第五話 閉じ込められたら
終わらせたい。ああ、終わらせたい。終わらせたい。
こんな句を詠んだのだって、早くこの問題を解決して、ウィルリードとともにのんびりと有休を過ごしたいからだ。
それなのに、それなのに……
「マジで、何でこんな状況になってるの」
だが、嘆いても仕方がない。
私は女神。下級の女神かつマイナー女神だけど、神様だもの。……今は人間だけど。
さて、現実逃避はここまでである。
何が起こったのか言うのなら、誰かさんの罠に嵌まって、攻略対象の一人と仲良く閉じ込められた訳です。何てこったい。
「……」
「……」
私は仮にも女神なので、普通に魔法を使おうが神力使おうが脱出しようと思えば出来ます。
けど、彼はどうしようか。
私が出ていって、助けを呼ぶという手もあるけど、そこまでの流れを見られたら、絶対に何か言われかねない。
「……」
「……」
一番の救いは、双方ともに大怪我してないことだろう。
まあ、怪我していたところで、私が瞬時に治すので文句を言わせる暇は与えないし、治した後に文句言ったら、怪我の状態に戻してしまえばいい。
――それよりも心配なのは……
ウィルリード、気づくかなぁ。
つか、気づいて暴れてなきゃいいけど。
「……」
「……」
一気に不安になってきた。
ちなみに、双方ともにさっきから話してないのは、私は考え事してるし、彼は単なる無口(+無表情)だからである。
しかも、何かあっても困るので、物理的に距離を取っているから……うん、多分彼女にも疑われる可能性は、減ったのかもしれない。
「……」
「……」
つか、私たちを閉じ込めたお嬢さん方、おとがめとかどうなるんだろうか。
私は頼まれたから(どうなるのか分かっていながら、あえて)引き受けたのだが、まさか彼が来るとは思わなかったし、彼まで閉じ込めた以上、お嬢さん方、確実に何か言われるよね?
「……」
「……」
彼も彼で、何でこんなとこに来たのか分からないから、どうすることもできないし……
「……」
「……」
さて、どうしよう。お腹が減ってきた。
いや、私は使用属性が無属性だから、亜空間使えるし、そこに大量の食料とか詰め込んであるから、そこから出して食べれば良いけど、そんな私の様子を見せられる彼にしてみれば、拷問だろう。
それに、『彼女の敵』扱いしている私の食料など、受け取りたくもないだろうし。
となれば、取れる手など限られてくるわけで。
「……どうしたものか」
悩みどころである。
そもそも私たちが居るのは体育倉庫である。
貴族も居るのに、体育なんてやるの? とお思いだろうが、体力作りと護身術は体育の授業の範疇だし、騎士を目指す人たちは必須科目なので、この学園にはそういう場所が存在している。
ぶっちゃけ、誘拐されて、大きなお屋敷に閉じ込められましたという状況だったら、無理矢理にでも脱出して、食料を探しに行けたり出来るんだけど、今居るのは体育倉庫だもんなー……
「……」
「……」
夕飯、食べたい。
本当ならしっかりとしたもの食べたいけど、こんなところじゃ火を使うことすら無理だから、そのまま食べれる木の実とか果物系にしておこう。
一応、お坊ちゃんな彼には動物を捌くどころか、見ることすらダメだと言われかねないからね。
「……何してるの」
君、そんな声だったのか。
とりあえず、第一声聞けただけでも良かったよ。
というか、亜空間に手を突っ込んでるときに話しかけないで欲しい。
「いや、お腹空いたから、何か食べようかと」
「……」
とりあえず、りんごを二つ分取り出したけど……
「食べます?」
「……いらない」
「そうですか」
いらないというのであれば、二つとも食べてしまおう。
二つも食べれば、腹の足しにはなるだろうし。
「……」
「……」
そのままかぶりついても良かったけど、持ち歩いてる十徳ナイフで食べやすい大きさに切っていく。ゴミを出さずに済むから、皮も食べられるのは有り難い。
「……」
「……」
それにしても視線が痛い。
「……」
「……」
私が彼の方に視線を向ければ、こちらを向いていたはずの目は逸らされる。
そして、私が目線をりんごに向ければ、再度視線を感じる。
欲しいのなら欲しいって言えばいいのに、さっき断ったから言えないのと、プライドなのかなぁ。
彼女からのものなら、隣で一緒に食べていたんだろうけど……今一緒に居るのは私だからなぁ。
「……」
「……」
「……」
「……」
少しだけ待ってみているけど、声を掛けてくる様子はない。
仕方ない、か。
「これ、食べてください。何も食べないよりはマシだと思うので」
ずっと視線を感じて、それが気になるから、食べてほしい。
とりあえずりんご一つを丸々渡してみれば、受け取ってはくれた。
「……」
「……必要なら切りますが、特に入らなければ、そのままかぶりついてください」
入らないかなー、とは思ったけど、一応言っておく。
「……」
「……」
どうやら切る必要は無いらしく、彼がそのままかぶりついたのを見て、私も自分の分を片付けるために、再度口をつけ始める。
ああ、誰か早く気づいて、助けに来てくれないかな。