表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独立不羈の凱歌を〜号哭の戦鬼達へ〜  作者: kinoe
First Act〜歌を忘れた落烏と歌謡いの少女〜
9/27

Deep Blue Drive 〜碧の衝動〜(中)

気付いたら、また、独りになってた。

何故、こんな事に?

みんなどこに行ったんだよ?

ってな感じで、さすがのアタシも、あれには泣いたな〜


でもさ、アタシには、あのヒトの歌があった。

だから、迷わなかった。

歌い続けよう……そう誓ったんだ。

Feb/12/2034 11:10

ーー中国大陸・山東省西部~華北平原上空ーー


『こちらオリンパス、プーマ22、君が編隊の指揮を取れ』


澄んだ青色の空を、円盤型のレドームを備えた米軍のAWACSが飛行していた。

トライアドの支配地域上空から再度飛行してきている敵戦闘機へ対応するため、先程臨時で編成された戦闘機四機の編隊へ無線で呼びかける。


『プーマ22、了解』


コールサイン「プーマ22」、在韓米軍所属のF-16Vに搭乗するアメリカ人パイロット「オリバー・ジャクソン」が澄んだ通る声で短く返答する。

ヘルメットで人相は隠れているが、露出した肌の一部は白く、彼が白色人種コーカソイドであることを示していた。


米軍の最新鋭戦闘機は、F-22やF-35等の第五世代機であったが、費用対効果、いわゆる「ハイローミックス」の観点等から従来戦闘機を改修した機体が、未だ一線級で使われていた。


重ねて、第三次世界大戦開戦前まで、在韓米軍については、北方に位置する某国など、その特殊な地域性から、特に最新鋭戦闘機を常駐させる事が望ましくなかったため、F-16のアビオニクスを改修し、第五世代機との併用性を高めたV型が配備されていた。


『プーマ22から全機へ、レーダーをLRS《長距離索敵》モードへ切り替え、ベクター2ー2ー0、フィンガーフォーでいく。』


オリバーが各機へ指示を出す。

フィンガーフォーとは、戦闘機の編隊の一つである。


※フィンガーフォー

「進行方向」–↑

flight reader : ①

‥wingman : ②ー③ : element Reader

ーーーーーーーーー④ : ‥wingman


歴史は古く、第二次世界大戦前にドイツ空軍で考案された編隊飛行の一つであり、二機一組のロッテ戦術を組み合わせたもので、

「シュヴァルム」

とも呼ばれ、視野を広く確保し、有視界戦闘に優れているとされる。


『スパイク11、さっきは見事なドッグファイトだった、次も期待してるぜ。』

オリバーが無線で伝える。


『そいつはどうも。俺が撃墜したら飯でも奢ってくれ。』

『おっ、どうせなら賭けようぜ!ザザッ…どっちの編隊が撃墜するかでよ?』

周永の提案に反応を示したオメガ31のパイロットが賭けを提案する。

ガラガラ声に雑音が混じった。


『こちらは構わんが、韓国料理でも良いのか?オメガ31』

『あー…ネガティヴだ。どうにもキムチってヤツが俺の身体には合わないらしい。』

『了解。とびきり辛いやつ奢ってやるよ。』

『まてまて、やっぱりメニューもーー』

『ツー、コンタクト』

オメガ31の言葉を遮るように、スパイク22の無線が割り込んだ。


『ベアリング2ー2ー3、距離94㎞、高度32,000ft、オリンパスの情報通り敵機は二機です。』

自機のレーダー上に敵機を発見したスパイク22が敵機の位置を伝える。

それを受けて、オリバーらは機首をやや右側に向け、視線をそちらに向けた。


ピーピーピー


高い電子音のトーン信号が一度だけコックピット内に鳴り、機内のレーダー画面に長方形型のシンボルが二つ現れる。


『プーマからスパイクへ、一番機はこちらで頂く、二番機を頼む。』

『スパイク11了解。』

スパイク11の返答を確認すると同時に、オリバーは自機のレーダー上で目標を指示する。

索敵モードに設定されていたレーダーがSTT《単一目標》モードに自動で移行し、ヘッドマウントディスプレイ上に円形表示されたASEサークルの右下に正方形型の目標指示ボックスが表示された。

当然、目視外戦闘であるため、敵機の姿は確認できない、しかし、Fー16VのAESAレーダーはそこに確かに飛行体があることを伝えていた。


オリバーは、サイドスティックとスロットルレバーに備え付けられた各種スイッチを操作し、マスターアームのスイッチを入れ、兵装を中距離ミサイルモードに設定する。


訓練、実戦で数え切れないくらい繰り返したその動作を、苦もなく速やかに終えると、ヘッドマウントディスプレイ上の右側に位置する高度計の隣に目標距離計が現れ、中距離ミサイルの最大射程距離と限界射程距離が表示された。


