第三話 さて、話を戻しまして。運命の時は来(きた)る
「創立パーティー?」
そう問い返せば、ああ、とウィルリードとガウディウスに頷かれる。
「少し調べてみたら、自身の婚約者に婚約破棄の話をしていないのは王子だけらしい」
「しかも、時期的に見て、言い出すのは創立パーティーの時だと思われる」
「というか、向こうにしてみれば、その時しかないでしょうね。婚約者の悪事を暴けるんだから」
まあ、そんな事実は元から無いのだが。
本当に、頭が痛い。
しかも、狙い済ましたかのように、彼女のーーシェリーナ嬢の持ち物の一部が壊された状態で発見されたとのこと。何だか、タイミングが良すぎたり、出来すぎなような気もするが、気のせいだろうか?
「悪事? 破棄じゃなくてか?」
「婚約破棄するために、有りもしない悪事をでっち上げて、『こいつはこんな悪いことをしたんだから、俺の相手には相応しくない。だから、シェリーナを新たな婚約者とする』とか言うつもりなんじゃない? ーーあ、いや、有りもしない悪事じゃなくて、起こったことを利用するのか。彼女の私物が破壊されたという事実はあるのだから、犯人が誰であれ、婚約者である彼女に擦り付けて、シェリーナ嬢に起きたいじめの主犯を婚約者とすることで、破棄しなくてはならない状況に持っていければ……!」
「王子たちの、いや、あの女の思い通りってことか」
「つか、それって……」
ガウディウスの言いたいことが分かり、頷く。
「そう、冤罪。婚約者である彼女がやったという明確な証拠が無いから、彼女がやったという立証も出来ない」
「だが、それでも、婚約者と婚約破棄するためだけに、それを利用するってか。アホか」
ケッ、とガウディウスが吐き捨てる。
「もちろん、学園内だと彼女の為人を知っている人の方が多いから信じられないだろうけど……」
「問題は外部、か」
「外部からの来客者がどれだけ信じるか分からない上に、国王夫妻も来るから、王子たちにしても、チャンスでしょうね」
ウィルリードはウィルリードで、眉間の間を指先で揉んでいる。
うん、もう本当に頭痛いよね。
「とりあえず、学園生である私たちは創立パーティーに出席しないといけないわけだし、どうしましょうかね」
ドレスコード。
ーーそして、当日。
「化けたな」
「第一声が、それってどうなの?」
「いや、似合ってるから。怒るなって」
「……」
「本当、冗談じゃないから」
それにしても、ウィルリードが遅いとは珍しい。
「いや、あいつなら、もう居るぞ?」
ほら、と促された方を見れば、驚いたまま固まっていたウィルリードがそこにいた。
「お前、女だったんだな」
「ウィ~ル~リ~ド~? それはどういう意味なのか、尋ねても良いかな?」
その喧嘩、高値で買ってやるぞ。ん?
「落ち着け、アシュレイ」
「止めないで、ガウディウス! 今日こそは一言言わないと気が済まないっ!」
「ウィルリードも、こいつが怒ること知ってて言うんじゃねぇっ!」
ギャーギャー騒いでいれば、くすくすと笑い声が聞こえる。
「相変わらずね。貴女たちは」
「ユリア」
クラスメイトであり、友人である彼女ーーユリアは一通り笑い終わると、やれやれと言いたげに目を向けてくる。
「でも、そのドレスは失敗だったんじゃない?」
「あー、彼女と被っちゃったからねぇ」
ちらりと、彼女に目を向ける。
「それで? 貴女のエスコート役はどちらなのかしら?」
ユリアに問われ、軽く首を傾げる。
というか、今回のパーティーに於いて、学園生とはいえ貴族以外の人たちも居るから、パートナーの有無は問わないことになっている。故に、私もウィルリードもガウディウスも、慌ただしくパートナー探しをしようとはしなかったのだ。
「残念ながら、どちらも違います」
「何だ。アシュレイがどっちとパートナーになるのか、楽しみだったのに」
「楽しみって、あのねぇ……」
呆れたような目を向ければ、私たちが話していた時以上の歓声や悲鳴により、会場内の声は掻き消される。
「ようやく、お出ましか」
「パートナーの有無は問わないとはいえ、これは……」
ガウディウスにようやく解放されたので、ヒール部分でウィルリードの足を踏みつけながら、シェリーナ嬢とゆかいな仲間たちに目を向ける。
「アシュレイ」
「しかも、全員あの女がパートナーと来たか。破棄を言い渡された婚約者組は理解していたようだが、王子の婚約者だけは微妙な顔をしてるな」
「そりゃあ、唯一話を聞いていなかったからね。いくら察していたとはいえ、彼女の面目は潰れたでしょうね」
「アシュレイ!」
小声で叫ぶようにして呼ぶという器用なことをしてきたウィルリードに目を向ければ、顔を歪めていたので足の上から退かしてやる。
「次はやらないでよ」
私とて、何度も嫌がらせをしたくはないのだ。
そんなこんなで、王子たちがシェリーナ嬢をエスコートしてきたというハプニングもあったが、創立パーティーは始まり、きらきらと照明に照らされて、優雅な音楽も奏でられながらも進行していく。
それなのにーー
「リズベット・リスティアーナ侯爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
これだもんなぁ。




