A bird of ill omen〜凶鳥〜(中)♯Kousei × Azami
Nov/3/2035 同時刻
AFTS東北方面校〜第三格納庫〜
PiーPiー
「スラーッ!巻き下げろ!」
「ブーム縮めて、オーライッ、オーライッ、そのままぁッ〜ゆっくりッ!ゆっくりだ!」
工業用クレーンが発する警告音と、整備科の隊員が張り上げた大声が第三格納庫内に響き渡っていた。
クレーンの座席で操者が指先に神経を集中させる傍らを、作業員が忙しなく駆け巡り、パワードスーツは重量のある貨物を庫内に運び入れる。
少し前まで、訓練用の二七式が収められていたはずの色気のない簡素なその格納庫は、あの日……二人の男女の出会いを見届けた後、複数台の電源車の受け入れから始まり、今では、最先端の戦機調整用機器が備えられ、整備員の休憩室として使われていた3階北端に位置する小会議室も、タワーコンピューター群で埋め尽くされるばかりか、ブルーライトを発するモニターにはグラフが走り、数値とアルファベットが躍っていて、日本国内でも有数の戦機研究施設と化していた。
そして、その様子を眼下に捉えている物言わぬ白銀の巨人――――
「ORIZIN……か。」
格納庫3階の壁際を南北に延びる格子状の足場で、目の前の手すりに上半身の体重を預けながら、第六戦機大隊所属の整備兵「四十住甲生」は目の前に佇む戦機『YAF―00 ORIZIN』の名称を呟いた。
所属違いの四十住がこの機体の整備のため招集されたのは約二か月前のことだった。
※※※※※
AUG/29/2035 18:46
日本国防陸軍大和駐屯地~第1格納庫~
「あ~成程ねぇ、ここが嚙んでベクタースラスターの稼働が鈍ってた訳ね。」
戦機の後背部、メインブースターに取り付けられた複数枚の推力偏向版を、背中に背負ったパワードアームを操って取り外し、内側に挟まっていた小さな金属片をつまみ出した。
「たっく……どんな使い方したらこうなるんだよ。下手糞かっての!」
その金属片を眺めながら、この戦機を使っていたであろうパイロットを思い浮かべ悪態をつく。
毎日のってりゃ不具合に気づきそうなものだが、機甲部隊の連中から整備班には何ら報告が入っていなかった。
今日、機体が発進する際の音を聞いて異変を感じ中を開いてみれば、ほれこの通り、案の定だ。
機体の”声”も聞けない連中が、これに乗っていると思うと先が思いやられて仕方がない。
「どれどれ、稼働テストと行きますか。」
推力偏向板を元に戻し、市販ゲーム機のコントローラーを腰のポーチから取り出して操作する。
ボタンを複数押下しスティックを動かすと、その入力によって電気信号が複雑に絡み合った複数本の配線を経て、戦機のコックピットに送信された。
”ゥイィィ………ィン”
「はい、閉じて~開いて~」
あらかじめコックピットの操縦システムを一時的にコントローラーに有線で移しておいたため、四十住がコントローラーを操作すると、推力偏向板はその操作に忠実に澱みなく、そして、艶めかしく動き有機的な動きを見せた。
「うっわぁエロッ……」
その動きに思わず四十住がそんなことを考えているとーー
「ーー甲生!どこ行ったッ!おーいッ!甲生!!」
しわがれた声が、オイルの匂いが染みついた格納庫の中に響いた。
「はぁ……おっさん!そんなに大きな声出さなくても聞こえてるっての!」
いつものように一人で、時間外に大和駐屯地の戦機格納庫内において二七式改型の整備を行っていると、聞きなれた……というよりは、聞き飽きた男性の声が聞こえてきた。
うんざりしつつも、一旦整備の手を止め応答する。
腰のハーネスに結着された懸垂降下用ロープの先を目で追うと、吊り下げられている天井が見えた。
「めんどくせぇなぁ……もうッ!」
文句を口にしながら、戦機の背中を軽く垂直に蹴る。
左手の握りを緩めロープを制動し、戦機の背中、大腿部と伝って地面に降下した。
「また勝手に整備してんのか?」
ハーネスからロープを外し、背中のパワードアームを床に下して、自分も工具箱の上に腰を下ろすと、格納庫の入り口から入ってきた四十住の上官で整備班長である「荒谷友則」が話しかける。
年齢は確か50歳になったばかりと聞いた。
白髪が混じった頭髪を代表に、見た目も声もその通りであるが……
