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独立不羈の凱歌を〜号哭の戦鬼達へ〜  作者: kinoe
First Act〜歌を忘れた落烏と歌謡いの少女〜
2/27

Curtain Fall〜D.C《ダ・カーポ》〜

この小説はフィクションです。

登場する国家、個人は架空のものであり、いかなる国家、宗教その他主義主張を否定するものではありません。

Dec/24/20XX ー某所ー


……Here we stand ……♪

in the heavy rainy day.

Now is the Time for Shout……♪


 ……歌が聞こえる。

 何度も聞いた……あいつの歌が……響いている。


「……zzi……もうしまいだ。」


 男は自身が搭乗する機体のコックピットに設けられた無線通話装置から流れる聴きなれた女性の歌声に耳を傾けながら、静かに言い放った。外部スピーカーを介して男の音声がその場に響き渡る。

 そして、そこに舞う幾つもの重金属を含む砂塵は、その振動に揺られ、キラキラと周囲の光源から差し込む光を反射させた。


 見渡す限り損壊あるいは崩落したビル群と、スクラップと化した燃え盛る車両などの瓦礫で埋め尽くされ、瓦礫が焼け焦げる匂いと硝煙の匂いがたちこめる荒廃した都市。

 モノクロの世界に焔の紅い輝きが色を与え、風に揺られる曼珠沙華のようにユラユラと形を変えた。それこそ、これまでの戦いで散っていった英雄達の亡霊を慰めるが如く、それらは静かに燃ゆる。


 そこにーー2機の人型兵器が対峙していた。


 いずれも、ビルの三階部分を超える10m級の体躯。砂塵で汚れ、所々ひび割れたビルのガラス達は、そんな見慣れない鉄の巨人を何者かと、己の身体に写し取る。そして、砂塵が、不意に走った一陣の風で容易にかき消えた。露わになる二機の戦機。


 一方は白を基調とした純白の機体。

 相対するは影のように漆黒の機体。


「……何故だ?」

どちらかの機体から、怒りを、憤りを込めた男の声が響き渡る。と同時に、双方の搭乗者は自機のメインカメラが捉えた敵機の姿をHMDを介して知覚していた。


「何故、運命シナリオに抗うのだ!?」

「簡単な答えだ……つまらねぇんだよ。あんたらのシナリオは。」

「ふざけたことをッ! 我々の、我々が創りだす世界がーーこんな終わり方をするはずがないッ!!」

一方の男が咆哮する。それに呼応するかのように、周囲の火種は風がもたらした酸素を貪り、一際大きく燃え上がった。


 その男が感情的になったのは、自身の考えを否定されたからだろうか、それともこれから辿り行く運命を悟った己の思考を否定するためだろうか?


「いいや、もう終幕カーテンフォールだ。あんたのシナリオは脇役おれのアドリブで台無しになるんだ。」

そんな彼に対し、相手の男が言い放った。もう終わりなんだと、もうこのシナリオは書き直せないーーいや、書きなおす必要が無いのだと諭す。


 だがーー


 2機の人型兵器が、ほぼ同時に向かい合う相手に対し武器を構えた。大口径のそれは、容赦なく相手の命を刈り取る無慈悲な兵器。それはつまり…もう話し合いで和解できるような簡単な問題ではないのだということを示していた。

 無論、最初から諭す事など出来ないと男にもわかっていたであろう。もし、それが出来るのであれば、とっくにこんな悲劇は終焉を迎えていたはずだった。未だ煌めく紅葉色の火の粉が、その銃器をゆらゆらと照らす。


「まだだ……まだ終わりじゃない! 翼の折れた烏ごときがッ……我々の邪魔をするなァッ!!」

「zzi……始めようじゃないか……最後の一幕を。」

それが、交戦開始の合図だった。


 二機の戦機は、機体上方に位置するエアインテークから、全てを喰い尽くす勢いで周囲の空気を一気に機体内部に取り込む。吸気音が唸るように響き、脚部下方から圧縮された空気の層が大地と機体の狭間に叩き込まれた。


 戦機は重力に逆らい、数十トンはある機体からだを中に浮かせ、機体の心臓部でもあるパワーパックは、小型燃料電池の高鳴る律動を受け、戦機の全身に血液を流すようにオイルを巡らせる。特殊鋼と強化セラミックを重ねた複合装甲の内側で、幾重にも束ねられた炭素繊維製の人工筋肉は、電気信号による温度変化、つまり”動け”という収縮命令を、今か今かと待ちわびていた。


「……行こうか。」

男の声。コックピット内に木霊したその言葉は、己を鼓舞するためのものか、はたまた、此処にはいない誰かの為か。


 男が両の手に把持したサイドスティックを操作すると、後背部のメインスラスターが煌めく。取り込まれた空気が圧縮機を経由し、タービンを高速回転させると、ターボラムジェットエンジンは喜びに打ち震えて、灼熱の吐息を吹き出した。


 時が動く


 強力な推進力を得て、双方の戦機が急速に接近する。目の前の景色は、瞬きの合間に機体後方にぶっ飛び、次の瞬間には、無数に撃ち放たれた砲弾が眼前にあった。二人は互いが撃ち放つ攻撃を、回避プログラムのアシストを受けながら、致命的な損害となる攻撃だけを辛うじて避けて、なおも接近する。


 容赦ない暴力の応酬

 相手の命を刈り取らんとするそれは、幾条もの火線と閃光、爆発を生みながら破壊の限りを尽くした。


 これまで……

 多くの幸せが潰されてきた。

 多くの人々が涙をながした。

 多くの生命いのちが奪われてきた。


 信ずるものを護る為に。

 愛するものを護る為に。

 それぞれがおのが正義を懸けて争い、そして、悲劇は演じられ繰り返されてきた。


 それを終わらせるために、彼は全てを治める”力”を求めた。

 対する彼は、その”運命”に抗う為に、折れた翼で再び空を目指した。


 荒廃した都市に純白と漆黒の残像を残して……二人は最後の一幕を演じる。


There Are No Encore's.

So, Don't Close You'r Eye's

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