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 結論から言えば上手く行った。

 ナビゲーションに指示されたように写真を撮ったら偶然交通事故の決定的瞬間を撮ることができた。警察に証拠物件として提出されたのだが、後日事故関係者から謝礼をもらえた。

 なんでも僕の写真のお陰で賠償比率が大きく変わったらしい。謝礼の額は1万程度で本当に気持ちでしかなかった。

 嬉しいは嬉しかったが、微妙でもあった。出ているメニューに書かれている内容だけではどのようなことが起こるか良くわからないのだ。

 広告の男のようなことは本当に幸運じゃないと起きないのではないかと思ってしまう。

 僕は今表示されているナビゲーションのメニューに目を落とす。


 《三星レストランで食事》

 《突然の現金収入》 (グレーアウト)

 《巷の人気者》

 《父親の急死》

 《自宅が火事》

 《彼女との運命の出会い》 

 《普通の会社への就職》

 《就職先がブラック企業》

 《海外旅行する》 (濃いグレーアウト)

 《アイドルと会食》 (グレーアウト)

 

 《突然の現金収入》を選択したら《美女とのドライブ》のメニューが消えていた。選択によって開くルートもあれば閉じるルートもあるのだろう。

 人生ナビゲーションは最初に思ったよりもずっと使いこなすのが難しそうだった。せめてもう少し情報が欲しかった。これではほとんど当てずっぽうた。

 そう思ってナビゲーションの画面を睨み付けていると右下に歯車のようなソフトボタンがあるのに気がついた。

 ひょっとしたら、と思いボタンに触ってみた。

 と、画面が切り替わる。

 《設定》と書かれていた。


 《ディスプレイ輝度 オート》

 《電源オフ時間 なし》

 《セキュリティ設定 設定なし》

 《音声ガイダンス しない》 (南京錠のマーク)

 《最大検索数 10》 (南京錠のマーク)

 《探索世界数 100万》 (南京錠のマーク)

 《検索優先条件 条件なし》 (南京錠のマーク)

 《ルート推定 不許可》 (南京錠のマーク)

 《目的地到達予測時間》 (南京錠のマーク)


 となっていた。

 最初の三つ位はなんともないがそれ以降を見て、思わず声が出た。

 《最大検索数 10》とは恐らく一度に表示されるメニューの数なのだろう。そう言えば左上に10/10と表示されているが、分母の10は最大表示できるメニュー数を表しているのだろうか。

 次の《探索世界数 100万》はなんだろう?

 並列世界がどうのこうのと言っていたからルート検索する世界の数だろうか。良くわからないが取り敢えず保留にする。それより気になるのは次だ。

 《検索優先条件 条件なし》

 普通のナビにある有料道路を使うとか使わないとか、時間重視などを選べる奴と思う。

 なら、これは今の僕の悩みを解決してくれるかもしれない。

 僕は検索優先条件を触ってみた。

 すると


 《検索優先条件を解放しますか?

  100万円振り込りこんで下さい》 


「うぉっ!」

 

 この機能を使えるようにするには金がかかるのかと、驚いた。しかも、高い。

 これはどうしたもんか、と真剣に悩んだ。完全に車を諦めれば投入できない金額ではないのだけど、果たして投入したのに見合うメリットを受けられるのか心配だった。

 

 かなり真剣に悩んだ挙げ句、結局検索優先条件を解放することにした。

 このまま当てずっぽうでメニューを選んで行っても時間の無駄に思えたからだ。

 決済ボタンを押すと、《検索優先条件》の下に新しいツリーが現れた。

 《検索優先条件 条件なし》

  《優先条件 損益重視 1万円以上

             10万円以上 

        満足度重視 ☆

        発生頻度重視 一週間に一度 》


 各優先条件の横にはやはり南京錠のマークがついていた。試しに損益重視の南京錠を触ってみると


 《損益条件を100万円以上を解放しますか?

  1000万円振り込りこんで下さい》 


 と、出た。


 ……


 なんだろう、悪質サイトに迷い混んた錯覚に囚われる。

 気を取り直して他の条件の南京錠を触ってみたが、結果は似たり寄ったりだった。より効果の高い検索もできるが、利用するには課金しなくてはならない、と言うことだ。

 まあ、損益重視にして10万円以上のルートを10回こなせば100万円以上手に入る計算なのだからそれほど悪徳商売と言う訳ではない。

 僕は軽くため息をつくと優先検索条件を損益重視10万円以上に設定する。

 これで少しずつ資金を稼ぐしかないだろう。

 メニュー画面に戻ると

 

 《ルート検索中》

 

 と表示され、その横で砂時計がクルクル回っていた。

 

 検索することおよそ2時間、ようやくメニューが出てきた。


 《商店街の福引きで景品を当てる》


 左上には《1/10》と表示されていた。


「なんだそりゃ!」

 

