僕がおっさんになった理由
僕の記憶が正しければ、僕は15歳でこの春高校生になったばかりだった。あの日の帰り道、交通事故に遭うまでは。
僕はその事故によって意識を失い、次に目を開けた時には見ず知らずのおっさんになり薄暗い事務所の片隅に座っていたのだ。周りには誰もおらず、煌々と光るPC画面には作りかけの書類が開かれている。何だコレは。僕は焦って引き出しを漁り鞄とその中から財布、免許証を見つけ出した。免許証を見る限り、僕は冴えない中年のおっさんだった。何故こんなおっさんに。僕は萎えて勝手に事務所を出、免許証の住所を利用しておっさんの自宅へと帰った。
次の日、僕は会社を休んだ。会社の番号を調べ、怪しまれながらも休みを取り向かった先は”僕”の家だった。幸い、おっさんの財布にそれなりの現金があったお陰で無事に家まで辿り着いたが、門をくぐる勇気は出ず僕は通りの角からそっと様子を窺った。特に変わった様子は無い。そうしている内に母親が家から出てきた。僕はドギマギしながら母を見つめ、母親は僕ー今はおっさんの僕に気づき立ち止まる。次の瞬間、母の顔は豹変し、今まで見せたことのない険悪さで僕を睨んだ。僕はその顔に怯え、為す術なくおっさんのアパートへと戻った。
おっさんはおばさんにすら蔑まれるのだ。僕はそう結論づけた。することも無くおっさんの手帳を開くと、そこには読み辛い文字で予定が書き込まれていた。
会議、打合せ、締切。締切。締切。
その内容にため息をつきながら、頁を捲った中に一つだけ仕事以外のメモがあり、僕は手を止める。誕生日。僕は驚いた。僕の誕生日だ。まさかこのおっさんは未来の僕?まさか。名前も違う。僕は自分の発想に笑いながらテレビを付けDVDを再生した。独り者のおっさんらしくAVでも見よう。
ーしかし再生されたのは、赤ん坊の映像だった。何だコレは。僕は思った。子供だろうか。いや待て。もっとおかしいことがある。
この映っているリビングは僕の家なのだ。
僕は黙って鏡の前に立った。よくよく見ればどことなく僕に似たおっさん。
僕は気づいてしまった。
僕の半分をくれたおっさんに。
僕が次に目を開けた場所は病室だった。僕は母親に見下ろされ、苦笑いする。母は僕を揺さぶりながら泣き叫んでいた。その泣き顔が、他人のはずなのに別れた父に似ていた。
それを発見し僕は、一人口元を緩めた。
大賞応募作品です。1000文字、難しかった・・・!