第四話 まずは情報収集から
たとえストーキングされていようが、私がやるべきことは変わるわけでもないので、今日も今日とてせっせと情報収集である。
「……」
とりあえず、相変わらず捕まらないウィルリードのことはもう諦めつつ、例の彼女のここ最近の行動パターンは把握したので、いくつかの作戦を立てることにする。
ちなみに、ナナメリア側の行動パターンは授業を受け、休み時間は友人たちやアルトリアと過ごすというのが、ほぼ定番パターンである。
「……」
それにしても、慣れというのは怖いもので、昼食も取らずに私をストーキングしている人には驚きである。いやまあ、ここ最近の行動からして、弁当とか持ってきている可能性も有るんだけど。
正直、ウィルリードが側に居れば、それだけでストーカーを警戒させられるから良かったんだけど、いない人に頼ったところでどうにもならない。
それに、同じようにストーカーに悩まされている彼女は、きっといつも通りに、例のメンバーに囲まれていることだろう。
「……話し掛けてくればいいのに」
どうせ一人で食べるなら、こっちを気にせず話し掛けに来ればいいし、こうして一人になっているんだから、危害を加えるなり何なりすることだって出来るはずなのに、一体何が目的なのか。
そう思っていれば、何だか呻き声が聞こえてきた。
「ウッ……!」
そんな声の後に、何かが倒れるような音。
「本当、何やってんだよ。お前は」
そして、現れる数日振りにその姿を見せた同僚は、呆れたような表情をしながら、そう聞いてきた。
「あら、行方をくらませていた貴方よりも、働いていた方だとは思うんだけど?」
「けど、あのザマじゃ、意味無いだろうが」
「一人でいれば、向こうから何かしてくるかと思ってたんだけどねぇ」
ウィルリードが気絶させた男子生徒に近付く。
視線が感じないということは、彼が私のストーカーだったんだろう。
「……けどまあ、ありがとう」
「……ああ、何かされる前で良かったな」
素直にお礼を言うのは恥ずかしいが、ストーカーの正体を知ることが出来ただけでもマシである。
ただ、お礼を言いつつ彼の袖口を引っ張ってしまったのは、きっと無意識に怖いと思っていたからだと思いたい。
「それで、あの子の方は?」
「ストーカーの件なら犯人は分かってる。後は証拠だけだな」
「そうなんだ。でも、証拠か……」
この際、何で知ってるんだとか、追求はしないでおくとして。
でも、ストーカーしていた証拠って、どうする?
物が盗まれたわけでも、何か送られてきたわけでもない。
ただ見ていた奴を相手に、どうやってストーカーだと証明する?
「隠し撮りした写真とかがあれば、良いんだけどな」
「やっぱり、その点か……」
ストーカーを追求させるのは、彼女の周囲に居る男共に任せるとして、そろそろナナメリアからの依頼に対しての作戦を立てなくてはならない。
私をストーキングしていた彼は放っておいて、ウィルリードと話しながら、その場を後にする。
「それで、そのストーカーの情報、あっちに渡したの?」
「渡すわけがないだろ。証拠もないのに、あいつらが追求して、一生徒を罠に掛けたりなんかしてみろ。情報を与えた俺まで学校中の敵になる」
「それは困るなぁ」
それこそ、一人でどうにかしないといけなくなる。
「それでどうする。ストーカー云々で言うなら、彼女も含まれるぞ」
「そこも頭が痛いんだよね。無理矢理やれば遺恨と化すし、かといって、やらなくてもナナメリアたちを困らせたままになる」
「なら、どうする。ストーカーを利用したところで、ナナメリアは気にするだろうに」
それも否定できない。
彼女――相手に不快な思いをさせずに遠ざけるのが、ナナメリアの理想だろうから。
「でも、使える手札なことには変わりないよね」
「おい……」
ウィルリードが顔を顰めるが、せっかく使える手札があるのに、使わないという手は取らない。
「あちらのストーカーさんは彼らに任せればいい。私たちが一番やるべきことは、ナナメリアからの依頼を遂行し、早急に休暇を取り戻すことなんだから」
「そうだな。俺も早く休暇を再開したい」
ウィルリードも結局、仕事しちゃってるからね。
「これが終わったら、有休じゃなくてもいいから、ダメ元で休暇の期間延長を申請してみようか」
「あいつが認めるわけないだろうけどな」
そこで互いに顔を見合わせる。
「報告書を作成して、提出すれば……許されるかな?」
「駄目なんじゃないか? ただでさえ、有休取るときにも渋られたのに」
私とウィルリードの二人が同時に有休取ったから、っていうのもあるんだろうけど、やっぱり期間延長は厳しそうか。
「やっぱり、早々に終わらせるしかないか」
「だな」
その方がきっと文句も言われないだろうし、面倒も少ないことだろう。
とりあえず、次の授業に遅刻しないよう、私たちは移動を始めるのだった。