Deep Blue Drive 〜碧の衝動〜(下)#Someone's Side
Feb/12/2034 11:26
ーー中国大陸・山東省西部~華北平原上空ーー
『こちらNo.13、ポイントOM85PMへ到達、UNF(国連軍)、トライアド両陣営の交戦を確認』
およそ感情のこもっていない機械的な声が、レーダー上で捉えた華北平原上空の状況を何処かに知らせる。
若い男の声だ。
『確認した。間もなく地上部隊も交戦となる。余計な事は考えるな。我らの正義のために、貴様は舞台だけ整えろ。』
『…了解。HPMM(High-Power Micro Missile )発射準備完了…状況開始。』
無線交信が終わる。
と同時に、パイロットは右手で把持したサイドスティックのミサイル発射ボタンを親指で押下する。
漆黒に塗装された戦闘機の胴体下部に設けられたウェポンベイが開き、そこに収められた一発のミサイルが前方に射出された。
ミサイルは、白い噴煙を残して飛翔していく。
パイロットは、サイドスティックを引き機首を上空に向け、スロットルレバーを思い切り手前に引いた。
ドンッと背中がコックピットに押し付けられる。
前進翼が目立つその機体は、アフターバーナーに点火した双発の強力なエンジンによる推力を得て、太陽めがけて急上昇を開始する。
コックピット内のスクリーンに表示された高度計の数値が目に捉えられない速さで増加していく。
あらかじめ予定されていた高度へ達すると、パイロットは、マイナスGがかからないように左ロールで一回転し、機体を水平飛行へと移行させた。
左ロールの途中、機体とともにコックピットの中で逆さまになったパイロットの眼下では、先ほど射出したミサイルが予定空域に到達し、弾頭の信管が作動、炸裂した。
パイロットがHPMMと呼んだそのミサイルは、炸裂する際に磁性体をいくつも放出し、あらかじめコイル状に巻かれていた特殊な金属の中を通過する。
それは、磁性体が高速でコイルを通過することで、強力なマイクロウェーブを発生させることができるEMP兵器であった。
弾頭の炸裂とともに青白い閃光が瞬くと、大きな火球がまるで太陽のように大気中に生じ、そこを中心に強力なマイクロウェーブが半径約5~10キロの範囲に放出された。
当然のごとく、人間の目ではマイクロウェーブなど捉えられない。
しかしながら、その範囲内に存在する兵器類はそれの影響をモロに受けた。
電子機器が悲鳴をあげ、その機能の大半を喪失する。
やがて、火球が消失する頃、その戦闘機のパイロットは、コックピットのタッチパネルを操作し、兵装を変換すると再度ミサイル発射ボタンを押した。
ウェポンベイからミサイル様の筒が射出されるが、先程より一回り大きなサイズである。
胴体から切り離されたソレは、折りたたまれていた翼を展開すると、自動航行モードに移行し、先程の火球の消失地点へ滑空していく。
それは、ジャマーポッドを搭載したUAVであった。
正常にUAVが起動するのを確認したパイロットは、レーダー、無線などアビオニクスの支援を失い、混乱する戦闘機の編隊を視界に捉える。
そして、太陽を背にして、まるで獲物を見つけた猛禽のように、一切の無駄なく急降下の態勢に入ると、酸素マスクの中で一人つぶやいた。
「正義か…便利な言葉だ。」
漆黒の機体に描かれたエンブレムが日光の光を浴びてキラリと光った。




