試し書き
雑草がぼうぼうに茂った道を、擦り切れてボロボロになった草鞋を履いた侍が力強い足取りで歩いていた。
あたりは薄暗い、雲の切れ間から月がでたり隠れたりしながら男の足元を照らしていた。
ずんずんとしばらく歩いていると、滑り気のある空気が男の周りにまとわりつくように漂ってきた。
男の目の前には、朽ちかけた山門が大きな口を開けていた。
迷う事なく、男はその山門に吸い込まれていく。
ぬるりとした空気も一緒に山門にすいこまれる。
そこから十間ばかり歩くと目の前に石段が現れた。
月明かりが薄っすらと階段を照らす、所々草が伸びた階段を上っていくとまた門が現れた。
そこで男は迂回して、土壁でできた塀をたどっていく。
ぐるりと廻ると土壁が朽ちて、よじ登ってはいれそうになっている。
脇差と太刀を腰ひもから外すと男は塀を乗り越えた。
刀を差し直すと、男はあたりを見渡した。
年月を経ている古さはあるが、所々手入れがされている。
目の前の古寺では何者かが暮らしているようだ。
男はなにかを見つけ、まっすぐ一つの方向に歩いていく。
薄っすらと暗い中に行灯の光が灯っている部屋がある。
その部屋に向かって男は進む。
滑り気のある空気も男と一緒になって付いて行く。
男の足取りは段々と慎重に気配を消したものになってゆく、なにかブツブツと男が呟くとまるでそこに男が存在していないかのように、男の気配が完全に消えてしまった。
ゆっくりと縁側に足をかける。
板ばりの縁側に乗ると、男は低く身をかがめ慎重に目の前の障子に手をかける。
障子がするすると開いていく、男はその中へ音も立てずに入っていく。
部屋は薄暗く、布団が二組続けてひいてある。