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第七話 異世界の強敵 ドラゴンと魔族7

 少し時間は遡る。真っ青な空に、白い雲が流れていく。自身の視界に入ったそれはグングンと凄い速度で離れていった。いや違う。自分が寝転がる様に仰向けになって下に落ちているのだ。そうヒーロースーツの中で思った瞬間、大地の意識は回復した。


「…どわぁぁあああああぁっ!!」


 追い風の様に下から吹き付ける風は、何て事は無い。自分が落ちているから空気の層にぶつかりに行っているだけだ。


 ヒーロースーツはそれこそ災害救助用に作られただけはあって、衝撃を完全に殺してしまう。


 試した事はないそうだが、理論上は大気圏からパラシュート無しのスカイダイビングをしても無事に降りて来れるらしい。改めて言おう。試した事は無い。


 そんな話を聞いていただけに、結構な高さと判るが、命の心配はしていない、何処か冷静な自分が居る事に驚く大地。


 確かに命の心配はしなくてもいいのだろう。自身がヒーロースーツを着ているのを確認出来たのだから。


 だが、高所から見下ろした豆粒みたいな大地に、グングンと近付く感覚だけは慣れない。背中に冷やりとする嫌な汗を掻く。ジェットコースターの頂上から落ちる感覚と言えば良いのだろうか。知り合いのある人はそれが良いと言うのだが、大地はそれが共感出来なかった。


「だ、大丈夫なんだろうなぁっ!!」


 地面に衝突する寸前、気合を入れる為にも一度大きく叫んだ大地は、盛大に地面にぶつかった。土埃が舞いあがり、視界を覆い隠す。巨大なクレーターが、大地が落ちた場所を中心にして出来上がった。


 地面の様子に唖然とする大地。大地には衝撃一つ、いや何かが当たったという感触はあったが、それでも目の前の現象を起こした衝撃の大半は何処かに行ってしまったらしい。


「うわぁぁ…。大丈夫だと思ったが、二度とやりたくねぇな。」


 スーツを解いた大地は自身の起こした現象に思わず引いて、よく自分はこれで大丈夫だと思ったもんだと顔を青くする。そして、冷静な頭は回転しだした。曰く、此処は何処だと。


「ふぅむ、変なもんが落ちてきよったわと思えば、唯の精霊種か。」


「あん?…なぁ、爺さんはこの辺の者か?」


 だがその場を動かない大地に後方から声を掛けられた。声の方を向けば、其処には黒い、いや光の加減では濃い緑色に見える、貫頭衣だろうか。RPG等ではマントと呼ばれる物だろうか。を着た老人が立っていた。


 その老人に道を尋ねようと、声を掛ける大地。少なくとも、この場所が気になって、というか大地が起こした現象を確認しに来たのなら、人通りのある大きな道へと出るルートを知っている公算が大きかったからなのだが…。


「ふぇっ、ふぇっ、笑わしてくれる。儂ゃ、魔族じゃよ。」


「あん?魔族?何だそりゃ。つうか、ここが何処だか教えてくれよ。」


 大地の何がおかしかったのだろう。カラカラと笑った老人は大地を睨みつけるように見ては自身が魔族というものだと答えた。ここが何処だか知らない大地は、組合か極道かと思い込み、その程度なら如何とでもなると考えて、改めて道を尋ねた。


「ふむ?…時間が無いし、かまっておる場合ではないしの。」


 老人は大地の反応に頭を掲げる。自分から魔族と名乗り、それに相応しい魔力も放出しているというのに、目の前の精霊種は慌てる素振りを見せる所か、堂々とこちらを見据えてくる。


 研究対象として観察、解剖してみたいが、今は色々と不味い。本来の獲物に逃げられては、癖の強い仲間に何を言われるか分かったもんじゃない。仕方ないと溜息を一つ吐き、空へと浮かび上がった。


「な、なんじゃそらぁっ!?」


「お主、助かったの。今回は見逃してやるから、さっさと去ね。」


 老人が浮かび上がった事に仰天する大地。老人は手をシッシッとやって大地に言葉を投げかけ、山が見える方へと飛び去ってしまった。


「あっ…。」


 そこで大地は気付く。老人がいきなり宙に浮かび上がった事で忘れていたが、此処が何処なのか、今自分が立っている場所の事も、どの方向に道があるのかも教えて貰ってない事を。慌てて大地は草木を掻き分け、老人を追いかけるのであった。


