ギルド スノープリンセス2星猫編 異なる世界⑦
「アブソリュートには致命的な欠点がある」
ガイの口から出たのは、嫁だの結婚だのではなかった。
「な、何をいきなり!?」
「お前も分かっているはずだ。アブソリュート使いのお前ならな」
「・・・・・」
確かにアブソリュートには、いくつか使い悪さがある。
その筆頭が、使い所の難しさ。下手に打てば世界を凍らせてしまう。
だが、それは致命的とは言えない。
「ピンとこないか?俺が言うのは『発動までの時間と、打ち手の防御』だ」
!?
「発動まで絶対零度の冷気がお前を守るが、俺は絶対零度程度では凍らん。その気になれば、あの時のお前を殺すことだってできたんだぜ」
た、確かにだ。ガイは冷気の渦の中を通り、私の前に来た。
「アブソリュートを使う相手だ。それなりに強い敵。中には絶対零度程度では止められない奴だっている。発動体制に入ったお前を守るだけの能力は、アブソリュートにはないということだ」
ガイの言わんとしていることは理解できた。
だが私には仲間が。みんなが居る。守ってくれる皆が。
「こいつらか?こいつらで守れると思うのか?絶対零度で凍る連中が、絶対零度をものともしない奴らから?」
ガイが周りを見渡した。悔しいがその通りだった。
「雪姫!お前は自分の防御力を過信評価している。いずれその過信に足を掬われる時が来るぞ。その時こいつらではお前を守り切れない」
見下すようにガイは言う。
ブルックが拳に力を籠めるが、反論ができない。
銀姫さんやサマンサたちも歯を食いしばり耐える。
・・そう。このギルドには、アブソリュートを使う際の冷気が収まるまで、私の傍に来れる者は居ないのだ。
「俺の嫁に成れ。そうなれば、お前は魔の一族の一員になる。何かあれば一族がお前を守り、俺は常にお前の傍についている」
魔の一族・・強力な魔法を持つ一族。白の一族に与えた力から、その能力の高さは伺える。
「一夫多妻と言っても、ガイはほとんど私たちの元には来ないわ。私も守ってもらうためにお嫁になったの」
遥さんが言う。
「お前には守り手が必要だ。俺がお前を守ってやる」
真剣な眼差しを向けられた私は、少しだけキュンとしちまった。
が、私には白姫さんが残してくれた打掛や、ミサキさんもいる。役に立たないはずがない皆だっている。
って、なんでミサキさんは何も言わない?いつもなら『雪姫の守りなら私が居ますよ』的なことを言うはずなのに、なぜ何も言わないでテトとじゃれている!
「ちょっと待てよ。話を聞いてたら、俺たちが役立たずみたいに聞こえるんだよな」
「うん。なんか気分悪いよ」
ソーマが立ち上がり、ヘレンが続いた。
「あんた、言うほど強いのかよ?」
「魔だか間抜けだか知らないけど、スノープリンセスを馬鹿にするなら、首を吹き飛ばすからね」
こいつら!ギルドを馬鹿にされて怒れるのは、ギルドの魂を持っているからだ!もっと言ってやれ!!
「おいおい餓鬼ども、俺は魔の一族だぞ。強いだと?誰に言ってる?」
ガイは見下したように言うと、ミサキさんが『食いつきましたね』と囁いた。
私もそれを聞いて理解した。
「よし、こうしよう。ソーマ、ヘレン、アリサでガイと戦闘。もしガイが勝ったら話を聞いてやる。でも、この子たちに負けるような奴なら、2度と話は聞かないし、2度と来ることも禁じる。いいね?」
ガイの目が輝いた。
「勝てば嫁か?貰った!どう見ても中級レベルの魔力しかない3人だ。勝ってくださいと言わんばかりの条件だ」
嫁じゃない!話を聞くだけだ!だけど、あんたの負けだ。初見でソーマとヘレンに勝てる奴なんかいないよ。
負けて思いっきり泣け。
「ガイ、油断しちゃだめよ。相手を見下すのは、あなたの悪い所よ」
遥さんは、ガイのことをよく知っているようだった。
「油断?Bクラスにか?へへへへへ!10秒で勝ってやるよ。ポーションの用意をしておくんだな」
バカめ、10秒で負けるとも知らずに。
ミサキさんが3人にアドバイスを出したし、これで盤石だ。
「双方、全力で遠慮なく相手を倒すことに専念するように」
草原。ここなら被害は出ないし、思いっきり戦える。
って!ミサキさんの案内できたけど、ミサキさんと戦った草原じゃないか!
