Engage In Battle With Unknown~未知との遭遇~
トライアドの機甲大隊を壊滅させた方小敏「ファン・シャオミン」は、第三勢力…日本統合軍から狙撃を受ける。
四機の日本統合軍機に急迫するダーフェン、果たして彼らはファン・シャオミンにどう立ち向かうのか?
ーーイイィィィンン………
鋼鉄製のハンマーで金属の塊を力強く叩きつけたような甲高くも鈍い音が、中国大陸は華北平原上に響き渡った。
その音源は、金属の塊を真っ直ぐに、ただただ真っ直ぐに飛ばす為だけに存在していた。
AS25Mk2ーJIU「慈雨」
日本国内に所在する軍事企業「雨澤工業《AMASAWA・INDUSTRY》」が製造した対戦機ライフルの一つである。
射出される110mmAP弾の速度は秒速1,700mを優に超え、何ら対策の施されていない装甲であれば、接触時の衝撃波により巨大な穿孔を開けられることとなる。
ひと仕事終えたソレは、射出後の弾の行方など俺には関係ないといった調子で、弾体射出時の衝撃を身体で受け止めると、その衝撃を折り畳み式のバイポッドを介して大地へ伝えた。
そして、自身を取り扱う射手の操作により、銃身の中程からキンッと甲高い金属音を立てて、薬莢を排出する。
その振動を受け、震えた大地は、大戦以前は黄河から運ばれる恵みにより肥沃な土地として有名であり、田畑として利用され、人々の暮らしを支えた。
季節が季節なら、青々とした木々や草花が見事な景観を見せてくれたであろうが、季節は冬季に入りそれらはすべて茶色くしなびれている。
そんな大地に出来た窪みの影に、その射手は身を隠していた。
『ようしっ!今日の仕事終了ぅ!帰って糞して寝ようぜ。みんな!!』
射撃の様子を見守っていたダークグレーの戦機から、陽気な…というよりはおちゃらけた声が発せられる。
その場では、隠密性を高めるため無線通信ではなく、あえて外部スピカーによる交信が選択されていたのだ。
そして、その戦機こそ、日本統合軍が擁する主力戦機の一つーーAF-JYS30E、またの名を…
三○式機甲戦闘車「夜桜」
と呼んだ。
日本国内での運用も視野に入れられたその機体は、中型機に分類されるものの、他国に比べ小型ではあった。
しかし、その軽量さを生かした軽快な運動性と静粛性は非常に優れており、斥候、偵察、急襲任務を得意としている。
特にこの「E型」は、電子戦能力を付与されており、夜間戦闘となれば対峙した者にとって、その脅威度は計り知れない。
その機体が4機、そこにあった。
『……ダメです。』
「慈雨」を伏せ撃ち、いわゆるブローンで構え、標的を見据えていた射撃手である夜桜のパイロットが、先の隊長機に言い放った。
『へっ?』
『目標…破壊できず。驚いた…アレを避けるなんて…!?』
『おいおい菫君、冗談は…って、マジで言ってんの?』
『直前で躱されました。なんて反応速度なの…目が横にも付いてるみたいだわ。』
『またまた~。慈悲なき二夜草「An Immovable Violet」の異名を持つ佐藤菫君ともあろう者がーー』
『はぁ、完全に私のことおちょくってますね…疑うのならご自身で確かめてみては?藤堂隊長。』
依然、おちゃらけた調子の部隊長「藤堂秀和」に対して、二番機の印を刻んだ夜桜に乗る狙撃手「佐藤菫」が非難も含めて進言する。
