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姫騎士を鍛える(1)剣技

★ ☆ ★


 授業を終えた俺は、自室で休んでいた。

 四つのある尖塔のうち最右翼にある一室だ。ここは、見晴らしもいい。


 ちなみに魔力結界を城塞都市全体に張っておいたので、魔物が近づいてきたらすぐにわかるようになっている。


「ん? この気配は……」


 窓から外を眺める。

 ちょうど、城門に馬車と警護の騎馬隊が入ってくるところだった。


 この魔力は、ほぼ間違いなくトヨハのものだ。トヨハは魔法使いではないが、一般的に人間のすべてに微量の魔力はある。それで識別できるのだ。


 俺は窓から飛び降りると、重力操縦の魔法を使って地面に着地。

 城門へ歩を進めた。


「あら、ナサトさま!」


 馬車を降りたトヨハは、俺の姿を見て笑みを浮かべた。


「なんだ、なにか用か?」

「はい、ちょっと様子を見に来ました」

「生徒の鍛練なら、しっかりやってるぞ?」

「はい、ありがとうございます! 教頭先生から話を聞きましたが、生徒の皆さん、すごくナサト様に懐いてらっしゃるようですね!」


 校長が告げ口でもしたから学園に来たのかと思ったが、トヨハはニコニコしている。

 なんか問題になったというわけでもないらしい。というか教頭なんていたのか。


「それと、実はわたしもナサト様に剣の稽古をつけていただきたいと思って……」

「城を空けて大丈夫なのか? なんなら俺が城に転移して鍛練してやってもいいぞ」


 姫騎士といっても、戦うだけが仕事じゃない。政務とかいろいろあるだろう。


「そ、そうですね。申し訳ありません、ちょっと自覚が足りませんでした……」


 俺の言葉を受けて、トヨハはシュンとしてしまう。


「いや、まぁ、気分転換も大事だしな。城に籠ってるのもつまらんだろうし、うん、まぁ、俺がいるから城に魔物とか押し寄せてきても、大丈夫だ! なんなら、俺が転移魔法で送り迎えしてやってもいいぞ!」


