アルカナの21大英雄とテラ・テネブラエ
ひとつ問おうじゃないか。
過去の出来事を覚えているか?
両親、恋人、友人……何でもいい。
……そうか、覚えているか。
では、もうひとつ問おう。
それは、お前の本当の記憶か?
美化していないか?
自分の思い出を。
消去していないか?
自分の記憶を。
強い思いは記憶を改竄する。
こうであって欲しい。
こんなはずじゃなかった。
ああ、いや、心配しないでくれ……別に脅かすつもりは無い。
そもそも、お前にこの話をするのは何度目だったか……
では、それを踏まえたうえで、歴史の話をしようじゃないか。
21世紀初頭、中東のとある一国において内戦が拡大し、疲弊したその国家を呑み込むように国際テロ組織が新国家の樹立を宣言した。やがて、戦線は拡大し数カ国にまたぐ程勢力を増した組織に影響され、各国において無差別テロが頻発する。
テロ対策費という名目で先進国の軍事費は増大していくが、従来の機甲部隊、歩兵部隊ではテロ組織によるゲリラ戦法への対応は困難なものとなっていた。
そこで注目されたのが、医療分野で進展していた炭素繊維による人工筋肉と軍事・災害分野で発達したパワードスーツを組み合わせた
次世代兵器開発構想ーーNext Generation Weapon System
であった。
NGWSにおける要求事項は、
1 現代戦車以上若しくはそれに準ずる装甲圧
2 最大瞬間速度300㎞/h程度、最大巡航速度150㎞/h以上
3 最大航続距離1000㎞以上
4 対戦車能力の付与
5 対空能力の付与
6 兵装選択機構の採用による多用な任務への汎用性の確保
7 ステルス能力の保持
etc.
という非常に高度な要求であり、開発を急ぐ各国は、兵器開発の資金不足を解消するため、ベースとなる次世代兵器の共同開発を決定し、2025年……試作機が完成した。
同試作機は、頭、胴体、腕、脚各部を一体化せずにパーツ化することで、戦場において損傷箇所の修理、部品交換の簡略化の実現を目指し、内燃機関として小型燃料電池を採用、カーボンナノチューブを幾重にも束ねて、温度変化により収縮を可能にした強靭な人工筋肉を搭載する兵器、人型ロボット兵器となった。
先進国が有する先端技術の粋と豊富な資金を惜しみなく投入された同機は、ワンオフの先進技術実証機として極秘裏に試験運用を重ね、各試験において想定を遥かに超えた数値を記録し、その有用性を示した。
そして、次世代兵器として
ーー”戦機”『Armored Fighter』ーー
の呼称を与えられる。
2027年12月1日ーー
既に相次ぐテロ被害により世界中においてテロ国家への制裁、壊滅を求める声が大きくなっていた国際世論の支持を受けて、国連では同テロ国家の解体を決定する国際連合安全保障理事会決議が全会一致で採択される。
同年12月21日ーー
Operation 『World's Dawn』
ーー世界の夜明け作戦ーー
が実行された。
同作戦においては、従来の兵器群に加え、先の実証機を元に各国でそれぞれライセンス生産された独自の戦機が投入される。戦機は、戦車に準じる装甲に加え、ホバー機能と強力なターボ・ラムジェットエンジンによる高速、軽快な機動力により、敵対勢力の中枢部を直接叩く事を可能とした。
そして、戦機による圧倒的な侵攻力により、同作戦はわずか3日の期間で終結を迎えたのである。これは、新たな戦闘教義として提唱されることとなり、その後、この戦場において、戦機と交戦した敵兵士らが戦機乗りを
「Deamon in the filed」
と恐れ、またその戦闘を目視した国連軍側からも、優秀な戦機乗りのことを畏怖の念を込めて、彼らを
--『戦鬼』--
と呼んだ。
主要先進国及び国連による対テロ国家殲滅作戦が展開され、同戦争が終結すると、誰しもが世界に平和が訪れると期待した。
しかし…負の連鎖は止まらない。
各国の代表は、同戦争で投入された人型兵器『戦機』の戦闘力と、互いに思い知ることになったそれぞれの対立国の軍事力への脅威から、経済対策を望む民意とは裏腹に、競い合うように軍事力を拡大していく。
これにより、資本主義国家においても戦争反対などを訴える社会主義、共産主義が台頭することとなるが、その状況に危機感を抱いた資本主義国家は、共産圏国家による介入、工作が認められると批判した。
そして、共産圏国家内の反政府組織へ、戦機を始めとする兵器、武器を提供し、敵対国家を内部から崩壊させようと画策する。
……だが、その牙は自国にも剥かれることとなる。
それは、これら資本主義国家において、世界経済のグローバル化や移民政策等が実施されたことによる、自国民のアイデンティティーの喪失を危惧した急進的な民族主義を掲げる権力者、有識者、これに同調する軍隊の一部が国家による統治を批判、独立組織
◯アメリカ大陸『オクシデント』
◯ユーラシア大陸
・ヨーロッパ『ダス・ライヒ』
・中国・朝鮮半島『トライデント』
・ロシア『ネオ・ユーラシア』
◯日本『八咫烏』
◯西アジア・北アフリカ『アナトリア・アウローラ』
を立ち上げ、
2030年6月18日ーー
世界同時多発的に軍事クーデターを展開した。
国家はその存続をかけて……独立組織は民族の誇りをかけて……世界は3度目の世界大戦に突入する。
これが後の世に『テラ・テネブラエ』と呼ばれる現代における戦争の始まりだった。
この戦争は、国家×国家、国家×国民(民族)という国家間の紛争と内戦が世界規模でほぼ同時に開戦するというこれまでに類を見ない大規模な大戦となる。
しかし、幸か不幸か、自国内の反政府組織に核兵器が渡る事を恐れた先進国が、早期にこれを廃棄したため、冷戦期から危惧されていた核戦争の事態には発展しなかった。ただ、それぞれの勢力が決定打を欠き、大戦は泥沼の様相を呈していく……。
転機が訪れたのは、日本において『八咫烏』が内部分裂を起こし、その一部が国家勢力と合流、国内における一応の終結へ至ると、アメリカへの支援を開始した。やがて内戦を終えた国家が徐々に合流し、一つ一つ反政府組織を壊滅して行き、
2033年8月8日ーー
終戦へと至ったのであった。
戦後処理において、各国は自国民の支持を得るために、同世界大戦において驚異的な戦果を残した21人の戦鬼(戦機乗り)を
ーー『アルカナの21大英雄』ーー
と大々的に広報し、英雄譚として連日報道した。
「アルカナの21大英雄の活躍により、諸悪の根源であるファシズムは淘汰された。」
「世界は暗黒時代を抜け、皆で手を取り合って平和を迎える時が来た。」
何度もモニター、ラジオを通じて世界に発信されたのである。
しかしながら、世界の実情は、経済不況、貧困格差、領土問題、民族差別、宗教対立が依然として……いや、以前にも増してその存在を強く主張していた。
そして、その小さな争いの火種はゆっくりと確実に萌芽を伸ばしていたのである。
History repeats itself
歴史は繰り返す
まるで終わりの無い盤上遊戯のように……
役者が代われど、
投げられた賽の目が異なろうとも、
振り出しに戻るのだ。
さて、ようやく開演のようだ。
そう、お前の番だよ。
今回はFineまで演じきれるだろうか?
それとも、またD.C.か……