プロローグ
きらきらと照明に照らされて、優雅な音楽も奏でられる。
卒業生だという国王夫妻も出席されている、学園の創立パーティーで、この国の第三王子が盛大にやらかしてくれた。
「リズベット・リスティアーナ侯爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
「……」
えー、何があって、こんな事になってるんだろう。
婚約破棄を言い出した彼の周囲には、いつも彼と一緒にいる騎士団長の息子を始めとした御子息たちと、彼らの側で小さく縮こまる少女の姿があった。
……あ、なるほど。この『断罪イベント』が終われば、完全なる逆ハーレムが完了するわけね。
国王夫妻の方にちらりと目を向ければ、二人して青ざめていた。王妃様なんか、今にも卒倒しそうなぐらいだ。
「驚きすぎて、声も出ないか」
そりゃ、予想外のことが起きれば、誰だって驚くだろ。
「いや、確かに驚きはしてますよ。ところで殿下。婚約破棄をしようと思った理由について、お聞きしても?」
「理由だと?」
殿下のーーいや、殿下だけではなく、『彼女』の周囲に居る彼らの機嫌が、あからさまに悪くなる。
「彼女をーーシェリーナを虐めたではないか」
「シェリーナさん……というのは、そちらの方?」
「知らない振りをしても無駄だ。お前がしたことと証拠はあるんだぞ!」
したことと証拠、ね……今が初対面の人を、どう虐めれば良いのかな?
「お前が言った数々の暴言やシェリーナの私物の破壊。これを見て、言い逃れできると思わないことだ」
「……ふーん」
淡々と『証拠』とされたものが突き出されたので、それを見つめる。
教科書を破くなどはともかく……よくもまあ、ペンとかブレスレットとか、ここまで壊せたものだ。
だが、余裕を崩さず、笑みを浮かべれば、殿下たちがたじろぐ。
「な、何だ。言いたいことがあるなら、言ってみろ」
「いえ、ね。殿下が、まさかご自身の婚約者に対して、勘違いなさってるとは思わなくて」
「勘違い、だと?」
顔を顰めているってことは、本当に気付いていない所か、知らないのだろうか。
「殿下の婚約者であられるリズベット様は『私』ではなく、別のご令嬢だってことですよ」
それを聞いた殿下は驚いたのか、目を見開いた。
だが、周りで見ている野次馬の人たちもーー特に貴族の子息や令嬢たちが、宣言されたリズベットと『私』という人物が違うことが分かっているからか、「え、マジで気付いてなかったの?」と言いたげな顔が、婚約破棄を言い出された時よりも、さらに増えている。
そして、この状況をずっと見ていた本来の婚約者様は、頭が痛そうにしていた。そりゃ、自分が婚約者なのに、他人と間違えられるなんて思わないだろうし。
「じゃ、じゃあ、お前は誰なんだ」
ふむ、誰、と来たか。
ずっと同じクラスだったというのに、覚えてもらえていないとは……いや、あえて印象に残らないようにしていたから、当たり前といえば当たり前か。
「もっと早くに気付いて、その質問が欲しかったですねぇ」
「っ、」
自身の婚約者と別の女子を見分けられなかったことに対してか、側にいる『彼女』に格好悪い所を見せたことに対してかは分からないが、殿下は顔を歪ませる。
そんな彼に向かって、私は笑みを浮かべて見せた。