その機体には、伏せ撃ち時の衝撃吸収と自機の損傷防止の為、強化シリコン製のエルボー・ニーパッドが装着され、右肩部には慈雨専用の射撃マウントが取り付けられており、自身の名前でもある菫の花…別名『二夜草』のエンブレムが確認できた。
『どれどれっと…』
藤堂が、自身の機体を操る。
片膝立ちの夜桜が、人間のように右手を額に当て覗くように遠くを見るポーズをとる。
そもそも、そんな態勢をとらなくても、メインカメラの倍率を上げるだけで遠方を捉えることは可能であるが、こういった余計な事をするということが、藤堂秀和という男のふざけた性格を表していた。
『おっと…。』
『どうしました?』
『あ〜目があっちまった…見つかったかもーー』
Ti…Ti…TiTiTiーー
藤堂の言葉を遮るように、レーダー照射警告を知らせるトーン信号が各機のコックピット内で鳴る。
『ECM無効化されました!うっ…ア、アンノウン、こちらに来ます!!』
『は…速いッ!』
『会敵までおよそ120秒…まだ縮みます!』
周辺警戒のため、後方に控えていた四番機が焦った声を出す。
『地面効果翼…新型なら当然かもしれませんが、何故あの技術がトライアドに?』
冷静に分析する二番機の菫が言うように、こちらへ向かう未確認機の両端には短い翼が確認できた。
地面効果、あるいは表面効果とも称されるが、平坦な地表面を飛行する際に生じる現象であり、それにより両翼に発生する揚力が増大するのだ。
海鳥やトビウオなどがこの地面効果を用いて滑空していると言われており、この原理を用いた地面効果翼は、戦機に巡航速度と燃費の向上をもたらした。
『あちゃー、仕方ない…俺が相手をするかぁ〜。』
『そ、そんなッ!』
近接信管作動タイプの対戦車ミサイルを後背部に装備した三番機のパイロットが、やや大袈裟な様子で声をあげる。
『いくら隊長といえども、たった一人であいつの相手を出来る訳がーー』
『馬鹿野郎ッ!!ーーそれでも、それでも漢にはやらなきゃいけねぇ時があるんだよ。…分かったらお前達は、俺に構わず先に行けぇッ!』
藤堂が咆哮する。
『隊長おぉーッ!』
『…はいっストップ!二人とも三文芝居は後にしてください。伊勢中尉は、隊長の悪ふざけに付き合わないように。』
菫が、藤堂と三番機のパイロット「伊勢義憲」中尉をたしなめるように苦言を呈する。
『なんだよーいいところなのに…なぁ?』
『今のは熱かったっすね!アカデミー賞もんですよ。』
『馬鹿を言わないで…エミー賞も取れませんよ。あんな程度の低い田舎小学校の学芸会みたいな芋芝居では。』
『うわっ出た!?菫君の毒舌。』
『あ〜これは本気で怒った時のやつですね。…で、そろそろ妙案は浮かびましたか?藤堂隊長。』
『う~んそうさなぁ…うしっ、やはり俺が迎撃に出よう。菫、伊勢両名は俺の援護、四番機、高橋は…今から無線封鎖を解除するから、司令室とのやりとりまかせるわ。あっあと交戦データの収集頼むぞ。』
『は、はい!』
四番機の「高橋幸宏」少尉が応答する。
うわずった声が彼の緊張を表していた。
『ハウンドからHQ』
藤堂が無線封鎖を解除し、司令部へ無線を飛ばす。
『ハウンドからHQ、応答願う。』
『こちらHQ、どうーーあっ、ザザッ……貸せッ!!』
『ハウンドッ!!いや藤堂!貴様ッ今までどこで何をやっていたんだ!!?勝手に無線封鎖などしおって!!』
連隊本部の無線担当官から無理やり無線機を奪ったのだろうか?