「ちゃんと許可とってるよ!つーか調子悪くしたのはパイロット連中なんだから、俺が文句を言われる覚えはないね。」
「整備の腕に文句はねぇが、態度がなぁ……お前くらいなもんだぜ、俺にそんな口聞くの。」
「そうですか、以後気を付けます。……んで、何の用だよ?」
「全然反省してねぇな。まぁいい……まどろっこしいのは俺も嫌いだから単刀直入に聞くが、お前、その腕をもっと磨いてみたくねぇか?」
「は?」
言いながら荒谷が向かい側に胡坐をかいて腰を下ろし、右手にひっさげたビニール袋から缶コーヒーを取り出して四十住に投げ渡した。
「まぁ飲みながら聞けや。」
「……」
釈然としないまま、受け取った少し熱い缶コーヒーのプルトップを開け、口に少し含む。
「ブッ……ゲロ甘ッ」
ラベルを確認せずに飲んだため、粘度のある液体が口内にまとわりつく様に広がり、牛乳とは違う植物性由来の独特なミルク感と予想以上の甘さに思わずむせるが、荒谷はそれに構わず話を続けた。
「いや何、どうやらAFTS東北方面校に”とんでもねぇ戦機”が届いたらしい。それで整備兵の数が予定より足りないってんで上から俺に声がかかったんだが、俺もこの年だ。年寄りが一人だけ新しい知見を手に入れるよりも、未来ある若者と一緒に技術を磨いた方がいいと思ってよ。」
「ふ~ん。とんでもねぇ戦機ってなんだよ?新型?」
「逆だ逆……旧型も旧型だ。」
「旧型ぁ?二七式ならここにもあるぜ。」
「違う。それよりももっと古い奴だ。」
「はぁ?何言ってんだよ、遂にボケたのか?これより古い戦機なんて……ってオイオイッ!まさかッ!?」
「シーッ!ここじゃあ一応基地司令と俺しか知らない機密なんだからあんまり大声出すなよ。」
荒谷が慌てたように口元に指を当て、静かにしろと伝えてきた。
「……もしかして、YAF-00なのか?」
「そういうこった。どうだ?やる気出たか?」
「マジで?俺が触っていいの?」
心臓の鼓動が早くなるとともに、さっきの缶コーヒーのせいで胸やけを起こしたのか、それとも興奮しているのか、胸が途端に熱くなる。
力が漲るようだが、四肢にうまく力を伝えられず、浮足立っているというのが自分でもよくわかった。
四十住の実家は、田舎にあるような小さな自動二輪車の販売店で、小さなころから機械いじりが好きだった。
プラモデルから始まったその趣味は、いつしか本物の二足歩行兵器へと向けられることとなり、地元の中学を卒業してすぐに日本国防陸軍高等工科学校へ入校、そのまま機甲科へ進み、戦機整備の技術を学んだ。
その知識と技術の吸収力は、さながら乾いたスポンジに水を与えるようなもので、周りの同期を置き去りにメキメキと力を付け、今や整備用パワードスーツを一つ彼に与えれば、一晩でパイロットの要望通りに調整してくれると評されるほどになっており、整備班どころかパイロットにも畏怖されている荒谷も一目置く存在となっていた。
「その反応は了承したってことでよさそうだな。」
「いつから?」
「明日の午後にはあっちに行くぞ。今日の整備はここまでにしといて準備しとけ。」
「まじかまじかまじか……まじかッ!!」
「おい、少し落ち着け、コーヒーでも飲んでよ。」
「まじかぁ~ゴクッ……ゲロ甘ッ!?ってまっじかよ~」
「だめだこりゃ……さてと、俺は戻るからあと適当に片しとけよ。」
※※※※※
確か、そんな感じで連れてこられた気がするが、その後は興奮しっぱなしでよく覚えていない。
そして、目の前の此奴に触れた二か月間はあっという間に過ぎていき、現在のステージは最終調整の段階へ入っていた。
こうなると、技術屋の四十住達が機体を直接いじる工程は少なく、見るからにガリ勉野郎な研究者達による端末でのデータチェックがほとんどだった。
「おう、暇そうだな甲生。」
「ん?……おっさんこそな。」
声を発した人物に目を向けると、眠そうな表情で荒谷友則が大きく口を開けあくびをしていた。
「で、どうだった?あいつに触ってみてよ。」
そのまま四十住の隣に並び、手すりに背中を預けながら聞いてくる。
荒谷が言う”あいつ”とはYAF-00のことだろう。各国の戦機のモデルとなった実証実験機にして、現状の世界情勢ではコストや技術協力という点において再現不可能であろう世界最強の戦機……調整とは言え、それを直に触れての感想だって?
