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5話 塩鉄

「血抜きがされているな」


屠殺場に着き買い取ってほしいと猪を屠殺人のシンさんに見せた第一声がそれだった。


「ダメでしたか」


顔をしかめるシンさんを見て私はやっぱりかと思った。


「味が落ちるからな」


日持ちさせるためとは言えやはり血抜きをしたのは失敗だったようだ。


「すいません」


 この時代血抜きされた肉は嫌われる。と言うのは塩鉄と言う法律が影響している。塩鉄とは塩と鉄を政府が専売すると言う法律だ。お陰でこの時代どこに行っても塩は高い。どれくらい高いかと言うと1石の塩が1000銭する。

 1石が大体26~7キロで1000銭は農家の収入が1月約500銭なのでその2倍だ。運動量の減った現代でも塩の摂取量は一人1か月1キロで使用量は2キロで、運動量が多く塩の効率的な利用が出来るほど技術が進んでいないこの時代だと1石の塩は1年でおおよそ消費できてしまう。つまり、年収の6分の1が塩代に消えるのだ。年収が300万円あったとしたら50万円が塩代へ消える。現代で1キロの塩が200円以下で買える事からその異常なお値段が分かっていただけるだろうか。で、そんな塩の代用品となったのが血だ。

 血には塩分が含まれる。そのため、塩が買えない貧民層や塩が売っていない時期には普通の人でさえ血のしたたる肉を買い求める。そんな理由で血の抜かれている肉は幾ら鮮度がよくとも不良品扱いとなる。と、言っても血抜きのされている肉もちゃんと需要があり、どんな需要かと言うと富裕層が買うのだ。富裕層はしっかりと塩分を取っているため、血抜きのされていない肉は獣臭いと食べないのだ。が、残念ながら裕福層は裕福層で普通に牛などを血抜きし食べるため、やはり血抜きされた猪は需要が皆無だった。


「気にするな。今度から血抜きせず持ってこい」


「あの……」


「なんだ」


「血抜きした血なんですが、竹筒に入ってるんですが、買い取っていただけませんか」


「味を見ても?」


 私の顔をギロリと睨みながらシンさん言う。鮮度が気になるのだろう。


「どうぞ」


 私は了承し竹筒をシンさんに渡した。


「……よし、肉と血、併せて1100銭でどうだ」


 シンさんが竹筒から出した血をペロリと舐め目を閉じて少し経った後言った。


「え?」


「どうした。不満か」


「いえ、村では1000銭だったので」


 そう、猪の相場は1000銭で季節によって多少前後したが粗悪な董卓五銖銭が出るまでそこまで変わらなかった。そう、私は一回の狩りで農家の2か月分の収入を得ているのだ。

 勿論、普通狩りと言うのは村の男が総出で数日をかけて行うもので獲物を仕留めても人数で分けるため分け前は少なくなる。が、チート呂布である私は10日もあれば確実に1頭、番や群れに出会えればそれ以上の獣を狩れる。そのお陰で私は月に一回狩りに出かけそれ以外は遊んで暮らすと言う生活をしておきながら、月平均1000銭以上を稼いでいた。

 その為、私は史実の様な役人にも兵士にも農家にもならず、ある意味ぷー太郎の様な生活を送っていた。


「そうか。まあ、運び賃だ」


「ありがとうございます」


 これでまた一月二月遊んで暮らせるな。


「よし少し待ってろ。銭を持ってくる」


 そう言うとシンさんは店の奥に行き金を持って現れた。


「ほらよ猪2頭で2200銭だ」


 そう言うとシンさんはドカリと秤に五銖銭を乗せ2200枚になる様に重さを測り始めた。


「はあ」


 私はいつもその光景が苦手だった。


「どうした。今更何か不満があるのか」


「いえ、だって」


 私がこの光景が苦手な理由。それは。


「邪魔なんですもの」


 紐で束ねられているとは言え7キロ近くなる五銖銭の重さを感じ、今からこれを持って買い物に行くのかと憂鬱な気持ちになるのだった。


「しょうがねえだろ。他の国と違って銀貨も金貨もねえんだからよ」


 そう、この時代、紙幣が無いのは当たり前にしても五銖銭しか無いのだ。50円玉しかないようなもので、すっっっっごく不便なのだ。


「はあ」


 私は腕に感じる重みにまたため息をついて屠殺場を後にするのだった。 

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