「なっ!?」


 宙を飛ぶ老人と、草木が生い茂る地上を行く大地。当然進む速度に差が出来てしまい、老人を見失わなかっただけでも大変な作業であった。その老人が止まる。少し距離が離されていたが、それでも必死に追いつこうとして、足元が突然揺れバランスを崩し尻餅を付いてしまった。


 大地が慌てて立ち上がり、老人の足元にはトラックぐらいはあるだろうか。巨大な陸亀が居たのだ。陸亀は甲羅に引っ込む事をせずに、四肢で踏ん張り、唯一引っ込めている顔は少しだけ甲羅から出て、老人の方を睨んでいる。


 大地はその陸亀の巨大さに驚きの声を上げてしまった。


「ほっ?…ふむ、付いてきたのか?」


 大地が上げてしまった声に、老人が大地の存在に気付いた。瞬間、巨大な陸亀が老人に向かって岩を吐きだしたのだ。


「むっ、まだ抵抗するのか。さっさと死ねばいいものを。」


「おいこら爺っ!!生きてる奴にそんな事言うなよっ!!」


 その岩は老人に届く事無く、遥か手前で砂に砕けていく。だが、大地はその老人の心配をするよりも、その老人の言葉に怒った。


 野菜等を育てる農業家である大地は、命の大切さや、その命を頂く事に感謝している。日常的に命と触れ合っている大地に取って老人の言葉は余りに我慢出来るものではなかった。


「それに、子供抱えてる奴にする事じゃないだろっ!!」


「…お主から先に始末するべきか。」


 大地が叫ぶ。大地の場所からは巨大な亀の甲羅の下に、やや黄みがかった真っ白な卵がドンとあるのが見えた。


 だが、老人は大地の言葉に耳を貸さず、大地を煩く思ったのか、大地に向けて掌を向けてきた。訝しむ大地に向かって、まるで土砂崩れが起きたかのような、視界一杯の大小様々な岩が降ってきた。


「おわっ…、っておお!!」


「ふむ、魔族に喧嘩を売るとは、命知らずな奴だな。」


「亀が喋ったっ!!」


 その有り得ない現象に茫然と立ち尽くす大地であったが、亀に咥えられ慌てる。亀は甲羅に引っ込めていた首を伸ばし、大地に岩が降り注ぐ寸前に咥えて、自身の体の下へと避難させたのだ。少しの説教を加えて。


 その説教の為に言葉を発した亀を見た大地は、亀が日本語を発した事に驚く。


「ふむ、共通言語なのだがな。それよりも、あの魔族を如何するべきか。」


「ああ、もう。頭こんがらがって来たぜ。あの爺を如何にかすればいいんだなっ!?」


 亀は大地が、自身が言葉を発した事に驚いている事を悟り、エルファンテトラの共通言語を喋ったのだがと頭を掲げる。だが、亀も魔族の攻撃に耐えるのがきつくなってきたのか、空中に居る魔族に視線をやり、如何するべきかと頭を悩ませる。


 だが、そこで待ったがかかった。大地である。大地は先程から続く理解の範囲から逸脱した事象ばかりに頭を抱えていたが、元々、それ程頭の良いわけではない大地は先ずは目の前の問題に対処する方が先だと、魔族の打倒を買って出た。


「出来るのか?」


「任せとけっ!!…流水っ!!」


 大地の言葉に訝しむ陸亀。だが、大地はそんな亀の疑問の声を一蹴して、変身グッズのバックル摘みを、周りの空気を吹き飛ばしながら宣言された掛け声と共に摘みを押し込んだ。


「な、なんじゃあ!?」


 大地の体を光が包み込む。照明でそういう演出をしている訳ではなく、今現在の玩具というのはそういう物であった。


 医療用のナノマシンを使用し、組み込まれたギミックを作動させると、収納されていたナノマシンが体の周りに放出され、それがゴム質な何かに変質する。


 ナノマシン自体には複雑なプログラムを組む事は出来なくとも、磁力の影響を受けることは出来る為、ギミックを作動させた時にバックル側で操作することが出来るのだ。


 大地のガッチリした肉体を黄色いゴム質な何かが覆っていく。肩、胸、腕、足と橙色で覆われていき、左右に広がる数本の猫の様な髭を持つ黄土色の龍の顔を模したヘルメットが大地の頭を覆った。