そんなのーー
「化け物だよ……こいつは。悔しいけど、こいつを設計、開発した奴らは天才……いや、変態だね。」
「ほぅ、お前が他人を認めるなんて珍しいな。今日は天変地異でも起きるかもしれんなぁ。」
「本当にどうかしているよ……一体、”何を造ろうとしていた”んだか。」
「んぁ?」
「何でもない……ただの独り言だ。」
ぼそりと呟き、四十住はソレが開発された云われを思い出す。
確か開発目的は、国際テロ組織が樹立した宗教国家の殲滅……笑わせる。本気で言っているのだろうか?
パイロットの一挙手一挙同を正確に反映するCPUは一世代前のスーパーコンピューター並みの性能を有し、複合装甲の下に束ねられた炭素繊維製の人工筋肉と、それに命令を伝える電子回路、各部位を繋ぐ人工関節と硬化骨芯……こんなのほとんど人間じゃねぇか。
明らかにオーバースペック、こんな化け物を用意せずとも、従来の装備で目的は達し得たはずだ。
なのに、何故?
圧倒的な力でねじ伏せる必要があった……いや、そうか……テロ組織の壊滅というより、人間の強欲が集まって出来てしまった”歪”を修正しようとした、と言った方が適当かも知れない。
人間は弱い。ほんの少しの気の迷いで罪を犯し、ちょっとしたストレスで心身を病む程に。
経済不況、環境汚染、食糧不足、エネルギー問題……世界的な問題は国家へ波及し、国家の問題は国民に波及する。
皆が不安を抱える中で、我が物顔で自由に突き進む連中が眩しく見える人間というのは、予想以上に多いだろう。
だから、ソレが自国の国民に伝播しないように、間違っても憧れや羨望といった感情が生まれないように、摂理から外れた者の末路として、見せつける様に全てを殲滅したのか……
「成程ねぇ……ッ」
何となく自分の中で答えが出てほくそ笑み、目の前の手すりに飛び乗って両手を腰に当てた。
視線が目の前の化け物の視線と交わる。
「おッなんだ?」
「だから、何でもねぇよっと!」
そのまま一歩踏み出し、身体を足場の外に放り投げた。
「って、ぅおいッ!?」
荒谷が慌てて手を伸ばすが空を切る。
そんな他人の心配を他所に、四十住は壁を這うダクトや倉庫内の柱、設備の出っ張りを巧みに利用して、パルクールよろしく一階までたどり着くと、五点着地で無傷のまま立ち上がった。
「ここ三階だぜ……忍者かっつーの。」
三階の手すりから身を乗り出してその様子を見守っていた荒谷があきれたように声を漏らした。
「おい、どこ行くんだよ!」
「便所だ。便所!」
荒谷を見上げて答え、少しずれたオリーブ色のキャップを直し、格納庫の裏口からこっそりと抜け出すと、AFTSの建屋に足を向けながら、四十住はぽつりと呟いた。
「ふん、人を造って、人を裁くか……神様にでもなるつもりかよ。」
そして、ふと思う。
あれを……戦機を操縦したらどんな世界が見えるのだろうか?
