第六話 助けに向かう
ウィルリード視点
「アシュリーがいない?」
俺のところにその知らせが来たのは、指定された夕飯の時間(七時から九時)が残り30分となった時だった。
男性教師と女性教師が、彼女の不在を知らせに来たのだ。
「時間になっても戻ってこなかったから、少し様子を見ていたんだけど……」
「それでも戻ってくる様子が無かったから、彼女と親しいお前なら何か知ってるんじゃないかと思ってな」
「そういうことですか……」
アシュリー――アシュレイのことだから、例の彼女への対抗策として何か準備してるのかと思ったのだが、大体時間を守るタイプの彼女が決められた時間内に戻ってないのはおかしすぎる。
「ナナメリア様たちにも確認を?」
「それは先に確認した。戻ってないと聞いて、驚いてはいたが」
「……」
ナナメリア様はアシュレイに依頼した人物だから、結果の遅さを除けば、意図的に罠に掛けるようなことはしないだろう。
となれば、例の彼女の方が態度的にもやりそうではあるが、そんなことをすれば、取り巻きと化している彼らにバレたときが怖いし、何より彼女の方がアシュレイよりもそういう目に遭いそうな気がするのだが。
「アシュリーが何か考えていたのは知ってますが、その中身までは分かりません」
半分本当、半分嘘である。
「でも、彼女を捜すんであれば、俺も捜します」
「だがな……」
「人手はあった方がいいと思いますが」
「……」
先生たちにとっては俺も生徒だから、何かあったときのことを心配しているんだろうが……
「先生」
部屋がある方から、一人の男子生徒がやってくる。
「どうかしたのか」
「その、戻ってこないって話が聞こえて」
「何か知ってるのか!?」
男性教師は詰め寄るが、戸惑う男子生徒を見て、俺と女性教師がどーどー、と二人を落ち着かせる。
「で、どうしたんだ?」
話の続きを促せば、落ち着いたらしい男子生徒が爆弾を投下した。
「俺の同室の奴も戻ってきていないんです」
「まさか、二人一緒に……?」
「有り得ませんね」
もしもの可能性を口にした女性教師の言葉を、即座に却下すれば、驚いたような目を向けられる。
「いなくなった男子の方は分かりませんが、知り合って間もない奴と一緒に出掛けるほど、馬鹿じゃないですよ。アシュリーは」
同じ部署の同僚だから、よく分かる。
あいつとそれなりの信頼関係を築けるようになるまで、時間は掛かったが、築けてしまえば彼女のことがよく見え、理解できるようにはなった。
だから、断言できる。アシュレイが何かない限り、知り合って間もない奴と一緒に行動することなど有り得ないということを。
「で、そのいなくなった奴の名前は?」
「ロウです。ローレリアン・ハワード」
その名前を聞いて、ピンと来る。
あの取り巻きの無口な奴か、と。
「いつだ? いつから居なかった」
「いつからというか、部屋で待っていたんですが、来る様子も無くて、だから、夕飯の時間もありますし、それが終わってから先生たちに知らせようかと……」
「と思っていたら、ここで俺たちが居なくなったやつについて話していたから報告に来た、と」
俺が繋げば、男子生徒が頷く。
「先生。これで、人手を減らすなんて馬鹿なこと言いませんよね?」
たとえ止められても捜しに行く。
その意思を示せば、深く溜め息を吐かれた。
「あの、俺もいいですか。部屋で一人、ずっと待ってると落ち着かないので」
「……はぁぁ~」
男性教師が先程より深く長い溜め息を吐いた。
「何かあっても自己責任だからな」
「先生!?」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
女性教師が驚いたような表情をし、俺たちは俺たちでそれぞれ礼を言う。
これで、何も気にせず、二人を捜すことが出来る。
だから、何もせず、大人しくしてろよ。アシュレイ。