 僕は思わず大声を上げた。

 取り敢えずメニューをclickする。

 すると、画面に地図が表示された。近くの駅だ。さらにコメントで電車に乗れと指示された。しかも14時10分と時間指定までされた。

 時計を見ると14時5分前だった。指定の電車に乗るには走らないと間に合わないかも知れない。

 僕は慌てて外に出た。運動不足の体にむち打ち駅まで走り、何とか指定の電車に乗り込んだ。

 肩で息をしながらナビを確認すると、4つ先の駅で降りて三番出口から出ろと出ていた。

 何だか良くわからないが指示に従い、駅で降りて指定の出口から出ると目の前に商店街のアーケードがあった。

 『春の大セール』と大看板が出ていた。

 どうやらここで福引きをしろ、と言うことらしい。ナビを見ると3時までに福引券を三枚手に入れる、と表示されていた。

 近くの広告を見ると1000円で福引券一枚のようだった。近くの店で適当に3000円分の買い物をして、券を三枚入手する。

 すると、ナビの表示が、犬を連れた赤い女の後で福引きを三回引け、と変わった。

 見ると既に景品交換場に犬を連れた赤い服の女が並んでいるのが見えた。

 僕は急いで女の後ろに並ぶ。

 そして、自分の番。

 最初の二つは五等。ティシュに代わる代わる。

 三番目、つまり、最後のくじがぐるりと周り、ポトリも銀玉を吐き出した。

 二等。

 賞品は10万相当の商品券だった。



□□□

 僕は封筒を開けて、中に入っていた紙幣を数える。壱万円札がしめて20枚入っていた。

 思わず顔が綻ぶ。

 ナビゲーションに従っていたら見知らぬ女性をストーカーから助けることになったのだ。この20万円はそのお礼だった。

 一人娘らしいので両親にえらく感謝された。涙を流しながら感謝されるだけでも気持ちよかったが、謝礼までもらえた。 

 ストーカーは未だに逃走中らしいので謝礼をもらうのもどうなのかと思わなくもないが、ありがたく貰うことにした。犯人逮捕は警察の仕事だしね。

 とにもかくにもナビ様々だ。

 博打だったが100万円をかけて検索優先条件を使えるようにしたのは大正解だったということだろう。

 とはいえ、難点もなくはない。なかなかメニューが現れないのだ。

 損益優先10万円以上に設定してからだいたい一つか二つしかメニューが出なくなった。そして、一つルートをこなすと次に新しいルートが出てくるのにまた二日、三日かかるのだ。なので1週間でイベントを二つぐらいをこなすのがやっとだった。

 何でだろうと不思議だったがヘルプ機能(最近、この機能を発見した)を使って各オプション設定の説明を見て納得した。


 ヘルプによるとこんな感じだ。 


 《音声ガイダンス》

 指示を音声でする機能。《する》で音声ガイダンスします。《しない》は音声ガイダンスしません。


 《最大検索数》

 選択可能のルートを表示する最大数。

 課金により最大数は増やせます。


 《探索世界数》 

 ルート探索する並列世界の個数。

 課金により探索世界数を増やせます。

 一般に探索数を増やすと条件にマッチするルートの数は増えますが、探索時間は長くなります。


 《ルート推定》

 ルートを選択した後、どのようなルートが開けるかを推定します。推定ですので実際にひらけるルートとは異なる場合があります。


 《目的地到達予測時間》

 目的地に到達するまでの予測時間を表示します。



 南京錠のマークのついたオプションを解放するには課金をしないとダメだった。課金は大体一口100万で、一つ上のオプションを解放するには更に課金料が上がる。

 例えば損益優先の100万円以上を解放するには1000万必要と出てきた。

 探索世界数を1000万(今は初期設定の100万)にするのには100万の課金が必要らしい。

 暴利だと思う。ルート推定なんかはいきなり1000万の課金を要求された。便利な機能はそれだけ高いと言うことだろうか。

 なんにしても今は手が出ない。

 手に出ないというなら到達予測時間なんかはルート推定が解放されていないと課金すらできなかい。まあ、この機能はルート推定ができないと意味がなさそうだし、解放しても使い道は余りないように思えた。確かに完了させるのに何年もかかるようなルートを選んでしまうと他のルートが選べなくなる可能性があるので解放しておいたほうが良いのだろうけど、今のところ選んだルートは完了させるのにそんなに時間を必要としなかったから余りメリットを感じない。いつか解放するかと知れないが、ずっと先のことだろう。

 とにかくヘルプを見て分かったのだが、探索世界数が少ないのがメニューがなかなか出てこない要因のようだ。

 そこで僕は探索世界数一つ上にあげること、探索世界数1000万にすることを第一目標にして出てきたルートを片っ端からこなして、資金を蓄えることにした。

 そして、三ヶ月。この謝礼でようやく100万が貯まった。明日にでも銀行に振り込んで課金するつもりだった。



 課金を完了させて探索世界数を1000manに変更した。効果は……

 効果は絶大だった!