もし可能なら、いつか……
※※※※※
「全く……才能を持て余してんなアイツは。一整備士で終わらせるのが勿体ないくらいだぜ。」
四十住が飛び降りて格納庫から抜け出した後、荒谷はそんな言葉を口にした。
去年二十歳になったばかりの四十住は、整備の腕だけでなく、中学卒業時から仕込まれた対人戦闘技術に加え、整備に伴う動作確認を含めて戦機自体の操縦も当然、卒なくこなした。
「そうだなぁこれが終わったら、上官として一つ提案でもしてみるか。」
再度、背中を手すりに預け、格納庫の天井を見上げる。
複数配置された大型LED照明が煌々と輝いていて、思わず顔をしかめた。
”バツンッ”
「は?」
が、すぐにブレーカーが落ちる音と共に辺りが暗くなり、荒谷の視界には、フラッシュを直接見たかのように照明の残像が残っていた。
「何だ?」
「おーい!誰か非常電源持って来い!!」
階下の連中がざわざわと騒ぎ始める。
”ガコン”
すると今度は格納庫の入り口にあるシャッターが勝手に巻き上げられていき、徐々に陽光が差し込んできた。
そこに複数の人の影が映る。
おいおい……守備隊の連中は何勝手にシャッター開放してやがんだ?
機密扱いの本機の調整は対外は勿論、身内にも知る者は少ない。
格納庫の正面シャッターは、その大きさ故に、開放すると戦機の一部が外部から捉えられてしまう恐れがあり、厳に慎むよう徹底されていて、これまでに解放した例もなかった。
だから、一時的に停電したとはいえ、そのシャッターが巻き上がることなど予想もしておらず、目を疑ったのだ。
改めて、その影に視線を落とすと、複数の影が格納庫内部に入って来て、その正体が明らかになる。
「ん?あれは確か……」
何故か両腕を万歳しながら前に進む守備隊員のすぐ後ろを、整備服を押し上げるほど豊かな胸部を持った女性整備兵が歩き、それに続く様に複数の男たちが続く。
いずれも都市型迷彩色の戦闘服であったため、一目で一昨日来校したという教導隊の連中だと荒谷はあたりをつけた。
一体、何をしにーー
「聞けぇッ!貴様らは今から我々の指揮下に入る。時間はないぞ。直ちに作業に取り掛かる、少しでも遅滞するような行動を取ればーー」
「おい!何だお前たーーッ」
”パンッ”
格納庫の中にいた整備員の一人が、女性整備兵に近づき抗議の声を上げると、突如乾いた音が響いた。
何が起きたのかわからなかった。
いや、荒谷の視界には、女が右手に把持した自動式拳銃を近づいた整備員に向けており、音が響いたと同時にマズルフラッシュが銃口から噴出したのがはっきりと捉えられていた。
ただ、その予想外の事態を荒谷の脳が理解しようとしなかったのだ。
「えッ!?な、何……」
近づいていた整備員がそんな声を上げると、膝をついてゆっくりと床に倒れた。
と同時に、彼の腹部当たりから紅い液体が床ににじむように広がっていき、その時点で”撃たれた”という事実が認識できた。荒谷だけでなく、格納庫にいた全員に。
「うわッ!!?」
「なな、何をッ!?」
「ーー静まれッ!」
一喝、女の発する高音が再度響き渡ると、皆が声を発するのを止め、静寂が訪れる。
その様子を見届けて、女はゆっくりと口を開き、説明を始めた。
「いいか!これから我々の指示に従い、YAF-00 ORIZINの最終調整を行う。余計な口出しはするな。作業員が減るのは、こちらとしても好ましくない。なぁに、心配するな。全てが終われば無事に解放しよう。貴様らの命など、別に欲しくもないないのだから……よし、貴様!まずはここにいるスタッフ全員を一階に集めろ指示を行う。」
「え、あああの」
「返事はッ!」
「はあは、はいッ!」