キーキーと連隊指揮官である大佐の声が響いた。
『あ~こちらは、予定通り台湾軍の機動部隊と合流後これを退避させ、先程までトライアド迎撃部隊偵察のため、無線封鎖を実行しておりました。どうぞ。』
『だ・か・ら!!今は何をしとるんだと聞いとるんだ!!』
『現在、所属不明機と交戦中。なお、トライアドの迎撃部隊…一個大隊は同所属不明機により壊滅状況。ど〜ぞ。』
『なッ壊滅?…いやいや、交戦だと!?貴様何の権限でーー』
『あー脅威対象急速接近中。これより”自己防衛”のため迎撃行動に移行する。』
『あっおい!コラッ、待てーー』
『以後、ハウンドへのコンタクトは四番機が応対する。通信終わり。』
藤堂が無線通話一方的に終える。
『隊長、要迎撃行動距離まで残り90秒です。』
『おし、じゃあ後は手筈通りに頼むぜ。』
今まさに迫る脅威に対して、少しの焦りも見せず、藤堂は自身が率いる隊員にそう告げた。
そして、コックピットの中で一人ポツリと呟やく。
「まぁ、生きて帰れるかは分からんがな…」
それは、彼が不安から発した言葉ではなかった。
戦機を含むトライアドの機甲大隊をたった一機で壊滅させた所属不明機との交戦を、脳内で何度もシュミレートし導かれた結果であった。
藤堂は、フゥッと一気に短く息を吐くとマニュアル操作で、夜桜を臨戦態勢へ移行させる。
一括して全自動音声入力も可能ではあるが、藤堂はいつもマニュアル入力に拘っていた。
”俺がお前を動かしてやる”そんな気持ちを意思持たぬ金属の塊に言い聞かせるように…。
「通信、巡航システム、IFF異常なし、各種推進システム可動良好、モードシフト:アンブッシュ、各武装リンク完了、使用許可申請、CODE2983…」
『あれっ…俺のコードなんぼだっけ?』
『えぇっ!?普通忘れます?』
伊勢が素っ頓狂な声で思わず質問する。
『29830065です。そもそも…最初から武装の使用申請は完了しておいてください。隊長。』
菫がコードを教えるついでに、きつい物言いで言い放った。
『すまんすまん。菫君が一撃で仕留めてくれると思ってたからさ~』
『むっ…それは責任転嫁です。』
『冗談、冗談。あっあと高橋、”これ”借りるぜ。』
『弾除け…ですか?了解です。』
そういって、藤堂は四番機が携行してきたデフレクター、いわゆる追加装甲の一種を受け取った。
それは、機体のポイントに結着することで任意の場所に増装することができるもので、四番機の高橋が念のため携行してきたものであった。
藤堂はそれを自身の機体の左手甲部に結着する。
「CODE29830065、マスター:藤堂秀和。』
『CODE確認。搭乗者:藤堂秀和…申請承認。』
「いくぞ…気張れよぉポンコツ。」
そう言って、藤堂は自身の胸を左拳で叩く。
すると、それに応えるように夜桜も自身の胸部装甲を左腕部でコツンと叩いた。
藤堂は、夜桜を中腰姿勢で、左前構えに構えると、脚部の防御壁を展開させる。
左腕部のデフレクターと左脛部のシールドで、正面から見ると、夜桜の全身がすっぽりと覆い隠される。
そして、右腕部に携行された40mm徹甲弾を射出するライフル「RM-9」の射出口をデフレクターのライフルポイントから覗かせて固定した。
『アンノウンさらに接近…残り60秒、UAV射出します。』
高橋の夜桜から一機のドローンが射出され、上空に飛行し、そのドローンが俯瞰カメラで自機の下方を捉えた。
その映像がドローンを介して、高橋が搭乗する夜桜のコックピット前面モニターに映し出される。
そこには、中腰姿勢のままホバー機能により浮遊し、メインブースターの推進力を受けて、急速に前進する藤堂機が捉えられていた。
その対向位置には、砂煙を巻き上げて直進するアンノウンが遠方に見える。
『ハウンド3、MLM,lounch!』
伊勢の機体から四発の中距離ミサイルがボッボッと鈍い音をたてて射出された。
それらは噴射剤の推進力を受けて、地表面を這うように飛行し、先行していた藤堂機の頭上を苦もなく過ぎ去ると、アンノウンめがけて鋭く飛んでいく。
続けざまに、今度は甲高くも鈍い音が連発して響き渡る。
二番機の菫機が中腰姿勢で慈雨をマウントし、アンノウンを狙い定め110mmAp弾を連射していた。
すると、直進していたアンノウンの機動が突如右手へスライドする。
遅れて、その軌跡を追うように地表面がえぐれてはじけとび、土砂が舞った。
「やはり、当たりませんか。」
菫が射出した弾丸の軌道を読んだアンノウンがそれを避け、逸れた弾が地面に突き刺さったのだ。