目標指示ボックスの下方から一本の短い直線が出ており、敵機が対向してきていることがわかる。

現在の目標との距離を示すバーがみるみる下降し、最大射程距離の表示箇所へ近づいていき、そして、目標距離を示すバーが中距離ミサイルの最大射程距離地点を通過した。


まだだ


オリバーは、自身に言い聞かせる。

ミサイルの最大射程距離は、決して有効射程距離を示しているものではない。

射程距離内とはいえ、距離があればあるほどミサイルはエネルギーを失い、容易に振り切られてしまう。

確実に命中させるには、絶対必中圏と呼ばれる距離までミサイルの発射を我慢する必要があった。


チ・チ・チ…


突如、Fー16VのRWR(レーダー受信警戒機)が短いトーン信号を出し始めた。


チッ


オリバーが思わず舌打ちする。


『オリンパスからプーマ22、敵機の索敵レーダー範囲が近い、気をつけろ。』

『わかってる!』

オリバーが短く伝える。

Fー16Vのステルス性は、サイレントイーグルに比べ脆弱であり、レーダー照射を受ければ容易に位置が割れてしまう。

オリバーのサイドスティックを握る手に汗が滲む。


もう少し…


サイドスティックを握り直しながら、目標距離計を睨む。

グローブとサイドスティックの摩擦で『ギリリッ』と鈍い音が聞こえた。


チチチチ…


RWRのトーン信号が、敵機からレーダー照射を受けている連続音に変わるのと、オリバーがミサイルを発射するのはほぼ同時であった。


『プーマ22、フォックスワン、フォックスワン』

『オメガ31、フォックスワン、フォックスワン』

僚機のオメガ31も、ほぼ同時にミサイル発射を告げる


シュッ

シュッ


ミサイルの発射音とともに、約150㎏の重みを無くした機体がふわりと若干浮かぶのを感じる。


『ブレイク!ライトターン』

『チャフ、フレア』


しかし、休む間も無く、オリバーは右旋回をうち、回避行動に移る。


中距離ミサイルのアムラームは、ミサイルに搭載された誘導装置により、完全な打ちっ放し能力を備えており、発射後に母機から敵機まで御丁寧に誘導する必要はない。


敵機からレーダー照射を受けているため、ミサイルを発射される前に回避行動を取り、機体から金属片と光球を射出する。

敵のレーダーに対する欺瞞ーーECMの一種である。


バックミラー越しにオメガ31も付いてきていた。


『プーマ、オメガ、スパイク編隊のミサイル射出を確認。』

オリンパスがマッハ4に到達する速度で飛翔するミサイルをレーダーに捉える。


『着弾まで…40』

『30…』

『20…』

『敵機、急旋回、回避行動へ移行』


もう遅い


オリバーは思った。

射出時の慣性誘導により、敵機に悟られず接近した中距離ミサイルが、終末誘導のためにレーダーを射出する。

このレーダーを敵機が観測し、回避行動に移った時には、対向して接近する敵機の目と鼻の先にミサイルは接近している。


『5、4、3、2…』

『ゼロ…着弾』

ミサイル命中を告げる無線が流れる。


『スプラッシュワン!』

『レーダー上に脅威目標確認出来ず。各機よくやった。』

オリンパスが敵機撃墜を確認し、告げる。


『ウーファー!楽勝だぜ!』

オメガ31が一際大きな声で叫んだ。

オリバーも「ふぅっ」と一息つく。


『撃墜数一対一で賭けは白紙だな!』

不意に嬉しそうな声調でオメガ31が無線を入れた。


『おいおい、何で提案者が、一番喜んでるんだ?』

オリバーが苦笑しながら突っ込む。


『スパイクからオメガへ、食事奢れなくて残念だ。』

『いや、気にしないでくれ、俺の田舎のバァさんも賭け事は良くない事だって言ってたぜ』

『そうか、なら良いんだ。』

『あープーマ22へ、提案があるんだが、今日は祝勝会でも開かないか?オススメの店があるんだが』

スパイク11のパイロット周永がオリバーへ提案する。


それだけで、オリバーは周永の意図するところを理解する。


『それはいい提案だ。オメガ31も誘っていいか?』

『ああ、是非誘ってくれ!本当に美味しい韓国料理の店なんだ。』

『おいおい…勘弁してくれよぉ〜』

オメガ31の嘆きに皆が笑いに包まれた。


戦闘時の緊張がほぐれた事もあるのだろう。

他愛のない馬鹿話が心地よい。


しかし、それが…全員の警戒心を緩慢とさせてしまっていた。


