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俺の人生こんなはずじゃなかった。

作者: E/c^2.PV/nT.

もしあなたが過去に戻れるならどこに戻って何をどのように変えたいと思いますか?

少々長いですがお付き合いください。

私の隣の席に見知らぬ男性がやってきた。


「お隣よろしいかね?」


「どうぞ」


いい年の取り方をした老紳士に見えた。


ここは居酒屋のカウンターだから隣に人が来るのは珍しいことではないし、どちらかというと当たり前のことなのだ。


しかし私は子どもの頃から人が近くにいるのはあまり心地良く思わなかった。相手の話やペースに合わせたりすることが煩わしいからだ。この性格でいい思いをした試しはない。知らぬ間に面倒なことを避けられているのはあるかもしれないが。


これまで生きてきて形成された性格が今さら変わるとは思えないからこの性格を直すことはやめにした。小学生の頃、担任の先生から人付き合いの大切さを個人的に説かれたが、いまいち心に響かず、そのままである。今思うとその時が性格を変える最後のチャンスだったのかもしれない。


「君はいくつだね?」


私はこういう大人が嫌いだ。なぜこうやってずけずけと人のプライベートに踏み込んでくるのだろうか。


「46です」


「そうかい。まだまだこれからだね。時間を大切にしなさい。それと人付き合いを大切になさい。顔に鬱陶しいと書いてあるよ。ホォホォホォ」


私はその老紳士の顔を見た。その老紳士と思われたその顔はシワだらけでさらにヒゲも伸びきっていてひげという生き物に人間が生えたような感じを受けた。気持ち悪さを覚えると同時にこのような大人にはならないことを決心した。


私の性格上このような場には耐えることができないので会計を済ませ外へ出ることにした。


まだまだ飲み足りない私は薄暗い路地裏へと入り煌々とネオンサインが輝いているバーへと入った。バーというおしゃれな場所は私には合わないと思い今まで来たことはなかったが、静かさもあり意外と好きなのかもしれない。


メニューを開くと見たこともない鮮やかなカクテルがたくさん並んでいたが、その中で、ただ一ついくらバー初心者の私でもわかるようなふざけた商品が書いてあった。いや、新参の私は試されているのかもしれないと思い、舐められては困ると思い、口を開いた。


「マスター、ここに書いてあるものはなんですか?」


私はメニューのその商品を指差した。


「どちらですか? それがどうかなさいました?」


「こんな商品見たこともありませんし、これが商品として存在するのが不思議でならんのですよ。『お湯の水割り』ってただのぬるま湯じゃないですか」


「よく気づかれましたね。それは見えない人には見えないのですよ。あなたは今ある権利を手に入れたのです」


私は理解できず黙ってしまった。まだ馬鹿にされているのかとさえ思った。


「あなたは今過去を変えることができるかもしれない権利を手にしたのです」


「意味がわかりませんが」


「大丈夫です、この説明で理解できた方は今までいませんから」


「いや、そういうことではないと思うんですが、まぁ続けてください」


「平たく言うと過去に戻って人生における選択を変えるよう促すということです」


「というと?」


「これから重要なことなのですが、あくまでも促すことができるのであって過去における選択肢を強制的に選択させることはほぼ不可能です。なぜなら過去のあなたに戻るのではなく過去におけるあなたの周囲の人物に乗り移ることができるからです」


「ますます現実味がありませんね」


「みなさんそうおっしゃいます、でもこれで人生が大きく変わる人もいらっしゃいますよ、信じるか信じないかは・・・というやつですね」


あまり信じられることではないが騙されたと思って聞いてみよう。


「では、私が過去の総理大臣になって日本を変えることができるというのはどうでしょう」


誰もが一度は思うことだろう。法律を変えて自分のいいようにするとか。いかにも幼稚な発想だが。


「確率論的に言えば不可能ではありません。ただしほぼ0に等しいです。過去の人物に乗り移るのはその人物の時間を奪うことになりますからその対価としてあなたの人生を消費させていただきます。その基準もこれまた重要でして、過去に戻る時間の幅の大小と、その人物の影響力に依存します。したがって一国の総理大臣となると、まぁ、普通の人で2秒もてばいいほうですよ」


