第二話 お話をしましょうか
「ウィルリードは居る?」
対策するにもしないも、まずは話を持ってこさせた奴にも協力させなければ、と思い、ウィルリードの教室に行くと、開いていた教室の扉に手を添えながら、比較的穏やかで慈愛に満ちていそうな笑みを浮かべながら、ウィルリードのクラスメイトたちに尋ねる。
「あ、あいつなら……」
親切にも答えてくれそうな少年を遮るようにして、何かを落としたかのような大きな音がその場に響く。
「え、お前、何してんの?」と言いたげな答えてくれようとしていたであろう少年の視線を無視し、音の主の視線は私に向けられている。
「あら、ウィルリード。そんな所にいたの」
笑みを崩さずに声を掛ければ、捕まりたくないとばかりにその場を飛び出していくウィルリード。
「なーに、しようとしてんの」
「あ、いや、その……」
だらだらと汗を流すさまは、まるで何か悪いことをやったのを自覚しているかのようで。
「ちょーっと、『お話し』しましょうか」
暗に拒否権は無い、と言ってやれば、青ざめながらカクカクと人形のように頷いていた。
☆★☆
「それで、仮にも有休中の私に、何で丸投げしたかなぁ」
「……」
「黙ってちゃ、分からないよ」
「彼に私を紹介するなら、一緒に来るべきだったよね?」
目の前でらしくもなく正座しっぱなしのウィルリードに、正論を言ってみる。
「……あの、最終的にどうすれば……」
「もちろん、手伝ってくれるなら、許すよ」
何を当たり前のことを聞いているのだ。この男は。
「……はぁ、分かった。分かったよ。俺も手伝う」
どうやら仕事モードに切り替えたらしいウィルリードが、正座から足を崩し、座り直す。
「で、何をどうするんだ?」
「一つ、ナナメリア・アルトリア組からの依頼は、彼女を自分たちに近付けないこと。二つ、彼女からの要望は、私がナナメリアとの接触を禁止すること。で、あと有り得そうなのが、彼女のことを好きな男性陣たちから彼女をナナメリアと接触させずに、自分たちと過ごす時間を増やすこと」
「つか、最初と最後、上手く使えば何とかなるんじゃね?」
「甘い。あの男共は彼女の好感度を下げたくないから、分かりやすく防ぐような真似はしません」
ウィルリードの顔が「うわ、面倒くせぇ」と言いたげに歪む。
「だから、悩んでいるんでしょうが。最終手段として、神聖魔法の使用も視野には入れてるけど、使う前にどうにかしたい所なんだよね」
「そもそも、それを使った時点で俺たちの仕事の意味がないだろ」
それ言っちゃうかぁ……。
「もう一度、状況を整理して、使える手札を考慮。で、双方ともに文句を出させないための策を練らなくっちゃね」
これからきっと大変だろうし、まだ引き下がれる位置にはいるのだが、けれど、もしここでナナメリアたちの依頼を断るのも印象的には良くないので、何とかするしかない。
「転生だろうが転移だろうが、私たちの前ではどうにもならないんだから、策を練り、妥協点探して、何としてもそこに落とし込むよ」
だから、とウィルリードに拳を突き出して告げる。
「頼むよ、相棒。頼れるの、貴方しかいないんだから」
そう告げてやれば、溜め息混じりながらも、ウィルリードは返してくる。
「仕方ねぇなぁ。丸投げしたはずのお前から頼られたなら、手伝うしかないだろ?」
こつん、と拳がぶつかれば、ウィルリードも覚悟が出来たということだろう。
「ふふっ、神と女神に頼んだんだから、それ相応の覚悟をしておいてもらわないとねぇ……」
「……何かお前、神云々よりも悪役みたいだぞ?」
隣でウィルリードが何か言っていたが、そんなの無視して、私たちは手始めとなる作戦会議を始めるのだった。