 落ち込んでしまったトヨハを、慌ててフォローする。

 姫なのに、偉ぶったところがないどころか謙虚すぎるから困る。


「ありがとうございます、ナサト様、お優しいのですね」

「いやまぁ、俺も剣の鍛錬はしようと思ってたしな」


 魔法学園なので、生徒たちに剣を教える機会がない。

 剣で戦うのも大好きな俺にとって、素振りだけじゃ物足りない。

 トヨハの剣の腕は、それなりの域に達していることは分析魔法でわかっていた。


「そうなのですか? それは、よかったです! ぜひ、わたくしと勝負してくださいませ!」


 ニコニコしながら、そんなことを言ってくる。

 やはり、ただの姫というわけではないらしい。


「よし、それじゃ、さっそく移動するか」


 ここだと、狭すぎる。というか、城の敷地内じゃ全力なんて出せない。

 俺はトヨハごと瞬間移動魔法を使って、城壁の外の野原へと移動した。


「わあ、すごいですね! 一瞬で、別の場所まで移動できてしまうだなんて!」

「というか、この国の魔法って、瞬間移動魔法すらなかったんだよな」

「はい。移動速度を上げる魔法なら、あるのですが……」


 それじゃ、街を自在に移動することもできなくて不便だったろう。

 そりゃ、ほかの国と連携して魔物を撃つなんてこともできずに各国が撃破されていってしまうことになる。


「ま、俺が来たからには安心してくれ。いつどこで魔物が現れても、すぐに迎撃して殲滅してやるから」

「ありがとうございます。心強いです! このままではわたくしの国も長くないと思っていたのですが、ナサトさまが来てくださったおかげで、本当に救われました!」


 世界を救う醍醐味は、こうやって感謝されることだ。まあ、俺は好きな戦闘をしまくれるし、世界は救われるしウィンウィンといったところだろう。


「ま、今回は育成にも力を入れることにしたからな! 魔法学校の生徒だけでなくトヨハもしっかり鍛えてやるからな!」

「はい、よろしくお願いいたします!」


 いい返事だ。いい国に転移してきてよかった。まれにクズのいる国に転移することはあったが、そういうときはお仕置きタイムになることもある。


 ともあれ俺は、右手を天に掲げて魔剣を具現化させた。


「よし、トヨハも剣を抜け。いつでも俺に斬りかかってきていいからな!」

「はいっ!」


 トヨハは腰に提げた剣を、抜き放った。

 金銀宝石で彩られた、装飾過多な剣。

 いかにも王族の剣だ。


「いろいろとエンチャントされてるな。いい剣じゃないか」

「はい、我が国に代々伝わる宝剣です!」


 付与(エンチャント)されているのは、腕力アップやスピードアップ、クリティカル確率アップなど剣士としては嬉しいものばかりだ。

 そして、装飾過多な外見とは裏腹に軽量で、トヨハは片手で楽に剣を構えていた。


「はは、少しは楽しめそうかな?」


 俺は上段に構える。

 一見、胴が隙だらけの、どうしようもない構えだ。


「……っ!」


 トヨハは踏み込もうとして、慌てて止めた。


「……隙が、ない……」

「ほう、やっぱり、ただのお姫さまってわけではないようだな」


 二流剣士なら、隙だらけだと思って突っ込んできているところだ。

 だが、トヨハは引っかからなかった。つまり、一流ということだ。


「……くっ……」

「ほらほら、どうしたっ」


 対峙したことで、俺との実力差がわかったのだろう。

 トヨハは、足を影に縫い付けられたかのように動けなくなる。


 まぁ、実力差がわかるというだけでも、トヨハにも力があるということだ。

 二流以下の剣士なら、そんなこともわからずに突っ込んでやられている。


「来ないなら、こっちからいくぞ~?」


 俺は軽い口調で言いながら、ジリジリと間合いを詰めていく。

 そして、トヨハも同じようにジリジリと下がっていく。


「ほらほら、向かってこないと稽古にならないぞ?」

「……っ!」


 あえて剣を振り上げて隙を大きくすると、すかさずトヨハは踏み込んでくる。


「よっと」


 ここで胴を狙ってくるのは正攻法だが、ゆえに予測しやすい。

 俺は、すぐに剣を中段にしてトヨハの斬撃を防いだ。

 だが、トヨハは止まらない。


「やあああああああ!」


 仕掛けたからには、一気に倒そうということだろう。いい心がけだ。

 胴から、突き、上段、下段と連続で剣を振るってくる。


「いいぞ、いいぞ、その調子だ!」


 やはり、ただのお姫様ではない。

 しっかりと鍛練してきたからこそ出せる剣技だ。


 だが、俺にとっては余裕そのもの。

 すべての攻撃を、完全に相殺する。


「そんなものか? ほらほら、もっと本気でこい!」

「くっ……ならっ!」


 トヨハは剣ごと俺に弾き飛ばされた勢いを利用して、大きく飛び下がる。

 そして、一旦、剣を鞘に納める。


「おっ、居合でもやる気か?」

「ご存じなのですね? ……なら、わたくしの本気の抜刀術、見せてあげます!」


 剣は連続攻撃で倒すタイプと、一撃必殺で葬るタイプに大きく分かれる。

 居合技は後者だ。溜める技なので時間はかかるが、威力は段違いである。


「……すぅ……」


 トヨハはこちらから視線を外さないまま、呼気を整える。

 なおこれまでの戦闘で、トヨハの頬はほんのりと赤く上気していた。


 その一方で、温度が下がったような錯覚がした。

 つまり、殺気が強まったのだ。


「おお、こりゃ楽しみだ」


 なおも余裕を失わない俺に、さすがにちょっとムッとしたのだろう。

 トヨハは少し怒った表情になりながら、こちらを睨んだ。


「いいぞ、殺す気でこい。そうじゃないと稽古にならないからな」


 俺は、あえてトヨハに向かって歩いていく。


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