彼女も魔法使いですか?
「む・・朝か」
昨夜の魔物事件から十時間程経ち、すっかり朝になっていた。制服から着替えて昨日の優人からのメールを無視し、食卓へたどり着いた。
「遅いぞ!二人分のお弁当、作っておいたから!」
キッチンにはレカが立っており、二つのお弁当と作りたてのスクランブルエッグが置いてあった。一口食べると、ふわりと塩味が口に広がった。美味しい。
「そりゃそうだろ!だってあたしが作ったんだもん!」
と、胸を張るレカ。私の妹が可愛すぎる。
「そういえば、昨日なんで騒いでたんだ?」
彼女は眼鏡をキラリと光らせ、私を睨んで来た。これは面倒臭い事になる。私はすぐ支度をし、ささっとレカから逃げた。
「あ!ルカ姉だ!おはよう!」
曲がり角を曲がると、甘美が妙にニコニコしながら出てきた。肩にはペットの狼の『ウォーリア』が乗っている。
「おはようー。どうしたの?ニコニコして。」
彼女は天然だ。少し妄想癖があり変わっているが、いたって普通の可愛い美少女だ。そう、普通の。
「実はね、魔法が使えるようになったの!」
前言撤回。普通じゃない。
「・・病院行く?」
アニメの見すぎで遂におかしくなってしまったのか。良い精神科知ってるから教えなくちゃ。
「ち、違うよ。ほんとだよ!」
本当なのか。じゃ、見せてよ、とゲスい顔をしながら言ってみると頬を膨らませながら睨んできた。どうやら見せてくれるそうだ。服の袖を掴まれ、自動販売機の影に来た。あれ、ここ昨日の自動販売機だ。
「しっかり見ててよ・・。そいっ!」
可愛い掛け声だな、と別のことを考えていると、彼女の手から光に包まれた蝶が出てきた。
「うえわおぅ⁈」
思わず後ずさりをしてしまった。ウォーリアも甘味の肩から離れ、私の方に逃げてきた。光に包まれた甘美は、にこりと笑って言った。
「ね、ほんとでしょ。」
カチリ。
「!!」
はっと顔を上げる。歴史が変わった。しかも、大きな歴史が。変わってはいけないはずの歴史が。私は思わず頭を抱えた。止められなかった。
「早く、早くしないと。」
みんなを、早く救わなきゃ。ルカを、甘味を、レカを、救わなきゃ。
「・・・待っててね、アテネ。」
私は彼女の名を呟いた。
「はぁ?魔法?」
こんにちは、甘美です。実は昨日から、魔法が使えるようになりました!やったね!ほら、ペットのウォーリアも喜んでる。でも、親友のレカはどうも信じてくれないんだ。本当なのに。
「はぁ、困るな・・。ルカに続いて甘美までおかしくなるなんて。」
え、ルカ姉も?
「うん。大声でマジカルだ、私に非現実をうんちゃらうんちゃら言ってて。マジめんどい。」
そっか・・。確か優人先輩も、メールで空に人がいる、とか言ってたような。もしかして、私の身の回りで魔法を使える人がいるのかな。
「ねぇレカ。」
「ん?」
「レカ、魔法使えたりする?」
「は?」
「・・おはよう」
唯一の女友達のルカの様子がおかしい。空を眺めてブツブツと何かを呟いている。・・病院に連れて行こうかな。
「おい、ルカはどうしたんだよ」
横には、星弥がいた。完全に引いた顔をしている。もしや、俺が何かしたと思われてる?
「いや、俺何もしてねぇから。その顔やめろ。」
「え、なんかやったの?」
転校生の波白だ。待て、みんなに疑われてる。視線が冷たい。そんな顔やめて、と乙女チックに行ったら、叩かれた。痛い。そんな時、あいつがやってきた。
「やばばばばばば」
ルカの妹のレカだ。後ろには、物凄くニコニコしているレカの親友の甘美がいる。この学校は中高一貫校のため、中学と高校が同じ敷地内にある。そのため、中学生も高校に自由に出入りをして良い事になっているのだ。ここは一年二組、隅っこの三号館の四階にある為、中学校舎からはかなり遠い。焦って走ってきたのか、息を切らしている。様子が見るからにおかしい。
俺と星弥とルカ、波白が廊下に出る。
「あ、転校生の波白先輩すか!こんちは!で、やばいんよ!」
「何?ホームルーム始まっちゃう。」
「あのね、」
「うん」
「あたし、魔法が使えた・・・!」
「ええええええええええええ〜!」
みんなの絶叫が校舎中に広がった。ルカと星弥は喜びの叫びだ。俺は勿論驚き。だが、波白の叫びは俺ら三人と少し違った。喜びや驚きではなく、焦りが入った叫びだった。
とりあえずみんなは教室に行くことにした。静かにホームルームをする中、波白魔莉佳は教室から飛び出した。そして誰にもばれずに校庭へと走り出した。なぜばれなかったのかって?
彼女が魔法使いだからだ。
そのままホウキを取り出し、青空へと飛び出した。
「あ、魔法使いさんだ。やっぱいるんダァ。」
一人の少女が呟いた。栗色の髪を結び、ニヤリと笑った。
「最強の魔法使い、か。面白い!」
彼女が手を叩くと、大きな本が出てきた。日本語ではない、謎の字が書かれた本を。そのまま手を目に当てた。
「なんで魔法使いなのに聖力も見えるんだろう。不思議だナァ。」
ウフフと微笑み、彼女は本をしまった。
「神の魔法を使う、伝説の魔法使いマリンカ・・・楽しみだな!」
そう呟くと、その少女は光に紛れ消えていった。