指をさされた一名が慌てたように動き出し、後方に控えていた都市型迷彩服の連中も89式小銃を携え、施設内に入り各部屋を点検、整備員や研究者を引っ張り出し、それぞれが一階に集まっていく。
「おいおい、何がどうなってんだよ……」
その様子を三階から見下ろしていた荒谷は外部と連絡を取ろうと、携帯端末を懐から取り出すがーー
OFFLINE
電波状況が悪いのか、アンテナ表示が通信不可を示していた。
便所に行くと言って先ほど出て行った四十住の事が脳裏によぎる。
チッ……甲生、戻ってくるなよ……
※※※※※
「ふぅ……」
ため息を吐いたその人物は、右手に握った自動小銃を腰の拳銃ホルスターに収め、空いた左手で頭に被ったキャップの鍔をつかみ、それを脱ぐ。
顕わになった頭髪はナチュラルな青みがかった黒髪。
後ろで一つに束ねられ綺麗なポニーテールを形成していたが、キャップを脱ぐとすぐさまその結びを解き、乱れた髪を直すため頭を左右に軽く振って、手ぐしで前髪を掻きあげ視線を前方へ向けた。
「ようやくここまで来たか……」
視線の先、駐機状態でそびえ立つ戦機「YAF-00 ORIZIN」を見上げながら、整備兵用の都市型迷彩服を着こむその女が呟く。
そして、上着のジッパーをへその辺りまで下ろすと、窮屈そうにしていた胸部が体温で暖まった温い空気とともに開放され軽く上下にたわんだ。
女は、その胸元に収められていたやや歪んだ円柱状のロケットペンダントに視線を落とした。
真鍮製だろうか、鈍い黄金色を放つソレは、少し遊ぶように胸元で弾むと細い彼女の手のひらに収まり力強く握りこまれる。
すると――
「――恐れているのか、アザミ。」
背後から何者かに声をかけられたその女――「祭アザミ」は、鋭い視線を後方に放った。
切れ長の目が声の主を捉え、濃紺の瞳が照明を碧く照り返す。
「黙れ”夜鴉”、私を侮辱するという事は、父を侮辱することと同じと知れ!」
「おっと、これは失礼……撤回しよう。」
おどけたように両手を挙げたのは、アザミと同じ迷彩服を着込み、89式小銃を携えた男だ。
ほくそ笑むように口元をゆがめるその表情からは、恐れも驚きも、何の感情すら読み取れず、浮かべる笑みも作ったような印象が強くて気味が悪い。
アザミはこの男が苦手だった。
男が続ける。
「争い事は好きじゃないんだ。それに祭教授を侮辱するなんてトンデモナイ。」
「ふんッどこまで本音なんだか……今度こそ成し遂げるッ!父の、我々の悲願を果たすのだ。」
小さくも力強い声色で、己に言い聞かせるように言葉を発すると、これまでの記憶が走馬灯のように走った。
第三次世界大戦時の計画中止から早5年、多くの同胞を失い、そして英雄が散っていった。
私の父、祭真彦も同じく、夢半ばで散っていった。
神童とも謳われ、戦機開発の第一人者としてYAF-00を構想した人物の一人……そして、その遺志を継ぐ私が今度はやり遂げて見せる……民をこの世界の束縛から解放し、世界を統一する。
それが、それこそが我々アルカナの使者が果たすべき使命なのだ。
振り返り、教導隊関係者を扮したアルカナを構成する一柱”八咫烏”の面々を見据えた。
一昨日、戦機のパーツ群とともに大型トラックの中に息を潜め、AFTS東北方面校に侵入した連中だ。
ここにいない一部の隊員は、今頃AFTSのほとんどを制圧しているだろう。
そして、アザミの行動に呼応するかのように、八咫烏のそれぞれがアザミに正対する。
彼らを視界にとらえるとアザミが口を開いた――
「時は来たッ!!今ここに、我々の本懐を遂げようではないか!全てを壊し、全てを望め!神を討ち、世界をこの手に!!」
「「世界をこの手に!」」
古の時代、神に裁かれ、純白だったその身を、漆黒に焼かれし鴉達の叫びが、その場に響き渡っていた。




