4話 入門
「次」
城門で検問をしている守衛が列の先頭にいる私に目を向けながら言った。
老父からチートを貰い、5年、10才になった私は生まれ育った村から旅立ち大きな町に来ていた。
「納税証を見せろ」
「はい」
私が納税証である木片を渡す。これが異世界転移物だと身分証を持っていなくて『持ってない』『なら金払え』と言うひと悶着があるのだろうが、自分はそんなことにならない……と言うか、もし持っていなかった場合何年かさかのぼって税金を納めなければいけない為、千円や二千円程度で町にはまず入れない。水族館や美術館じゃないんだ。入るには十万や二十万円ぐらいは払わなければいけない。パスポートを発行するのと同じだ。それくらいかかる。
「未成年だと?」
と、思っていたらひと悶着の予感だ。守衛は納税証と私を見比べ疑い深く私を睨んだ。
「俺よりでけえのに、それは無理があるぜ。拾ったか、盗んだか、奪ったか知らねえが、つくならもうちょっとマシな嘘をつくんだな」
言われると思った。そうなのだ。実は私、不肖10才にしてこの時代の平均成人男性の身長を超えている。毎日欠かさず辰砂を飲んだ影響か骨格のひずみとかゆがみを無くし人類の理想とされる成長を遂げた為だと老父は言っていた。結果このまま成長するとこの時代どころか人類史上最高の身長を獲得しうるほどの成長を遂げているのだ。お陰で初見で私を子供だと信じてくれる人は皆無だった。
私は仕方なく精一杯身を縮ませながら守衛に言った。
「本当なんです。この顔見てください。ひげが生えてないでしょ? なんだったらあっちの毛も生えてないんで確認してください」
大人と子供では税金が6倍違う。年間大人120銭、子供20銭だ。ここで難癖を付けられ大人と同じ人頭税を何年か分払うと、それだけで持ち金を失う。そうなれば兵役につくか賦役をするか。とにかく旅どころでは無くなる。私はそうなりたくない一心で守衛に頼み込んだ。
「……ついて来い」
え!? 本当に見るの?
――――
―――
「はっはっは、悪かったな。ホントにツルツルだったわ」
守衛がバンバンと私の背中を叩きながら言う。
私は大きな心の傷と引き換えに路銀を守り抜いた。
「だが呂布、お前も悪いんだぜ? 背はでかいわ立派な馬はいるわその馬にはでかい猪を担がせてるわ……これでガキだってのは無理があるぜ。で? この町にはその猪を売りに来たのか」
そう、私は大きな赤毛の馬に猪を担がせて列に並んでいたのだ。馬の名前は赤兎、そう史実で呂布が丁原を殺しその褒美に董卓から送られた馬と同じ名前だ。と、言っても私の後ろを今歩いている赤兎は私が老父からチートを貰った後、私のいた村で生まれた仔で史実の赤兎とは違う。その、私から見てあまりに美しい赤毛が原因か分からないが親の馬が育児放棄をしてしまったところを私が代わりに育てたのが今の赤兎だ。始めは辰砂を与えた動物はどうなるかの実験も兼ねていたのだが赤兎はすくすくと育ち21世紀の競走馬にも負けないどころか追い越す勢いの良馬となり、手塩に掛けて育てた結果、今では旅の共として一緒に来てくれるほどの仲になっていた。
「はい、何かいい引き取り先はありませんか」
そして、今回町に来た理由は赤兎が運んでいる猪を売り、金を稼ぐことにあった。
「そうだな。あの川の下流に屠殺場がある。そこで売るなり解体して辻売りするなり好きにしろ」
屠殺か。勿論経験はある。今、赤兎が担いでいる猪より大きい牛や馬の解体も一人でも出来る。が、それを辻売るとなると話は違ってくる。不審者の売る生肉など相当買い叩かれる筈だ。そう考えると、屠殺場で引き取ってもらった方が時間的にも金銭的にも良いだろうか。
「ありがとうございます。龍さん、これお礼です」
チ〇コ見られてお礼も何もあったもんじゃないが、一応は大人と子供の人頭税の差額100銭の礼がある。100銭と言えば日本円で3万3千円? ほどの価値だ。けして馬鹿にできない金額な訳で、だから、お礼は必要だろう。
私はひと悶着の末なぜか名前を名乗りあい、勝手に親しくなった気がした私は龍さんに言った。
「何だこりゃ」
「柿です。甘いですよ」
私の渡した干し柿を見て顔をしかめる龍さんに甘味であることを告げる。ついでに言うと干し柿は1世紀の中国の書物にその存在が書かれているのだが、一般的に製法が知られたのは恐らく6世紀ほどなので後漢時代ではまだまだ珍しい食べ物のはずだ。100銭の礼には及ばないだろうがと思いながら干し柿を龍さんに一つ渡した。
「ほおん、ありがとよ。嫁に食わせてみるよ」
「はい、それじゃあ」
こうして、ひと悶着あった守衛の龍さんと別れ、私は川の下流にあると言う屠殺場を目指し歩き出したのだった。