貴方はあの悪魔ですね?
「なあそこの君。君俺のこと見えてるのか?」
「あっははー今日もいい天気だなー。」
一川野ルカ、大ピンチです。志保と会って疲れた後、早く家に帰ろうと思っていたら、目の前に黒い翼の生えた無表情の男がフヨフヨ浮かんでるんですけど。錯覚・・・ではないな。めっちゃほっぺプニプニされてるから。これは多分・・・コスプレだな!と自分に言い聞かせた。
「お前、レイヤーさんだな!」
「君やっぱり見えてたんだな。」
しまったぁぁぁぁぁ!ついつい答えてしまった。甘美のコスプレ好きのせいだ!明日甘美を呪ってやろう。
・・・まあバレてしまったならしょうがない。なんとかすれば良いんだから!
「ん、見えてました。てかお前何。悪魔?」
「そう、その通り。俺はベルゼブブ。大悪魔の一人とも言われている。」
ベルゼブブ、って、サタンの次に強い、蝿の王?まじで?でも私、早速超有名悪魔に会っちゃったけど良いのかな。もしや、私に取り付きにきたのかな。それよりもこの悪魔イケメンすぎる。
「いや、俺はなんとなーく此処に来ただけだ。そう、なんとなーく。」
本当かな・・・ほら、昔言われてたじゃん。『悪魔に関わると魂を取られる』、って。私やっぱり死んじゃうのかな。ちょっと早く帰ろう、絡まれると面倒だし。
「・・・なんでついて来てんだ」
そろそろ良いかな、と思って後ろを振り向いてみるとついて来てた。私が殺気のこもった目線を送ると、さささっと電柱の陰に隠れた。悪魔にしては小心者だね。
「・・・もしかして、帰る家が無いの?」
「・・・・・・・・ふふっ」
あ、これ家に帰れないパターンだな。でも悪魔の頭のはずなのに、なんで家に帰れないんだろう。きっと大きなお屋敷に住んでいる悪魔なんでしょ。マリカは魔法使いだから、何か知ってるかな?ちらりと悪魔を見ると寂しそうに電柱の横でうずくまっていた。
「ただいまー。」
「おか・・・はああああああ?!何その後ろの!彼氏・・・じゃないな、不審者?!」
この人は悪魔だよ、というとレカは悲鳴をあげ自分の部屋に逃げて行った。レカもこの悪魔が見えるのか。彼を見るとレカに不審者扱いをされたことにショックを感じたのか、ゴミ箱の隣でまた寂しそうにうずくまっていた。そんな悪魔を引っ張り、とりあえず自分の部屋に戻った。
「とりあえず今までの出来事を教えてくれないかな?」
「俺はただ・・・人間界に来て道に迷ってしまっただけだ。」
「うそつけ」
その後はどんなに聞き返しても道に迷っただけ、と言い張るので仕方がなくうちにおいておくことにした。勿論私の部屋にじゃないよ?屋根裏部屋を片付けてそこに住んでもらうことにした。最初見たときはほこりまみれで、すんごいしんどそうな顔をしてたから、流石に掃除するの大変そうだし手伝ってあげようって思って重たい掃除機を一階から運んで来たら、魔法でも使ったのか、めっちゃ綺麗になって家具も揃えてやがった。
使わなかった掃除機はどうしたのかって?勿論部屋に置いて来たよ、自分で片付けろって言ってね。
「レカー、ご飯何?」
「きょききょきき今日はカレーだよ」
レカが引きつった顔で返事をする。そりゃあそうなるだろう。何故なら、私の後ろに大悪魔がフヨフヨ浮いてるのだから。そういえば、この大悪魔、何故か私の行くところに必ずついてくる。そのうちお風呂にも入ってくるのかな。ちょっと怖い。
レカがカレーをよそり終わり、みんなが席に着く。レカからスプーンを受け取った。妙に長いスプーンだ。
「スプーン長くね」
「気にするな。いただきます。あ、そこの悪魔はなにを食べるん?」
レカは未だに引きつった笑みを浮かべている。悪魔によると、どうやらこの悪魔は死体とたまーに人間と悪魔を食べるそう(今はあまり食べてないらしい)。それを聞いたレカは椅子から飛び降り、一目散に逃げ、リビングに入ってテレビの横に立った。それを見た悪魔が急いで説得を試みたが、レカが話を聞いてくれないので諦めた。またしょげた悪魔をベルゼブブ大変だねー、と慰めたとき、この悪魔の名前がとても呼びにくいことに気がついた。
「ねえ、ベルズって呼んで良い?」
「何?・・・別に良いぞ。」
一瞬ベルズの顔が引きつったが、その後は特に何事も無かったように無表情に戻った。なんだったのか気になったが聞いてみても答えてくれなかったので断念した。隣のリビングから『もしかして家に住まわせる気?!』という金切り声が聞こえたが、あえて無視をした。そういえば、ベルズは影の薄い私の事に気付いてくれたんだ。何でだろう。運命の人・・・なんちゃって。
夜は美しいものだ。ここはやたら背の高い建築物が多いためそんなに感じられないが、俺がいた時の魔界はとても美しい星がたくさん見れた。今は・・・闇に染まっているのだがな。懐かしい故郷のことを思い出しながら、壁に掛けた絵を見た。
「っーーーー」
俺は仲の良かった天使・・いや、悪魔の名を呼ぼうとしたが、口を押さえつけた。もう、彼奴の返事は返ってくることがないと分かっているからだ。でも、彼奴の雰囲気を感じ取ることができた。今日のことは正直驚いたが、嬉しかった。俺は幸せだ。
「覚えていなくても俺は嬉しいぞ、ーーーー。」
小さな声で呟いた。下にいる彼奴に気づかれないように。