学級組織決め
タイムリープが始まってから数日。クラスの中は段々と賑やかになってきた。
一方俺は、⋯まだ1人である。
夏実はクラスのみんなと仲良くなっていたが、俺は入学式以来、夏実以外とは話していない。
⋯というか、夏実って、じっくり見ると、そこそこに可愛いんだよなぁ。
ポニーテールで色白、胸も小さいわけじゃない(大きいわけでもないが)少し荒っぽい所さえ除けば、十分可愛いだろう。
「想士??どうしたの?こっちをじっと見て。」
「あ、いや、なんでもないよ。ただ、夏実って、そこそこに可愛いんだなぁって思っただけだ。」
「か、かわ?!はっ?!⋯って、そこそこって何よ!」
「そこそこはそこそこだけど?」
「なによ!もう⋯」
夏実は何かぼそっと呟き、どこかへ行ってしまった。なんか俺、悪いことしたかなぁ?
入学初日、紗菜と仲良くなって、普通に会話ができた俺だが、どうも教室では勇気が出ず、紗菜に話しかけることすら出来なかった。
しかし、それは紗菜も同じだったようで、たまにだが目が合う回数が増えてきた。
何か変えなきゃいけないことはわかってる。自分からでも話しかけなきゃ!それはわかっているはずなのに、思うように行動ができない⋯。
どうすりゃいいんだろう。
授業中もそんなことを考えていて、ほとんど頭に入ってこなかった。
「はい。それじゃあ、4時間目ですが、係決めをしようと思います。」
係決め。
新学期になると、必ず行われると言っても良いイベントでもある。人によっては、仲良し同士で一緒に組んだり、偶然を装って、好きな人と同じ係になろうとしたり、このイベントに賭けている人も多かったりする。
⋯まぁ、友達も想い人もいない俺からしたら、何の得もないんだがな。
「想士ー。想士はなんの係やるの?」
「んー。俺は別に決まってないよ。というか、希望がない。なんでもいいって感じ。」
「もー!相変わらず消極的なんだから!」
「仕方ないだろ。俺はそういうやつなんだよ。」
「じゃあさ、紗菜ちゃんも誘って、黒板係やってみようよ!小学校からの夢なの!黒板係。」
お前は、相変わらず小学生みたいだな。そう思ってしまう。
「俺は別に。紗菜次第でどうぞ。」
「わかった!紗菜ちゃんに聞いてくるね!」
夏実は自分の机をバンっと叩いて立ち上がると、どんどん紗菜の席の方へと歩いていった。
「紗菜ちゃーーーん!」
おい夏実。すごい仲良い友達っぽくなってるけど、紗菜困ってるぞ。あ、でもあれはこまってるわけじゃないんだっけ?あぁもう!わからん!
「想士ー。紗菜ちゃん良いだってー!」
「いいのかよ?!」
そんな簡単に決まっちゃうの?!紗菜が夏実に流されていないかと心配になり、俺も紗菜の席へと向かった。
いや別に、夏実の事を信用してないってわけじゃないけど、夏実は人のこと考えない癖があるからなぁ。
「紗菜。お前本当にいいのか?」
「う、うん。いいよ。⋯というか、誘ってくれて嬉しい。私、1人だったから。」
「それなら⋯いいんだけど。」
俺も1人だったから、これ以上いうことは出来なかった。
「でしょ!私ってば天才じゃない?」
「お前は少し遠慮っつーのを覚えろ。」
「あぅ!」
夏実の頭にチョーップ
「もー!だからそれ痛いんだってば!」
「知るかっ。」
「何よその態度!ひどーい!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。」
と、仲介に入る紗菜。紗菜のおかげで、ヒートアップせずに済んだ。
「それじゃ私、黒板係のところに、3人分名前書いてくるね!」
「おぅ。よろしく。」
夏実はスキップで黒板へと向かう。本当に呑気なやつだなぁ。
「ねぇ、想士くん。」
「ん?」
「その、夏実ちゃんって、天然なところとか、ある?」
「そうだな。あれで天然じゃなく演技っつーなら、流石に俺も引いてるよ。」
「そ、そうだね⋯。やっぱ夏実ちゃんって可愛いなぁ。」
「どうしたんだ??急に。」
「あ!いや!その⋯ほら。夏実ちゃんは、元気で明るくて、好奇心旺盛で、やっぱりこういう子は可愛いんだなぁって思っちゃった。」
「え?そんなことないと思うぞ?」
「そう⋯なの?」
「うん。なんつーか、紗菜も十分⋯可愛いと思うぞ。」
紗菜の顔がボッと火が吹くレベルで赤くなった。でも、黒髪で整った顔立ち、胸は少し⋯小さいものの、小柄で細身。十分可愛いとは思う。