だが、休むまもなく四発の中距離ミサイルがアンノウンめがけ襲いかかる。
ミサイルの接近を感知したアンノウンは、ガトリング砲をミサイルの接近方向に向け放つ、短い音を伴い、多数の弾丸が射出され、飛翔するミサイルと交差する。
爆音
赤黒い爆炎がアンノウンの前方で生じる。
ガトリング砲の弾丸が中距離ミサイルを貫いた結果、目標を捉えることなくそれらが爆発したのだ。
だが、その爆炎を突き抜けて二発のミサイルがポップアップし、軌道を変えた。
そして、未だ地表面を飛行するアンノウンめがけてトップアタックを敢行する。
これも予期していたのか、一切のよどみなくミサイルを捉えたアンノウンは、再びガトリング砲を上空に向け構えた
Mubo…
発射音が響く…
ガトリング砲から延びる火線がミサイルへ迫った。
交差するミサイルと複数の火線。
しかし、先ほどの様に爆発は起こらず、ミサイルはアンノウンへ到達する。
”轟”
信管が作動したミサイルは周囲の空気を取り込み一気に爆発する。
赤黒い爆炎が白黒のアンノウンを包み込む、その爆発による衝撃波で周囲の空間が歪み、枯れた背丈の高い雑草が熱い空気を受けその先端を燃した。
爆発に包まれる直前、煌く閃光の中で、アンノウンは自機の右方向を睨みつけていた。
その視線の先には、中腰姿勢で対戦機用のライフルを構える藤堂機が対峙していた。
そして、そのライフル、RM-9の射出口からは、40mm徹甲弾射出時の摩擦熱により微かな煙が上がっている。
『いやぁっほッ~!』
伊勢が雄叫びを挙げた。
『今の俺の手柄ですよね?隊長!』
『いえ、今のは隊長のアシストがなければ当たっていませんでした。ですからカウントは0です。』
『えぇッ~!?』
『さすがっ見てるねぇ~。俺のスマートな射撃で、アンノウンの腕をずらしていなかったら、奴にとっては、伊勢のミサイルなんか小便みたいなもんだったろうぜ。』
『よりによって小便って、ひどくないですか!?』
藤堂は、アンノウンがガトリング砲を放つ寸前、その右腕にRM-9をバースト射撃して40mm徹甲弾を命中させていた。
それにより、伊勢のミサイルが迎撃されることなく目標を捉えたのだ。
「すごいッ…これが実戦!」
その様子をドローンを介して捉えていた高橋が感嘆の声を挙げる。
『隊長!すごいです。大した作戦もなく、あんな適当な命令でここまでの連携がとれるなんてッ!!』
『ん?んっ~?それは誉められてんの…ーーッ!!?』
MuBooooo---
連続した衝撃が藤堂機を襲った。
オートバランサーが機能していても、コックピットが揺れるほどの衝撃、そして、聞き覚えのある鈍い音
幸い、先の構えのままだったため、藤堂の機体自体には大きなダメージがなかったが、左腕のデフレクターがひしゃげていた。
爆炎の中から青白い閃光を纏って白黒のアンノウンがゆっくりと現れる。
既に、地面効果翼は折りたたまれ、戦闘形態へと移行していた。
そして、藤堂機に向けガトリング砲を放つ。
『まじかよッ』
言いながら、藤堂が補助ブースターを起動させ、夜桜を右方向にスライドさせる。
一瞬遅れて、その位置を多数の劣化ウラン弾が襲った。
『無傷…って訳でもなさそうだが、大した損害が確認できんな。どうなってんだぁ?』
ライフルで応戦しながら、藤堂は疑問を口にする。
『で、電磁装甲です!!アンノウンの周囲に高度の電気エネルギーが確認できます!』
ドローンでデータ収集していた高橋が叫んだ。
「電磁装甲かッ!」
藤堂が珍しく思考を巡らせる。
確か…大電流を蓄えたコンデンサからの放電によって、敵弾を流体化・気化させる技術だったな。
主装甲の外部に設置された特殊装甲、これらの間に数千ボルトの電圧をかけ、導電性の敵弾が貫通した瞬間に特殊装甲の間をショートさせることで回路が閉じられ、数千アンペアの大電流によって敵の弾芯や貫徹体をジュール熱によって溶かし、気化させたり、その放電により生じる電磁場で敵弾に横方向の力を与え逸らさせることができるはず…。
ということは…だ。
『よし、イチかバチかだ!』
『隊長!一体何を?』
『菫!伊勢!俺が合図したら、”俺を撃て”』
『なッ何を言ってるんですか?』
菫が声をあげた。
『言いから言う通りにしろ!…俺の二つ名忘れた訳じゃないだろう?』
ここでまさかの若き藤堂秀和中佐と佐藤菫少佐が搭乗!!
主人公…交替なのか!?
次回!藤堂秀和の二つ名が明らかに!!
戦えるおっさん…作者は大好物ですよ!




