灯のように過っていた。
「うちの科学班の計算では、空間固定と時間停止による効果で、地球が食われるまで60日だそうだ。地球が食われなければ、ハイパーブラックホールの成長はない。他の星、銀河、宇宙に影響は出ないと聞いた。時間凍結は60日以内に済ませなくてはならない」
ケインの言葉に、呆然としていた雪姫がピクッと反応した。
「・・・60日・・・20日じゃない?」
雪姫はボソッと呟いた。
「時間凍結魔法は200億年ぶりだそうだぞ。女神はドジだから1発では成功しないぞ。だから猶予は実質60日あるぞ。術式メンバーにはティナもいるぞ。ティナなら、ここ1番の大事な時の10日目に5回は失敗するぞ」
「はい。狙いすましたように失敗します。でも本来ハイパーブラックホールは、仮説の中の存在でした。何者かが何かをしなければ、絶対に生成することが無いブラックホールです。何者かが、何をしたか分かれば、もしかすると・・・」
アリスの言葉、ティナの言葉の単語に反応する雪姫。
「ティナさんは・・失敗?誰が何をしたか・・・分かれば?」
目が大きく動き、頭の中でキーワードが動き回る。
「柊さん」
そしてケインの呼びかけに前を見据えた。
『君たちが阻止しようというのなら、俺たちは君たちと戦う覚悟がある』
これはケインの勇者としての言葉。世界を守る勇者としての『邪魔はさせない』と言う覚悟の言葉だった。
だが雪姫は、ケインのこの言葉を勇者の言葉としては捕らえていなかった。
「これがラムタ世界と地球を結ぶアイテム『便利なカギ』です。これを使えば、いつでも地球へ行けます」
ティナが雪姫に鍵を渡した。
「言い忘れていたぞ。今の地球は特殊空間だぞ。案内が居るぞ。柊さんの通っていた高校の校庭で、うちの科学班がデーター取りをしているぞ。本当なら私かケインが付いていきたいぞ。でも私たちは、この件に関わることを禁止されてるぞ。だからトーレフとマリーに案内を頼むといいぞ」
アリスが口早に伝えると、ティナが両手を上げ宣言する。
「これにて時間凍結の承諾会議は終了します。異議は認めません。では解散します!」
雪姫は何かを言いかけたが、飛鳥と光に包まれ姿を消す。
「ふぅーーーだぞ」
アリスが肩で大きく息をした。
「大丈夫だ。柊さんなら今ので分かってくれるはずだ」
ケインがアリスの肩に手を置き、優しく言う。
「だぞ。仮にも最強魔法の打ち手だぞ。星の1つや2つ守れないはずがないぞ」
「はい。柊さんたちは、間違いなく地球へ行きます。後はトーレフさんたちにお任せしましょう」
ティナが眼下にある地球を見ながら言う。
時間停止魔法が施された地球は回転することもなく、ただ宇宙空間に浮かんでいるだけだった。