普段なら気づけていたかもしれない、小さな変化を見逃してしまったのだ。


『ウォーニング!!ミサイルアラート、後ろだ!!』

オリンパスが突然警告する。

しかし、各機のRWRにはなんの反応もない。


『Hey、オリンパス、冗談はーー』


オメガ31の


「冗談はよせ」


という言葉は発せられることはなかった。

その代わりに


ボンッ


という爆発音と空気中を伝う衝撃波がオリバーの乗るFー16Vを軋ませた。


視線を左後ろに向けると、オメガ31のFー16Vの機体が炎に包まれて、木の葉のように落下していた。

その時、幸運にもバックミラー越しに白い軌跡が左後方から伸びてきているのが視界に移った。


ミサイルだ。


そう判断するより早く、オリバーの身体は反射的に動いていた。


「ブレイク!ブレイク!」


レーダー照射の警告音が鳴らなかった。

つまり、赤外線誘導方式のミサイルだ。

言い聞かせるように自問自答し、すぐさまフレアを射出、スロットルレバーを絞り、左に旋回する。


パパパ…


いくつもの光球がFー16Vの後方に舞い、その中に白い軌跡が吸い込まれ、小爆発を起こした。


オメガ31は、脱出出来ただろうか?

あの爆発では…

それにしても、おかしい。

レーダーは、敵機を感知していなかった。

オリバーの頭で思考が絡まる。

しかし、今優先すべきなのは…


『オリンパス!何処からだ!』

『機影は確認できない、ステルスだ!ミサイルはベクター1ー6ー5、距離30㎞から突然現れた…まだ来る!』

『スパイク22、左後方からミサイル、ブレイクレフト!ブレイクレフト!』

『ラ、ラジャー!フレア、フレア』

オリンパスの指示を受け、スパイク22が回避行動に移るが、突然の奇襲に反応が遅れた。

Fー15SKの直近で、ミサイルの近接信管が作動。

爆風により強大な運動エネルギーを得た金属片が機体に襲いかかる。


『被弾した!被弾した!コントロールが効かない!メーデー、メーデー!』

『脱出しろ!スパイク22!』

『アイムイジェーー』


燃料に炎が引火したのか、スパイク22の機体が二次爆発を起こした。

コックピットが紅く燃えている。


『スパイク22がやられた!』


何処だ?

何処にいる!?


オリバーが視線を巡らせる。

呼吸が乱れ、身体が酸素を求める。

酸素マスクから送られる乾いた空気が、喉を枯らした。


ミサイルが30㎞付近から射出されたとしたら、既に有視界戦闘の領域だ。

敵機を目視できるはず…。


『タリホー!敵機バンディット、8時方向、上だ!』

スパイク11が無線で敵機の位置を知らせる。

オリバーが左後方の上空に視線を向けると、飛翔する大型の戦闘機が三機確認出来た。


カナード翼が目立つクロースカップルドデルタ翼を備えた大型のステルス機

あれは…旧中華人民共和国が開発した第5世代機ーー


Jー20か!?


『プーマ22からオリンパス、敵機はJー20だ!三機いる!』

『こちらのレーダーでも確認した。』

『奴ら、Jー11を餌に、その直上に重なるように近づいて来たってのか!?』

『プーマ、スパイク、こちらの部が悪い。その空域を離脱しろ!』

『無理だ!ケツを見せたら喰われる!』

言いながら、HUDをドッグファイトモードに切り替える。


と同時に、


チチチ…


とRWRがレーダー照射を受けていることを知らせる。


「今度は何だ!?」


レーダー画面を確認すると後方からのレーダー照射であった。


後ろ!?

馬鹿な!

三機は視線の先にいるのにーー


『チェックシックス!後ろにも三機いる!』

オリンパスがレーダー照射を確認し、敵機の数を知らせる。


『俺たちは既に囲まれているのか…』

オリンパスの無線を聞いたオリバーが呆然としたように呟やく。

そして、


ピピピピ…ピーーー


Fー16Vのコックピット内で、敵機からレーダーロックされたことを告げる、高音のトーン信号が鳴り響いた。


まるで、オリバーを死へ誘うかのように…。

また夢を見た。


内容はよく覚えていない。

まぁでも……気持ちの良い夢じゃねぇんだろうなぁ。


寝汗がひでぇのなんのって。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