2話 漢
待ってください。彼は悪くないんです。只ちょっと頭が悪いだけなんです。
「呂布か~」
自分の名前が呂布だと知った先生宅からの帰り道、私は独り言をつぶやいていた。
呂布。それは中国に過去実在した人物で、どんな人物かと言うと、ぶっちゃけ中ボスである。後漢時代の中国に現れ帝を擁する董卓とタッグを組み漢をヒステリックを起こした女の髪の様にかき乱した後、そのタッグを組んでいた董卓をぶっ殺し、各地を放浪、劉備の元に身を寄せ、その劉備が城を空けると留守を守っていた劉備の義弟張飛から城を奪い、後に蜀を興す劉備と後に魏を興す曹操と言う二大傑物に挑むも水攻めにより敗北、部下共々処刑され歴史の表世界から姿を消す。え? 表があるなら裏があるのかって? ……まあ、裏の歴史では極東の魔改造大好き人間達に見つかり異世界行ったりゴキブリと言われたり2メートル30センチの化け物に書かれたり女体化したりしている。ん? それは裏じゃなくて黒歴史だって? うん、それはそう。
つまり、私はそんな傍若無人な人物に転生した……とでも思っていたのか?
「呂布奉先は静かに暮らしたい」
そう、呂布奉先は静かに暮らしたい。私は周りに誰もいないことを確認した後ヘンテコなポーズを決め言った。おれは人間をやめないぞ! ジョジョ──ッ!! 考えても見てほしい。前世の記憶もを持ち転生するものがどれほどいる。そこから歴史上の有名人に転生する確率はどれほどだ。そう、限りなくゼロに近い。いや、ゼロだ。だから私は三國志の呂布じゃない。同姓同名の別人だ。QED証明終了……まあQEDが何の略か知らんけど。
「たっだいま~」
そんなこんなで私はヘンテコなポーズのまま自分を『呂布だけど呂布じゃなかった』と考え帰宅した。
「おう、お帰り……何してんの」
家には、すでに私を育ててくれている義父である老父が帰宅していた。
「いえ、何も」
私は老父の怪訝な顔を見ないようにしながら身なりを整えながら言った。
「老父こそ早かったですね。何か良い事でもあったのですか」
機嫌が良さそうに杯を傾ける老父に、私は尋た。老父の赤ら顔と言いあの杯の中身は酒だろう。祭り以外の日に酒を飲むとは、何か相当良いことがあったはずだ。
「ん? ああ、これはな、お前が今日、自分の名を知ったと聞いてな、祝杯を挙げてたんじゃ。どうじゃ。呂布じゃぞ。嬉しいじゃろ」
「嬉しいと言うより驚きましたけど」
子供が自身の名前を知ると祝杯を上げるのか? 変な文化だな。私はそう思いながら老父に聞いた。
「そうかそうか。驚いたか。そりゃあ呂布じゃからの。驚くのも分かるぞ。なんせ中国最強。お主の願い通り漢最強じゃ」
「私の願い?」
なんだそれは。確かに呂布は漢最強の一角ではあるだろうが私が赤子の時に名前を呂布にしてくれと頼んだりした覚えはない。老父は何を言っているんだ?
「ん? お主が死ぬ前に漢最強だったならと願ったんじゃろ。覚えとらんか」
「え? いや私は最強の漢だったらこんなオヤジ狩りも撃退できたのかなと思っただけで……って何で知ってるんです!?」
私は、もう懐かしさすら覚える5年前の記憶を掘り出し言った。確か出かけ先でオヤジ狩りに会い、ボコボコに殴られていた時、最強の漢だったならオヤジ狩りも撃退できたのかななどと考えていたはずだ。そしてだんだんと意識が遠くなっていき、気づいた時には病院のベットの上。かと思ったら転生を果たしていた。あの時ほどなろう小説を読んでいてよかったと思った事は無い。しかし老父、なぜそれを貴方が知っているんだ?
「え? ……ちょ、ちょっと待って、これっておとこって読むの? かんじゃなくて?」
老父は何処からともなく短冊の様な紙を取り出し私に見せながら言った。そこにはただ一文『最強の漢』とだけ書かれていた。
「『最強の漢』ですね。第一『最強の漢』じゃ意味が通じませんよ」
「いや、わしも変だなとは思っとったんじゃが……間違った。そうとは気づかず後漢で最強の男、呂布に転生させてしもうた」
「あの、もしかして自分って三國志に出てくるあの呂布に転生してるんですか。同名の別人とかでなくて」
「うむ……すまん。わしのミスじゃ」
なぜか謝罪をする老父の言葉を聞いて私はしばらく腕を組んで考えた。転生先を間違える何てミスができる存在は一人、いや一柱しか思い浮かばない。ははーん、さては老父、貴方は。
「神様だな」
私はビシッと右手と右人差し指を垂直に老父に向けまるで犯人はお前だと言わんばかりの名探偵のつもりになってキメ顔をしながら言った。
「いや、仙人じゃ」
「どう違うねん!?」
私は思わず体をガクッと傾けながら言った。
ずっとタイトル間違ってた恥ずかしい。