⋯まぁ、この知識は20年後にやっていたエロゲの容姿だけど。いわゆる、清楚系女子ってやつだ。
「そ、そっか。ありがとう。」
「あぁ。どういたしまして。」
紗菜は、ふふっと嬉しそうに笑った。
「想士ー。紗菜ちゃーん。⋯って、紗菜ちゃん顔赤いよ?!熱ある?!それとも、想士⋯あんた紗菜ちゃんになんかしたの?」
ちょっと怒り気味に言われる。
「何もしてねぇよ。」
「だ、大丈夫だよ。夏実ちゃん」
「そう?ならいいんだけどさ。それより聞いてよ!実はさ、黒板係が4人で、もう一人別の子がいるんだけどいい?」
「えっ」
「えっ」
俺と紗菜は、互いの顔を見合わせた。⋯なんで人と関わるのが苦手なヤツらにら他の人を紹介しようとするんだよ。
そんなことは言えずに、コクコクと頷いている紗菜。
「まぁ、いいんだけどさ、そいつ、なんてやつ?」
「んーとね。秋山 凛ちゃん。あ。ちょっと呼んでくるよ!」
「えっ。あっ⋯」
夏実はすぐにどっかに行くと、すぐに帰ってきた。
「紹介します!秋山凛ちゃんです!」
どうもどうも、って形で俺たちの前に出てくる秋山さん。
「えっと、秋山 凛です!気軽に凛でいいからね。よろしく~!」
あ。こいつ案外チャラいぞ。
「で。こっちは、花井紗菜ちゃん。こっちが、村田想士。どっちもいい子だよ!」
「いい子って言い方、俺はお前の子供かっ。」
「あぅ!」
いつも通りにチョップをお見舞する。
「あはは!なっちゃんと想士くんは、仲良しなんだね。紗菜ちゃんも、よろしくね。」
「よ、よろしく。」
挨拶をした紗菜はずっと、モジモジしていた。
わかるぞ紗菜。こういうタイプ苦手だよな。
「そうそう。想士くんは彼女とかはいるの?」
その質問の瞬間、隣の女子二人がビクッとした。
「え?いねぇよ。彼女は。」
その答えの瞬間、隣の女子二人がホッとしていた。なんなんだ。こいつら。
「そうなんだ。残念。からかってあげようと思ったのに。あ。じゃあ、恋愛経験は?」
また二人がビクッとした。
「残念ながらないぞ。てか、からかわんでええわ。」
また二人がホッとした。いやもう本当に、リアクションが忙しいですね二人とも。
「そうなんだー。じゃあもしかして、こういうのとか慣れてない人なの?」
そう言って彼女は自分のスカートをひらりとめくった。
⋯⋯⋯ブルゥーーーーー⋯⋯⋯
その行動を見て、ビクッとしたのは、俺を含めて3人だった。
「あっれ。想士くんやっぱこういうのもあんまりない系?別にパンツくらいなら私は構わないよ?」
「な。何言ってんだ!」
ちょっと動揺してしまってるが、すぐに正気を取り戻せたので一言。
「お前も夏実と同じようにチョップされたいか?」
「あー。されてみたいかも!」
「ドMかっ!」
「おふっ!結構効くねぇ。」
「そんな感想言われたのは初めてだよ⋯。」
「あらら。そうなんだ。」
⋯?そういえば、俺と凛は、二人とも現在の会話に参加しているが、ほかの二人は?と疑問に思った。
そこには、自分のパンツを見られたわけじゃないのに顔を真っ赤にしている夏実と、紗菜がいた。
「あの?夏実さん?紗菜さん?」
「男の子って、色がある方が好きなの?かな?」
いや紗菜?!気にするところはそこなのか?!
「男の子はやっぱり、女の子のパンツ⋯と、胸が好き。そうかのかな?!凛ちゃん」
いや、何を研究しようとしてるんですか紗菜さん。
そこに追い打ちをかけるかのように凛が一言。
「そうだよ。紗菜ちゃん。確かに男の子は、胸もパンツも好きだけど、一番好きなのは、 カ・ラ・ダ だよ!」
「何余計な事言ってんだ!」
流石にこれは全力でチョップした。
「おふっ!い、痛いよぉ⋯」
「いや、真面目ちゃんに変なことを吹き込もうとするなよ!」
「そう言うってことは、想士くんもそっち系のこと知ってるんだぁ。」
「悪いな。それは男として否定はできん。」
「へぇー。」
「で、凛。紗菜がすごいことになってるんだが、どうするんだ?」
「んー。どうしようか。私もここまでになるとは、予想してなかったからね。」
「じゃあ、最初からあんな事するなよ」
「ダメ?別に私、パンツまでなら見られても良い派なんだよ。あ。想士くん。もう一回見る?」
「遠慮しとく。」
「もー。ノリが悪いなぁ。」
「悪くていいわそんなん!」
二人の会話中に何かをメモしている紗菜。
「男の子の⋯好きなものは⋯胸・パンツ⋯だけど、一番は、カラダ⋯ふむ。勉強になります。」
いや、だから何の勉強をしてるの?!
