3話 辰砂
「仙人は神様見習いの様なものじゃ。まあ流石見習いと言ったところでの、今流行りの異世界転生とやらをさせてやれるほどの力や縁がないんじゃ。じゃから代わりに地球の、昔の中国に転生したいと思っとる者を転生させ、その者の興行をわしより上位の神様に見せ楽しんでもらい、神階を上げるきっかけにするつもりだったのじゃが、どうやら間違えてお主に望まぬ転生を強いてしまったようじゃ。すまん」
老父が頭を下げ私に言う。
「はあ、私としては前世の記憶ありで転生させてくれただけでかなりありがたいんですけど」
私は強くてニューゲームさせてくれたのだから感謝しかないが?
「わしが余計なことをしなければチートと前世の記憶を持って剣と魔法で無双できる異世界のお貴族様の跡取りに生まれると知ってもか」
「……聞きたくなかった」
私は頭を抱え言った。こんなぺんぺん草しか生えていないような荒野でなくちゃんと衣食住揃ったテンプレ転生が出来ていた可能性があるのならそちらを選びたかった。
「すまん。お詫びと言っては何だが、わしの出来る範囲でチートを授けよう。何が良い」
「何が……出来るんです?」
詫び石きちゃ。
私は頭を抱えた腕をそのままに老父の方に顔を向け言った。
神様見習いではチートも大した事無い気はするがあるとないでは雲泥の差だ。
これで私もなろう世界に2割しかいない無チートなろう主人公からなろう界隈を賑わす8割のチート持ち主人公となれる。
え? それはなろう界隈じゃないって? うるせえ世のなろう読者が求めてるのは異常に折れない正義の心を持ち、自分では敵わない怪物に立ち向かうもボコボコされた末、相棒である自転車まで投げつけたにも拘らずやっぱり健在の怪物に殺されそうになるヒーローではなく、そんな絶望と恐怖を振りまいた怪物を一撃で倒す主人公を求めてるのだ。
勤労に励み貯まった100万円も宝くじで当たった100万円も価値は同じだ。
なら努力の末手に入れた力と神様がくれたチート、そこになんの違いもありゃしねぇだろうが! 違うのだ!! ピーターよく聞け。大いなる力には大いなる責任が伴う。誰!? ってかピーターはスーパースパイダーに嚙まれたからスパイダーマンの力に目覚めたって設定でむしろなろう主人公の先駆けみたいな存在だからな。
話が逸れた。さあ仙人、献上せいチートを10連で良いぞ。
「無病息災」
老父は蚊の鳴くような声でボソリと言った。
「……だけ?」
「……ああ」
老父が目をそらしながら言う。
「え? 私、古代中国に拉致被害者されたと思ったら健康以外何もなしで放り出されるんですか?」
馬鹿な、健康など異世界転生チートランクコモンもいいところ、むしろ中二病以外の持病を持った主人公の方が珍しい。そんな最低保証にも満たないチートを貰っても嬉しくない。こうなったら私は知らない天井を目指す。さあ、クソ運営とのデュエルの開始を宣言しろ!! カンコーン。行くぞ課金王クレカの貯蔵は十分か。せめて学園都市最強のロリコンが持つ反射か裸エプロン先輩の持つ『なかったこと』に出来るマイナスかこの世の全てが詰まった四次元ポケットな宝具をくれ。え? 全部くれやるから笛吹き男の所に行けって? それは、ちょっと……違うじゃん。害悪オリ主、マイナス評価、バットが入りすぎて見えなくなった感想、ウマ〇で埋まったランキング。うっ頭が……まあこっちのランキングも追放ざまあで埋まってるんですけどね。
「待て待て、無病息災は健康よりもうちょっとすごい。辰砂と言う何でも治す万能水を作り出す技? ……じゃ」
「辰砂? あの始皇帝が追い求めた不老不死となる仙薬ですか?」
そして探し求めた先が水銀でその水銀は実は猛毒だったと言うあの辰砂か……。え? 老父私を毒殺しようとしてる? そんなに嫌われていたかパオン。あと始皇帝が水銀を飲んでたと言う資料は無いので勘違いしている学生は気を付けるように、マグル学では杖を振り回すような真似はせん真面目に机に向かったものが上に行くのだ。グリフィンドールにマイナス10点。
「おお、知っとったか。そうじゃ。水が入っておる器にお主が祈ればその水はたちまち葡萄酒と変わりその変わった葡萄酒は全てを治す聖水であり仙薬であり辰砂でもある。と言う、お主の言うところのスキルじゃ、どうじゃ? 凄かろう」
なんだ、本物の不老不死の妙薬か。よかった。私を殺そうとする仙人なんかいなかったのか。私の勘違いかよ。なあ、人はいつ死ぬと思う。人に忘れられたと時さ、安心しろ仙人、俺はお前の毒じゃ死なねえ。まったく、いい人生だった……ドッカーン!! 死んでる!?
「水を葡萄酒に変えるって、キリストみたいですね」
「まあ聖人に出来て仙人に出来ん道理は無いの」
「ふ~ん、でもこう簡単に不老不死の薬を譲って大丈夫ですか?」
「辰砂で得られる不死性はわしが知っておる中では低い、不完全な物じゃ。故にお主に渡せるわけじゃがな。あと副産物として酒精の無いぶどうジュースも作れる。体が出来ていないうちはそっちを飲んだ方がいいじゃろうな」
「なるほど。ありがとうございます。後は……何がいただけるんですか?」
「何でもよいぞ。といっても、あと二つぐらいじゃがな。何が欲しい、スキル以外でもいいぞ」
こうして、私は仙人である老父からチートを授かりそれから――――5年の歳月がたった。