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独立不羈の凱歌を〜号哭の戦鬼達へ〜  作者: kinoe
First Act〜歌を忘れた落烏と歌謡いの少女〜
5/27

An Encounter 〜邂逅〜(上)

そうだ。

あの日もいつもと同じだった。

邪魔者を殺せと、駆逐しろと命令されて空を飛んだ。

そんな俺とは対照的に、

空は碧くて、

鳥は自由に飛んでいた。


AUG/21/2035 18:45 ーーAFTS(戦機搭乗者養成学校)敷地内ーー

シュミレーション訓練後、橘は、戦機搭乗者養成学校の敷地内を1人走っていた。


戦機搭乗者養成学校ーー通称『AFTS』は、国連主導による対テロ国家殲滅作戦以降、周辺各国--主に中華人民共和国やロシアにおける戦機開発競争を含む軍事力拡大化を受けて、日本においても有事の際における即応力及び機甲部隊の必要性を求める意見が高まり、まず、既に自衛隊から国防軍へと名称を変えていた陸軍、海軍、空軍を統括する『日本統合軍』が組織され、その後、同統合軍下に戦機搭乗者を育成する機関として、2028年、全国4箇所に設立された。


第三次世界大戦中は、実質閉校状態となっていたが、大戦終結後直ちに再開されることとなる。


橘が所属するのは、宮城県内は、旧王城寺原演習場の敷地内に設立された東北方面校である。


AFTS機甲科(パイロット課程)への入校資格は、既に日本国防軍へ入隊している者若しくは希望者で適性試験において適正有りと判定されたものに限られており、現在、東北方面校機甲科第8期生は、総員34名で、その全員が前者である。


そして、橘自身も空軍出身者として養成学校に入校させられた一人であった。


「さすがに……熱いな。」


夕方とは言え、真夏日ともなれば気温も高く、日はまだ昇っており、西日が橘の背中を照らしている。

オリーブ色のTシャツが汗で濡れ、濃い緑色へと変色していた。


訓練教官に命じられた敷地内マラソン自体は、毎日早朝に全訓練員が行っていることであったので、橘にとっても、さしてつらいことではない……が、汗で濡れたTシャツが肌にまとわりつく感覚だけはどうにも慣れない。


養成学校正門前を通過し、そろそろマラソンを終えようとしたとき、バスやトラックなどの大型車両が多数、正門を通過し敷地内に入って来た。


その車列が、思わず足を止めた橘の前を通過する。


一台のトラックが通過した際、荷台の白いカバーが風でたなびき、積荷の一部があらわになった。


巨大な人の腕を模した機械ーー


「あれは……戦機、か?」


しかし、真っ白な……そう、見たことのないカラーリングだ。

日本統合軍のカラーリングは、練習機が灰色やオリーブ色の単色ではあるがーー


と一人思案したところで、橘は、今朝の第一作戦室におけるミーティング内容を思い出す。


********************


AUG/21/2035 8:40 ーーAFTS第一作戦室ーー

朝食後、第一作戦室に呼び集められた訓練生は、眠そうに入室してきた髭面の体格のよい40代前半の大男に注目した。

AFTS東北方面校校長でもある日本統合軍中佐「藤堂秀和とうどうひでかず』その人である。

AFTS各校は、統合軍直下の機関ではあるが、その設立に関しては、用地取得等の問題から大規模な演習場内や直近の駐屯地に併設される方針が取られ、駐屯地司令への配慮からか、各校責任者の階級は中佐クラスの士官があてられた。

中でも、東北方面校の藤堂秀和と言えば、先の大戦においても、やれ上官をなぐっただの、命令は聞かないだの”やっかい者”として有名であった。

東北方面校の校長に就任したのも、いわゆる左遷であったと言われている。


「あーおはよう諸君。」

「えー本日の指示事項は省略。」


……いつもどおりである。


「それで、来週からの訓練についてだが、以前から話していたとおり、第9師団から訓練生が合流し、あっ喧嘩すんなよ。……で、いよいよ、最終課程に突入する。」

「そう、お前らお待ちかねの実機を用いた戦闘訓練だ。」

「そして、更にビッグニュースが一つ、なんと我が校にーー」

「ー校長、それ以上の発言権限は、現状、我々には与えられていません。」


突如、作戦室出入り口前に立っていた女性士官が、藤堂の言葉にかぶせるように発言し、機先を制した。


佐藤菫さとうすみれ少佐


東北方面校教官陣の一人であり、主に藤堂中佐の補佐役を勤めている。


栗色のシニヨンヘアー、いわゆるお団子頭に、銀縁のオーバル(楕円形)メガネが特徴で、スタイルの良さとエスっぽい印象を受ける33歳の独身ということもあり、訓練生の中にもファンは多い。


何故、こんな若年で少佐となっている優秀な士官が藤堂中佐の補佐役をやっているのか疑問ではあるが、この人がいなければ、AFTS東北方面校は藤堂中佐によりカオスと化していたのではないかと、橘は常々思っていた。


「菫君は、細かいねぇ。」


藤堂中佐が『ダメなの?』というニュアンスだろうか、首を傾げながら佐藤少佐に顔を向ける。

当然といった表情で、佐藤少佐は首を横に振った。


「……と、いうことなので、お楽しみはまた来週。本日も訓練に励みたまえ。」


そう言い残して、藤堂中佐らは作戦室から退室していく。

帰り際、藤堂中佐があさっての方向を見ながら、右手で佐藤少佐のタイトスカート越しにお尻を触ろうとして、その右手を佐藤少佐に叩き落とされるのも……いつもどおりであった。