「大地と力の伝説、リュウレンイエロー。」


 突如の発光、いきなり姿の変わった大地に驚きを露わにする魔族の老人。そんな老人にビシッと指を突き付け、ただ宣言するように名乗った。


 リュウレンイエローのヒーロースーツを纏った大地は雨霰と降り注ぐ大小様々な岩を避ける様にして亀の下から抜け出した。


「流激装備。」


 大地は変身バックルの摘みを左右に押し広げる。変身バックルの龍玉とされているガラス玉が光輝く。その中から柄がナノマシンによって形成され出てきた。


 大地はその柄を掴むと一気に引っ張り出す。


「ランドホー。」


 大地の、リュウレンイエローの専用武器は幾つかの形態をとる武器である。その基本の形、鍬それも先が三又に別れている備中鍬の形をしている。


 原作では刃の部分は岩でできており、それを分解、再構築させて刃先を変えるという設定であったが、ナノマシンで代用されており、細かい制御が出来なかった為に、ご当地ヒーローとしての象徴的な物が武器として採用された。


 大地は刃先を錘代わりにしてランドホーを、まるでハンマー投げの様に振り回した。飛んできた岩は、備中鍬の刃先に絡め捕られ、大地まで届かない。それどころか、絡め取られた岩が錘の役割を果たし、ランドホーはドンドンと遠心力で重くなっていった。


 大地が先ず考えたのは、空に浮かぶ爺までどうやって攻撃を届かせるかという事であった。そこで考えたのがハンマー投げである。十代の頃、たまたまテレビを点けた時にやっていたハンマー投げを見て、タオルと石で代用して河原で遊んだ経験があった大地は、プロ選手程ではないが、ヒーロースーツの補助もあり、それなりに様になっていた。


 ドンドン重くなっていくランドホーを、魔族の爺に向かってブン投げる。


「流激装備、解放!!」


 そこで変身バックルの摘みを元に戻した。変身バックルの電気信号によってランドホーを構築していたナノマシンは霧散し、龍玉へと吸い込まれた。


 ランドホーが無くなった為、ランドホーの刃先に絡め取られていた岩は、遠心力によって高速で空気を引き裂きながら魔族の爺へと飛んで行く。


 こうすることで、絡め取られた岩は散弾の役割を果たし、ある程度の狙いが付いていれば、素人の攻撃でも中てる事が出来る。


「うっし!!」


「な、なんじゃとっ!?」


 思わずガッツポーズをして作戦が成功した事を喜ぶ大地。魔族の爺は驚きを露わにし、頬に手をやった。


 頬には切れ目と表せばいいのだろうか、下から黒い肌が見える。その頬に手をやって中の黒い肌が見えている事を確認した魔族の爺は、両腕をダランとさせ、背中に力を入れた。


 背中から、虫が脱皮する様に出てきたのは巨大な蝿であった。


「がはははは、面白いではないか。お主は殺した後、俺様の研究材料にしてやろうっ!!」


「げっ、誰が大人しく殺されるかっ!!」


 それは先程までの老人の様な声ではない。大地の様な体格のいい、若い力ある言葉であった。その声の持ち主である、巨大な蝿は高笑いをしつつ、大地が皮を傷つけた事に喜ぶような言動をして、大地を殺すと宣言した。


 大地も大人しくやられる様なたまではない。再び権現させたランドホーを巨大な蝿へと向け、啖呵を切った。


「げっ!!」


 だが、突如大地の視界から巨大な蝿が消える。巨大な蝿は、それこそ大地の視認できない速度で持って、大地へと近付いたのだ。その手にはいつの間にか鋏が握られており、大地の首を挟んでいた。


 慌ててしゃがむと、首のあった所を鋏の刃が通って行った。冷や汗を流しつつ、振り返るが其処には既に蝿はいない。


 感に従ってランドホーを振るうと、鋏にぶつかるが感触が無かった。大地がランドホーを振るう速度よりも、更に速い速度で動いている為、簡単に受け流されている為だ。


「むぅ、大丈夫かっ!!」


「馬鹿っ、亀野郎はその卵を持って早く逃げろ。」


「し、しかし…。」


「こっちは何とかして見せるっ!!」


 苦戦する大地を見て、巨大な亀が大地を心配する声を掛けてきた。大地は蝿の攻撃を辛うじて避けながら、亀に卵を持ってこの場から離れろと叫んだ。


 大地が苦戦している事に逡巡する亀。だが大地から力強い言葉が返ってくる。やっと腹を決めた様で、片足で卵を握ると、その足を地面に落とさぬよう、器用に残りの三本足で歩いて行った。