「私たちの思い出の地です。ここで私はあなたに凍らされ・・・」
またその話かよ!
「命運をかけた戦いで、貴女が楽勝した、縁起の良い地でもありますよ」
この人の気遣いは、どこまで本気なのか分からなくなる時があるね。
「さて、やるか小僧ども。15秒で終わらせてやる」
お?5秒伸びた?遥さんから油断するなと言われたせいかな?
「10秒で倒してやる。スノーの強さを見せてやる」
「うん。私達、見習い幹部なんかに負けたら、恥ずかしくてラムタ世界に来れないよね」
「あの?『私達、見習い幹部』って、私も入ってるんですか?私もスノーの幹部見習いで良いんですよね?」
アリサちゃん、今そこに食いつかないで。
ソーマ、アリサ、ヘレンの並びで3人が構えた。
「雪姫、ガイの戦力は未知です。最善策を授けましたが一発芸ですので、万が一の時は絶対防御を使いますよ」
ミサキさんが私に囁く。
「うん。3人に絶対にケガはさせないようにね」
私は答えた。
「よし、始め!!」
私の掛け声でガイは猛突進。
「へへへへへ!!!俺の速さについてこれるのかよ!」
笑いながら突進。魔法の発動体制に入った。
「品のない笑いですね」
「にゃん」
ミサキさんの『きゃははははは』といい勝負の下品な笑いだ。
「絶対防御!!」
お?先制はアリサちゃん?
突進するガイの前に、アリサちゃんの絶対防御が張られ、流石のガイも剣で防壁を切り裂かずには進めない。
「ヘレン、借りるぜ!攻撃的防御!」
そこにソーマの攻撃的防御。ガイは絶対防御の防壁と同じように・・・
「ぐはぁぁ!!」
ソーマの防壁に攻撃し、発動する爆裂魔法を食らう。
「いまだヘレン!」
「うん!借りるねソーマ!」
爆裂魔法に吹き飛ばされ、一瞬動きが止まったガイ。
「な、なんだ?どこから爆裂が・・」
首を振り、ダメージを確認するガイに、ヘレンの魔法『隔離爆裂』が発動する。
「なに!?」
周囲に防壁が張られた、と認識した瞬間までは記憶がある。
が、そのあとの記憶はない。これがヘレンの魔法だ。
「7秒でございましたな」
ギャリソンが時計を見ながら言う。
「へっ!口ほどにもねー奴だな」
「僕でも楽勝だったでしょうね」
ブルックとアーロン君が言うが、ガイが弱かったわけではない。一発芸と言っていたが、作戦の組み立ての秀逸さだった。
ソーマとヘレン、そこにアリサちゃんが加わるだけで、戦略に幅ができる。
絶対防御の防壁と攻撃的防御の防壁が見分けがつない。
おそらくミサキさんは、この3人の戦い方をトコトン突き詰めている。
数種‥いや、数十種の戦略を用意しているかも。
「なるほどね。油断しなくてもこうなるわね」」
遥さんがボロボロのガイの元へ行く。
「スノーを馬鹿にするやつは許さねーぜ」
「私たちだって雪姫マスターを守れます。魔力の強さがすべてではありません」
「幹部候補の私からも一言。スノーは凄いギルドなんです!」
最後のアリサちゃんの一言は気になるが、よくやった!そして、よく言った!
「この勝負はガイの負け。伝えておくけど、この男は諦めないわよ。契約を厳守する魔の一族だけど、しぶといから覚悟してた方がいいわね」
と言うと、ガイを抱きかかえゲートに消えた。
「スノープリンセスの誇りを守ったね」
私がソーマ達に言う。
3人は大喜びしながら称え合う。
スノープリンセスの魂を持つ10歳の少年少女。いずれこの子たちは私達の頼もしい仲間として成長していく、と私は確信した。