「ゴホンッ」

 

その藤堂中佐をやや不愉快な表情とわざとらしい咳払いで見送った男が口を開いた。


「では、校長にかわり、本日の訓練日程について説明する。午前中はーー」


この男は、東北方面校副校長である「加藤省吾かとうしょうご中佐」だ。

藤堂中佐とは対照的に、厳格…いや、正確には生真面目、融通がきかないと言ったほうが正しいだろうか、ちょっと薄くなった頭頂部と黒縁メガネが特徴的な人物である。


口を開けば、まず最初に「規律」の二文字が出てくると言われている。

そんな性格もあってか、藤堂中佐とは馬が合わないようで、いつぞや酒に酔った際に「同一階級であるのに、何故自分の方が副校長なのだ」と喚き散らしたとか……。


また、朝のミーティングにおける話が長いことも訓練生の中では周知の事実であり、橘が「今日も長くなりそうだ」と思いうんざりしていると、隣に座っていた同期の男が小声で話しかけてきた。


「……なぁ、藤堂中佐が言ってたお楽しみってなんだと思う?」

「さぁな、まぁあの中佐のことだから、おそらく第9師団の訓練生に可愛い子がいるとかじゃないか?」


自分でもそりゃないだろうと思いつつ返答する。


「むしろ、阿部、お前はどう思う?」


相手の反応を待たずして、逆に、聞いてきた男…阿部に質問する。


「んー」


阿部は、右手を顎に当て考える素振りを見せる。


「そういえば、お前は空軍出だからあまり知らないかもしれないけど、藤堂中佐って大戦では名うての戦機乗りだったらしいぜ。」

「えっそうなのか?」

 

初耳だ。


「ああ、それで…ほら、上司ぶん殴ったとか結構いろんな噂あるだろう?それが理由で現場から外されてこっちに来たってわけよ。」

「なるほどね。それで?」


阿部に話の続きを促す。


「つまり、元戦機乗りがお楽しみにしていて、実機を用いた訓練期間中にお目見えになるもの…新型の戦機じゃないか?」ーー


********************


ーーひょっとすると、あの積荷が藤堂中佐の話していたお楽しみというやつだろうか。

 

橘がその考えに至ったところ、例のトラックを含む複数台の車両が車列を抜け、訓練機が格納されている第三格納庫へ向かっていく。


「……確かめてみるか。」


少し興味が沸いてきた橘は、兵舎へ帰り足となっていたその歩みを第三格納庫へと向けたのであった。


AUG/21/2035 19:05 ーーAFTS第三格納庫ーー


なんと……形容して良いのだろうか?

 

ーー桃

 

そう、大きな桃だ。

ぱっと思いついた自分の考えに、橘はおもむろに頷いた。

第三格納庫に忍び込んだ橘を待ち受けていたものは、なんと桃だったのである。


いや、正確には……当初の目的であったトラックの積荷は、その桃の奥にあるのだが……。

積荷の前に、高級そうな黒色の布に包まれた大きな桃が、その一部をよくコンビニの出入り口前に置いてあるような業務用のゴミ箱に突っ込まれた状態で鎮座していたのである。


「これは、一体?」

橘が、訝しながら近づくと、あろうことか桃が動き出した。


『んっほ、ほこにはれかんんの!?《ちょっと、そこに誰かいるの!?》』

「こいつ……動けるのか!?」

と言ったところで、ようやく人がゴミ箱に頭を突っ込んでいることに気づく。

何でこんなところに……そう思いながら、桃に声をかける。


「おーい、大丈夫か?」

『はふへなはひよ!《助けなさいよ!》』

ストッキングに包まれた桃が上下に動く。


「え、何だって!」

『はふへなはひよ!《助けなさいよ!》』

「さっ触りなさいよ?」

これは一体どういうサービスなんだ?

だがしかし、俺も男だ……誘惑には抗えない。

などと自分で弁解しつつ、両手でその大きな桃を包み込むように触れた。


あ、柔らかーー


『はに《何》しとんじゃい!!』

「ゲフンッ!?」

橘が後方に2メートル程、綺麗なアーチを描いて吹き飛んだ。

桃の先についていた足が、橘の顎を馬蹴りにしたのだ。


「あっ!抜けた!」

その衝撃でか、桃の持ち主自体もゴミ箱から脱出する事に成功したようだ。


「あいっつー」

「ちょっと!あんたーー」

橘が、痛みに悶え、蹴られたところをさすると、目の前に立って非難の声をあげようとしていた桃の持ち主が、今度は上から舞い降りてきた白い大きなカバーで隠れる。

だが、橘にとっては、最早、桃の存在などどうでもよくなっていた。

白いカバーが外れて、露わになる大型トラックの積荷ーー


純白の人型兵器

これまでに見たことのない形状と、従来の戦機に比べてひとまわり大きな体躯、


「これはーー」

「ーオリジナル」

橘の声を掻き消すように、太い声が、第三格納庫に響き渡った。

    

例えばの話だけどよ。

目が覚めたら別の人生になってたらどう思う?

そいつの人生を新たに歩むか

それとも、前の自分に戻りたいと思うか。


おれは……まだよく分からん。

でも、俺は今……ここにいる。

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