私は少し恐怖心を覚えたが心の底から湧き出てくる好奇心と冒険心を抑えることができなかった。


「じゃあ私がプロポーズする場面に戻り、その彼女に乗り移り返事をすることもできますか?」


「異性への乗り移りは影響力が大きいためお勧めできません。先ほどの場合と同様ですが本人様が望まれるのでしたらこちらとしては手配いたします」


過去に戻れると知った今、どんでもないうまい話が転がってきたと思ったが、その制約などを聞くとやはりうまい話はそう簡単にはないと思い知らされた。


しかし、過去に戻れるというのはやはりとんでもなくいい話ではないか。あの老人が言ったようにまだまだ人生これからだ。残された時間はたくさんある。これを使って結末を知っている過去を変える方が勝算があるのではないか。私は初めて人生の勝ち組になったような気がした。


私にはどうしても変えたい過去が2つある。ほんとうはまだまだたくさんあるがそのことはこの2つが変われば自分の人生が変わる過程で好転するかもしれない。1つはこの偏屈な性格だ。そしてもう1つはプロポーズに失敗した過去だ。言うまでもなく変えるのなら性格の方が先だ。きっとそっちの方がプロポーズの勝算が上がるはずだ。


酔っているはずなのに妙に頭が冴えて我ながらいい計画だと思った。


やると決まったのなら早急にやらねばならぬ。こうやって費やしている時間も過去に当てた方がより良いからだ。


「マスター、小学生の頃の私の周囲の人物に乗り移らせてください」


「では、ごゆっくりどうぞ」






どうやら私は小学校の頃の担任の先生の、田中先生に乗り移ったらしい。私自身この田中先生にはあまりいい思い出がないし、いい先生だとは思わなかった。この偏屈な性格のせいであろうか。少なからず影響していると思う。


小学生の頃の"私"はいわゆるクソガキだったのかもしれない。この"私"に説教しなければならないと思い、私は"私"を呼び出した。


「君はどうして周りの人と一緒に遊んだり、一緒に話して楽しんだりしないんだい?」


「楽しくないから」


それも一理ある。小学生の時は周りが悪いとも思うことだってある。


「人と関わることは大事なことなんだよ。お勉強よりも大事なことだ。学校では人との関わり方を学ぶところでもあるんだ」


「そんなのいらない」


クソガキめ。


「先生に向かってその口の聞き方はなんだね?」


「先生はどうして人と一緒にいることが大事だと思うの?」


「人と一緒にいる方がいいことがたくさんあるからだよ」


この性格で私は損をしてきたから。


「じゃあ、先生は人と一緒にいてどんないいことがあったの?」


私はこの質問に答えられなかった。


「なんで先生何も言わないの? やっぱりいいことなんてないんだよ」


私は理性を保てなくなり怒り心頭に発する手前で現実の私の世界へ連れ戻された。




「どうでしたか?」


「まずまずです」


失敗したとは言えなかった。子ども相手に言い負かされたなんて恥ずかしくて言えない。


「そうですか。何か変化した感じはしますか?」


「特にありませんね。強いて言うなら視界がぼやけますね」


「おそらく老眼ではないでしょうか、今ので結構歳をとってますね」


「えっ・・・」


おそらく10年は歳をとったかもしれない。失敗した挙句歳まで取ってしまってはいいことなんてまるでないではないか。


「次はどうなさいますか? 次もうまくいくといいですね」


次こそは確実に変えてやると思った。性格は所詮プロポーズ成功作戦の布石に過ぎないのだから。プロポーズの瞬間は今でも鮮明に覚えている。彼女の言葉も。その通りに実践すれば必ず成功する。こんな出来レースあっていいのだろうかと思うとニヤニヤが止まらなくなる。


