第五話 問いの答えとその後
ーーそんな貴女には、厳しい王子妃教育に耐えてまで、王子と一緒に居る『覚悟』はありますか?
そんな私たちの問いに、シェリーナ嬢が顔を顰める。
「っ、」
何でここまで、と言いたい気分なんだろうが、そろそろ本気で退かないと、リズベット嬢の言い分が無くなってしまう。
「それじゃ、貴女の決断を楽しみにしてるから」
今度こそ、その場から私たちは辞去した。どことなく不安そうにこちらを見ていたリズベット嬢にはこっそり、「これから大変だろうけど、頑張って」と声を掛けるのも忘れない。
だって、シェリーナ嬢がどのような決断をしようと、噂が収まるまでは、リズベット嬢も似たようなことを言われるだろうしね。
あと、私たちが神であることを知ったせいなのかは分からないけど、驚きで固まっていた友人たちには騙すような形になって申し訳ないから、彼女たちにも後で一言言わないといけない。
「これで終わりか?」
「だね」
あくまでメインは、だけど。
「後は任せても良いんだよな?」
「うん、もうほとんどやることなんて少ないだろうしね」
まとめや結果的なものとかについては、代表者である私一人だけでもどうにかなるだろう。結果に関しては、私から二人に話せばいいし。
そうか、と短く返したガウディウスが、ユリアから回収した料理を口に入れる。
あー、私も何か口に入れておきたかったなぁ。せっかくのパーティー料理だったのに、食べ損ねちゃった。
そして、数週間後ーー……
「へぇ、頑張ってるんですね。彼女」
「ええ、まあ。途中で逃げ出しかけたこともありましたが、周囲の目が厳しいですから。あと、教師役はリズベット嬢に頼みました。彼女ほど王子妃として必要なことが分かってる人はいないですし」
「ああ、リズベット嬢に関しては、婚約者では無くなったけど、婚約者候補に格下げされたんですっけ。シェリーナ嬢が本格的に逃亡した際の対策とはいえ……本当、婚約破棄なんてもったいないことを」
「それは否定しません。けどまあ、王子は王子で、無駄に騒動を大きくした罰として、兄二人に扱かれてますし、兄たちの王子妃たちにも呆れられてますからね」
今日は様子見のつもりだったんだけど、国王夫妻からお茶会に誘われて、状況報告会となりました。
ちなみに、私たち神に対する態度に関しては、「婚約者であるシェリーナ嬢が頑張ってるみたいだし、彼女の努力に免じて、今回は無かったことにしてあげる」ということにしておいた。ただ、次は許すつもりはないけど。
「まあ、荒れてないようで何よりです。別の世界や国だと、荒れるときがありますから」
何が正解で、何が不正解なのかは分からないけど、上手く収まったなら良いじゃないか。
「それで、国神の件ですが……」
「それについては、お断りしたはずですが?」
この国には、国神ーー国が奉る神が何人か居るのだが、そこに加わるとか何と恐れ多いこと。
というか、たったあの程度のことで国神にされてもなぁ。
「それに、私は下級神なので、この国の大きさの国神となるのは無理です」
神様にも神様のルールというものがあるのだ。
ただ、神々の間では、俗世課と転生課は『無法地帯』って呼ばれてるみたいだが……そのことは否定するつもりは無いし、所属している全員が全員、そうとは限らない。
なので、そんな所に所属している神様として、国神になるわけにはいかないし、『下級神』という引き合いを出したのは、断るための言い訳に近い。
「そうですかぁ」
「まあ、時折こうして顔を見せに来ますから、それで妥協してくださいな」
こうして、私と国王夫妻との付き合いは、彼らが亡くなる時まで続く事となる。
こちら、天上界俗世課。
人間たちが住む世界ーー下界の近くに存在する、天上界の部署である。
それは、一種の『おまじない』。
強い『想い』や『願い』『祈り』が、『一通の手紙』として形成され、依頼として俗世課に届けられる。
断言は出来ないが、依頼さえあれば、受理するか否かは後にするにして、一度は依頼主の元へと赴き、話を聞いてみよう。
「アシュレイ、仕事ー」
「はーい、今行きまーす!」
それは、単なる気まぐれか。興味や好奇心か。それともーー……?
そんな私たち『天上界俗世課』は、今日も今日とて様々な世界や国々を周り、任務を遂行するために出掛けるのだった。
第一章、これにて終了。