「おい凛。お前の言葉、そのままメモしてるぞ?」
「まぁ、それはそれでいいんじゃない?こうしていけば、君の、脱・童○も夢じゃないよ?」
「お前はいちいちそういう発言をするな!」
「おふっ!あ、でも、私の初めては、好きな人だからね?」
「なら。なおさら言わない方がいいと思うぞ⋯。」
「あはは。ごめんごめん。
おーい紗菜ちゃーん。戻ってきてぇ。」
「凛ちゃん。私は今のメモをまとめてくるので、失礼します。」
そう言うと、どんどん自分の席に戻って行ってしまった。いやまぁ、今紗菜の席の近くにいるんだけどね。
「あらら。紗菜ちゃんは何も知らないピュアっ子ちゃんなんだ。」
「そうみたいだな⋯。俺も今知ったわ。」
そう。今知った。当たり前だけど。普段からそんな会話をするわけがないからな。
「さて、と、俺も自分の席に。」
「想士くん。待って。もう1人の女子はどうするの?」
「え⋯」
そうじゃん⋯。18禁にめちゃくちゃ鈍い夏実がいたんだった。こいつこういう事は昔から何も知らないんだよなぁ⋯。
「じゃあ凛。あとはよろしく。」
「え?!投げやりなの?!」
この状態の夏実とあんまり関わりたくない。多分説教モードになるから⋯。
「じゃ。よろしく。凛。」
俺は凛の元を離れ、自分の席に戻ろうと歩き始める。⋯が、
「ちょちょちょ待ってよ!ここまで赤くなった子は初めてだから、私もわかんないの!」
と言って、強引に俺の手を引き、夏実の目の前に立たされた。
「おーい。夏実ー?」
「--------------------」
うわー。これはダメなやつだぞガチで。どうすんだよ。
「な、なな⋯ぱ、パンツ⋯⋯⋯⋯」
「あちゃー。これはダメなやつだね。想士くん。どうする?」
「どうするって言われてもなぁ。」
どうやら凛は、力はあまりないらしく、運んであげることは出来ないらしい。それに、俺が運んだら、それはそれでアウトである。
だからといって、理由を周りに話したら、凛がただの変態になってしまう。
「んー。これは悩みどころだね。」
「いや、原因を作ったのはお前だからな?」
「わ、わかってるけどさ。」
どうしようかと悩んでいたその時、
----夏実は覚醒した----
「りん⋯ちゃん。」
「んー?」
「りーんーちゃーん」
「いやいやこわいこわいこわい!」
「あのね凛ちゃん。いくら⋯その、エ、エッチなのが好きでも、パンツとかは、人に見せるものじゃないよ!どう考えてもおかしいでしょ!それに、相手は男の子なのよ?!何かあったらどうするのよ!わかる?!わかるわよね?!」
あーぁ。始まった。夏実覚醒の説教タイム。こいつの長いんだよねぇ。
「別にいいんじゃない?パンツの中まで見られたわけじゃないんだし。」
「ダメよ!パンツはね?その、し、下着なのよ!下着ってのはね!服。改め、衣類の下に着るものなの!だから、下着!わかる?!」
「うん。そりゃもちろんわかるよ。」
確かに、夏実の言うことは正論である。
「なんで人に、男の子に服の下まで見せる必要があるの?!そんなの見せないでしょ!おかしいわよ!」
「いや、あのねなっちゃん。人は、その、ほ、本番をする時は、下着も全部脱ぐんだよ?」
いやいや、しれっと何を言ってるんですか凛さん?!それは高校生にはまだ早いというか⋯。
「本番?何よそれ。」
「あら。なっちゃん知らないの?本番っていうのは⋯⋯子○りだよ?」
「ここここここ、子○り?!そ、そんなのまだ早いわよ!私たち高一よ?!何を言ってるの凛ちゃんは!」
凛が屈していないのはすごいと思うが、凛に勝ち目は一切ないぞ。
「そ、そうかなぁ?別に言うだけならいいんじゃないの?ほら。思春期だし。」
「ダ、ダメなものはダメよ!」
「別にいいじゃん~!試しになっちゃんのパンツも見せてみてよ。」
そう言って凛は、夏実のスカートに手をつける。
⋯⋯⋯⋯このパターンは。
⋯⋯⋯ピィーーーーンク。
そして凛はこっちを向いて一言。
「めくっちゃった!」
いやわざとだろ?!やっちゃいましたみたいな顔すんなよ?!
まぁ、見ちゃったんだけどさ⋯
「⋯あ。⋯わ、あ、⋯パ⋯」
夏実がプルプルと震えている。
「なっちゃん?大丈夫??なっちゃ──」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
もうお嫁に行けないぃぃぃぃ!」
そう叫んで夏実は走り去ってしまった。⋯いや、今授業中だけどね?
「ごめんね。想士くん。」
「これがごめんで済んだら楽だと思うぜ。」
俺と凛を見る生徒達と先生。まぁ、あんな叫び声聞いたらそうなるだろう。
このあと、本当の事情を隠しながら説明しなければならなかったのは、言うまでもないだろう。
今日1日で、話す人は一人増えた。だけど⋯
とんでもない人と仲良くなってしまった気もする。
俺の高校生活はこんなんで合ってるのか?
この先が思いやられる1日となった。