「マスター、いつもの」


これはただ単に私が言ってみたかっただけだ。


「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」






私は気づくと目の前に"私"がいた。どうやら私の友人に乗り移ったらしい。今更であるが友達がいないわけではなかった。今となっては全く会う機会はないけれど。


目の前の"私"はとくとくと何やら話しているようだ。


「プロポーズしようと思うんだ」


まさにグットタイミングだ。こちらから用件を切り出さずともその話ができるなんて手間が省けて助かる。


「どうだい、サプライズをしかけてみるというのは、女という生き物はサプライズに弱いからどんなに好きでなくてもサプライズでおされて勢いでオッケーしてしまうものだよ」


言うまでもない、私が彼女に振られた時に言われた言葉が『サプライズだったら良かったのに』であるからだ。


「僕はその手のことは苦手なんだ。できれば堅実にいきたいよ」


「それではダメなんだ。念には念を。出来るだけ押した方がいい」


私自身このことを言ってしまった後に気づいたが、何がダメなのかと問われたら答えきれない。前回の二の舞になってしまう。


「君がそんなに言うなら考えてもいいが、僕にはやり方がさっぱりわからないよ」


"私"は馬鹿で助かったと思った。ヒヤヒヤしてしまった。


「俺が軽い感じで言い寄るから、そこで君が本気になって飛び出して指輪を差し出すって言うのはどうだい」


「もうそれでいいよ」


「じゃあ決まりだ。今日の夜決行だ」


「今日!? 急やしないかい?」


「時は金なりだよ」


今は寿命がかかっているからお金より大事だ。


そして夜になった。


「いいかい、僕が先に行くから君はタイミングを見計らって登場して、彼女にプロポーズするんだ。なんなら僕を殴ってもいい」


自分の体じゃないからやりたい放題だ。


「わかった」


「じゃあいってくる」


そして私は彼女に近づいた。


「やあ、久しぶり、最近調子はどうだい」


「悪くないわよ」


「そうかい、それはいいことだ、ところで、僕と結婚しないか」


「いやーねー、恥ずかしいこと言ってくれるじゃないの、私あなたのこと好きだったのよ、考えてあげてもいいわ」


「え・・・本気で言ってる?」


「えぇ、私は本気よ。まさかあなたの方こそ本気じゃないとか言わないわよね?」


「もちろんさ」


私は固まってしまった。きっと後ろで見ていた"私"はタイミングがつかめず入ってこれなかったのだろう。私は恐る恐る"私"の方を見た。すると"私"はこちらへ近づいてきて私を殴った。







私は気づいたら現実の私の世界に引き戻されていた。


マスターは無言のままだ。本来の目的が達成できずただ老け込んでしまったばかりの私は彼の目にどのように映っているのだろう。


今思い出したが、私の友人と元カノが結婚したと言う噂を聞いたような気もする。私は過去へ行き、年を取ってまで、そのことを手助けしたのだ。


「マスター、もう十分です」


「おや、そうですか。なんだか浮かない表情ですね。もう1つチャンスを差し上げましょう」


「いえ、もう十分年を取ってしまったので、結構です」


「最後に1つ、こちらからの好意だと思って受け取ってください。サービスしますので」


「なんでしょう」


「あなた自身を過去のある地点へ送りましょう。それはあなた自身なので寿命の心配は必要ありません、いががでしょう」


半信半疑だったが、もうどうにでもなれと思って賭けに出ることにした。


「もちろんやります。お願いします」


「わかりました。ではでは、ごゆっくりどうぞ」







ついた世界は、よどんだいつもの街だ。するとそこに現れた私自身と思われる人物は、どことなく下を向いて歩いている。どこへ向かうのかついて行ってみることにした。


するといつもの居酒屋へ向かった。居酒屋へ入った"私"を追って話しかけてみることにした。"私"はいつものカウンター席に腰掛けている。


この"私"に向かって伝えるべきことを決めて声をかける。


「お隣よろしいかね?」


最後まで読んでくださりありがとうございます。

この小説はこれで完結させるように書きました。

面白かったと思ってもらえたらぜひ感想の方をよろしくお願いします。

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[一言] はじめまして。タイトルが気になり、一気に読み始めました。読み進めていくうちに、もしかしたらと思っていましたが、夢のような物語で惹き込まれました。一度は人生で、こんなはずじゃなかった、やり直せ…
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