 今まで一つか二つしか出てなかったメニューが十出た。これなら毎日でもイベントをこなせる。フルで頑張れば三、四ヶ月で1000万稼げるはずだ。

 と、思った矢先、僕は一つのルートに目が釘つけになった。


 《ジャンボ宝くじで一等を当てる》


 一番最初の失敗の時とは違い一等と明記されている。

 なんという幸運!

 ジャンボの一等は幾らだ?

 一億?いや、二億だったか。

 なんでもいい。僕は震える指で《ジャンボ宝くじで一等を当てる》をクリックする。


 地図が表示された。

 いつものように目的地が星マークで表示されていた。


 《13時45分までに35組157422の宝くじを買う》


 いつものようにコメントも出た。

 指定の時間までは後20分ぐらいしかなかった。現在地と目的地を確認すると近くだった。

 走れば間に合う。

 僕は一目散に走り始めた。

 二ブロック程を走り、歩道橋を駆け上がる。


 『ポン』


 歩道橋を降りようとした時、ナビゲーションから警告音が鳴り、音声ガイダンスが入った。

 そう言えば、探索世界数の課金をした時に、音声ガイダンスも課金したのを思い出した。課金が1000円だったので面白半分に課金したのだ。

 《目的地周辺です。

ナビゲーションを終了いたします。

お疲れさまでした》


 目的地周辺?

 僕は首を傾げる。

 星マークのついた地点はもう少し先の筈だ。

 僕はナビゲーションの画面を見直した。画面上の自分の現在地マークと目的地の星マークはやはりまだ、かなり離れていた。

 一体どういうかと思っていると、「おい」と声をかけられた。前を見るとサングラスにマスクをした男が立ちはだかっていた。


「おい、お前」


 男はそう言いながらサングラスを外した。

 と、同時に腹に鈍痛を感じる。何事かと見下ろすと、ナイフを深々と突き刺さっていた。

 僕は訳もわからず、ナイフと男を黙って交互に見比べる。そして、思い出した。

 目の前にいる男は、僕が助けた女性のストーカーだと。


「お前のせいだ。

お前が邪魔しなければ!

お前が、お前が悪いんだ。この、この!」


 男は何度も僕の腹をナイフで突き刺した。

 僕はがっくりと膝をつくとそのまま崩れ落ちた。

 そして、そのまま深い闇に落ちていった。






■■■


「おうっ!」


 ぼくは思わず声を驚きの声をあげた。


 人生ナビゲーションに表示された目的地到達予測時間が一気に10万時間も増えたからだ。

 10万時間となると11年以上だ。コンナコトハ滅多にない。


「ねぇ、斎藤さん。この間は本当に失礼なことをしてしまったのにまた声をかけて頂けて嬉しいです」


 隣で車を運転している赤い服の女が言った。


「ああ、全然気にしていないよ」と、ぼく、斎藤(たかし)、は答える。


 滅多にない幸運に頭が一杯で半分上の空だ。何と言っても寿命が11年も伸びるルートを見つけたからだ。

 ぼくは即座にメニューをクリックした。

 この人生ナビゲーションを手に入れて最初に《父親の急死》が出たのが幸運だった。

 そのお陰で莫大な財産が転がり込んできた。

 更にその資金力で課金しまくった結果、早い段階で目的地到達予測時間の真の意味に気づいたのが本当に幸運だった。

 最初、467521時間と出たときから違和感はあった。年に換算すると50年以上になる。これは一つのルーとの時間でないのは明らかだった。

 と、なると何の時間なのか?

 考えられるのは一つ。

 人生の目的地。

 『死』だ。

 目的地到達予測時間とは即ち寿命を示していたのだ。

 そして、ルート推定を繰り返すうちにこの予測時間が変動することに気がついた。

 伸びることはあまりないが、短くなること頻繁に起きた。ルートを選択する度に寿命が縮まると言っても良かった。

 ただ、ごく稀に寿命が伸びるルートもあった。それに気がついたぼくはずっとルート推定で寿命が長くなるルートを選択し続けているのだ。


「斎藤さん。

もし良ければ今日は私にリクエストがあるんですよ。

海の見えるレストランがあって、そこで食事なんてどうかなって思うんです」

 女は柔らかな笑みを浮かべつつ、遠慮勝ちに言った。


「ああ、いいよ。

その前に近くの宝石屋に寄って欲しい」


 ぼくはナビゲーションから目を離すと答えると、女は不思議そうな表情になった。


「宝石屋ですか?

どなたかにプレゼントを買われるんです?」

「いや、君にだよ。

そこで君が欲しい宝石を買ってあげるよ」

「えっ、本当ですか?

でも、なんで急に私に買ってくれるですか」


 女は全身で喜びを表す。そんな彼女にぼくは曖昧な笑いを浮かべる。


「ああ、なんとなくね。

どうやら君はぼくのラッキーガールのようだからさ」


 ぼくは、にやりも笑ってそう答えた。




《女に宝石をプレゼントする》



 ナビゲーションにはそう表示されていた。



2019/04/14 初稿


2019/04/14 16:00 加筆(□□□以降)をして完結

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