「ぬっ、待て。」


「お前の相手はこっちだっ!!」


 蝿が、亀が動き出した事で本来の仕事を思い出したのだろう。亀の方向に攻撃を加えようとする。そんな事させまいと、大地はランドホーを蝿に向かって振るった。


 流石に亀に気を取られていた為か、力一杯振るったランドホーは蝿の鋏に当たり、罅が入ってしまった。


「なっ!?オノレ、貴様から先に片付けてやるっ!!」


「やってみなっ!!」


 その事に激昂した蝿は、大地に向かって怒気をぶつけてくる。だが、大地としては亀を逃がす為に、興味を大地の方へと移す為にやった事で、それが成功を収めた為、気が楽になっていた。


 鬼さん此方、手のなる方へ。まるでそんな歌が聞こえてきそうな感じに蝿を挑発しながら、背を向けて木々の中に隠れた。


「待たんかっ!!」


 その挑発に怒りのあまり茫然としていた蝿であったが、大地の姿が見えなくなる寸前に意識を戻し、大地を追いかけて木々の中に消えていった。


「グッ…。」


「おらおら、如何した。威勢だけだったのかっ!!」


 だが、大地の誤算は、木々の中なら空から見つけ辛いだろうと考えた事である。最初に空を飛んで行ってしまった為に、また大地を探す為に木々の上を飛んでくると考えたのだが、蝿は大地を追いかけて木々の中を追ってきた。


 更にその巨体の為、木々の中では速度が落ちるだろうと考えたのだが、その速度は増すばかりだ。蝿故に、最高速度での急な方向転換を得意としているのだろう。更に複眼の為、後方から急速に近付く木々に当たる筈もなく、苦も無く避けている。


 その上悪い事に、木々の中という戦場はリュウレンイエローの得意とする所ではなかった。得意とするのはリュウレングリーンであり、薄暗い事を考えると、次点でリュウレンブラックだろう。寧ろリュウレンイエローとしては苦手な戦場である。


 リュウレンイエローが得意とする戦場は開けた平地であり、障害物がある木々の中では、長物であるランドホーを遺憾無く発揮出来なかった事もある。


 大地の若い頃にやったヤンチャの経験がなければ、既に大地は倒されていた筈だ。だが、大地はランドホーを短く持って、片刃になった鋏の攻撃だけを防ぐのに苦心しており、吹き飛ばされる様な攻撃は、亀の逃げた方向から遠ざかる様に受けて、距離を開けていった。


「いい加減にしろっ!!」


「がはっ…。」


 余程イライラしていたのか、大地が鋏をランドホーで受けた瞬間、ボディブロー気味に強烈な一撃を加えた。


 その一撃は、大地を後方にあった木々に縫い付け、いや、耐えられなかった木々を貫通し、大地を川の傍に転がす。


 ヒーロースーツが受け流せなかった衝撃が腹に鈍い痛みを齎し、地面を転げまわる。そんな大地を見下ろしながら、巨大な蝿が木々の間から出てきた。


「その皮が邪魔じゃな。」


「なっ!?」


 腹に拳を当てた時であろう。ヒーロースーツによって通る筈の攻撃が阻まれていると断じた蝿は、大地の視界から姿を消した。


 蝿は大地が変身バックルを弄っている場面を見ていた。そのバックルがヒーロースーツを構築していると中りを付け、大地が振り向く瞬間、バックルに切り付けた。


 バックルのナノマシンを制御している部分を狙った訳ではないが、その一撃はバックルが耐えられる衝撃を超えており、制御している部分、龍玉の一部が欠けた。


 大地は光に包まれ、ヒーロースーツが解かれてしまった。驚き、声を漏らした大地に鋏を振るう。


「ぐっ…。」


「これで終いじゃ。」


 鋏は大地の首を狙っており、辛うじて避けたものの、片方の肩に中たってしまった。痛みに呻き声を上げる大地。噴出した大地の血で真っ赤に染まった鋏を振るう瞬間、空気が震えた。


「ぬむ、忘れる所じゃったな。こ奴は放っておいてもよいじゃろ。」


 その咆哮は亀が上げたものだろう。咆哮を聞いた瞬間、蝿は本来のやるべき事を思い出し、倒れ伏した大地が気絶している事を確認した蝿は、後で回収に来ればよかろうと思い直して空の彼方へと飛び去ったのだった。

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