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第四話 異世界探検隊 ドラゴンと魔族4

一応12時過ぎてるので一日二話投稿では無いですが、これで五話目です。プロローグを入れたらね。

 山で遭難した時は、頂上を目指せと言われる。下手に下山すると全く別の場所に出てしまう場合が多いからだ。頂上を目指す場合、頂上というゴールが見えている以外に本来の道筋の到着点であり、上から見下ろすことで自身の居る場所が判るからだ。


 だが、異世界の何処とも知れない場所で遭難した場合は、如何したら良いだろうか。一番に確保すべき飲み水を探す事を推奨させてもらう。人は一週間ぐらいなら水だけで生活することが出来る。それ以上になってくるとどうしても体力面での活動限界がやってくるだろうが。


 それでもまずは飲み水を確保して、少しでも生き延びる時間を増やす事。そうする事でまた別の行動に移る事も出来るし、運が良ければ生活圏に出る事もあるかもしれないからだ。


 そして下手に山に分け入って迷い体力を消耗するぐらいなら、近くに海がある場合海を目指すのが賢い選択だと思われる。波の音が目印になり、現状の深い森の中に居ても迷うことが無いからだ。


 海に出れば海岸沿いを歩くことで、必ず海に流れ込む川があるはずで、その川を遡れば飲み水の確保も難しくなく。海水を煮詰めることでミネラルを含む海塩を手に入れられる事も大きい。


 川の傍なら一つや二つ、食糧も手に入れられる筈だ。上手くすれば、海沿いの港町に出ることもあるだろう。


「へ~、そうなんだ。さすが涼貴さん。」


 涼貴の説明に純粋に感心する哲多。涼貴も大学時代にふざけて調べただけの知識で、此処まで感心されると、どうしても照れてしまう。


「キュクルー!!」


「ウオウッ!!」


 少し先行していたチビと、クロと涼貴に名付けられた子犬が、興奮した様子で哲多達を呼ぶ様に鳴き声を上げる。


「どした?…うおおぉ…。」


 そんな二匹の様子を不審に思った哲多が、早足で二匹が出てきた茂みを掻き分ける。涼貴の耳に突如哲多の興奮する声が聞こえてきた。


「…子供だな。」


「ひでぇ、海っすよ、海。」


 先ほどから波の押しては引く音が強くなっており、そろそろ海岸にでも出るだろうと考えていた涼貴は、真っ青な何処までも広がる海を見て興奮する哲多の様子に呆れていた。


 哲多は何がそんなに凄いのか判らないが涼貴に向かって海、海と連呼しており、チビ達もまた波の押し寄せては返す様子が不思議なのか波を見ている。


 真っ白な砂浜は流木等の自然のゴミこそあるものの、人工ゴミは一つも落ちてはおらず、海の水は透明度が高く何処までも澄み渡っている。


 確かにこの光景は涼貴にも感動を与えていたが、一つだけ不安にもさせていた。


「これだけ澄んでいるということは、生活排水が流されていないという事だ。」


「現実的っすね。」


「そうでもなければ生き残る事は出来ないよ。」


 涼貴が海の透明度を見て、この近辺に人が住む集落がない事を指摘する。どれだけ低い文化レベル、生活様式であろうと、生活している以上は生活排水は出てくるものだ。そしてその処分は川や海に流すものが当たり前だろう。


 海の水が綺麗に澄み渡っている事から傍に人がいない事を考え付くのは簡単であった。


 哲多はこの綺麗な海を見て最初に出てきた言葉がそんなものだった涼貴に少々非難めいた視線を送る。


 だが、現実を見ている大人な涼貴から出てきた言葉はその通りだがとしか言えないものであった。哲多も涼貴と話した事により、今の現状が自身の見る夢ではないと理解しており、生きる為には必要な事だとも理解しており、文句を言いたくても言えないという状態であった。


「さて、川を探そうか。」


「うす。」


 涼貴は哲多達が一通り騒いだのを呆れて見ており、騒ぎ終わったなと判断した所で、本来の目的である海に流れ込んでいる川を探す為に海岸沿いを歩き始めた。哲多もそれに同意し、涼貴の後ろをチビ達二匹と付いてくる。


 瞬間、正面の海から水柱が空高く上がり、巨大な生物が悲鳴のような鳴き声を上げながら巻き上げられるのが見えた。


「あっ、おい…。」


 後ろから涼貴が慌てて制止する声が聞こえてきたが、哲多とチビはすでに走り出していた。夢じゃなく現実だと理解しても、元々正義感が強く、竜巻すら恐れずに向かっていく哲多だ。


 当然悲鳴を上げた生き物が居れば、脇目も振らずに駆けていく。後ろで溜息を吐く涼貴が居たが、足元に擦り寄ってきたクロを抱き上げ、哲多を追いかけるべく駆けだしたのだった。


 水滴が顔に当たる感触で青海あおみ そらは目を覚ました。近くから波の音が聞こえてくる。


 あれ、何でこんな所にという思いが頭を過り、竜巻に巻き込まれた事を思い出した。思考が働いてくると、まず自分の腕に目をやり驚く。


 上側に三本、下側に一本の指を持つ龍の腕。その中心に嵌る龍玉が割れていたのだ。その為ヒーロースーツが解けており、よく自分は死ななかったなぁと冷や汗を流す。


 堅い黒い岩の様な地面。周りを見渡すと波の浸食で大穴を開けたと思われる場所に倒れており、少し向こうを見ると砂浜と、澄んだ綺麗な海が見える。


「取り敢えずはあそこに行ってみるかな?」


 此処でこうしていても仕方ないし、何か目印になるものでもあれば、そんな思いから砂浜を目指して歩き出した。


「うわぁ~、すっごい綺麗ねぇ。」


 思わず感嘆の声が上がる。遠目で見ても澄んでいた事が判る程だったが、近くまで来るとそれが顕著になり、それなりの深さがある筈なのに、底まで見る事が出来た。


 底の方で、ハゼの仲間だろうか小さな魚が数匹チョコチョコと泳ぎ回っている。サンゴ礁はなさそうであったがワカメに似た海藻がユラユラ揺れていた。


 何時までもこうしていては居られないと、立ち上がり周りを見渡す。キラキラと光る海面から目を離し、反対側を向いた。


 先ず目に飛び込んでくるのは、ゴミ一つない綺麗な砂浜だろう。砂は細かく石一つ落ちていないようであった。


 次に目に入ってくるのは空が倒れていた岩場。黒っぽい色で波に浸食されて気味の悪い形が乱立している。


 その奥には崖が切り立っており、海面に近い所にぽっかりと口を開けた洞窟らしき入口があった。


 再び海の方に視線を戻した時に空は海の上の空に暗雲があるのを見つける。風の流れは海側からこの入り江に向いて吹いており、もう少しすると雨が降ってくるのが判る。


 空は取り敢えず洞窟で雨宿りできないか調べてみることにした。


 洞窟はそれ程深くはないが雨宿りする分には申し分ない深さがあり、波の後を調べると足元の岩場の一段下までしかなかった。多少雨で水嵩が増えたとしても十分だと言える。


 天井の高さはそこそこあり、空が立って歩く分には問題がなく、横幅は広々としていた。


 空を見ると雨雲はすぐそこまで近づいてきており、直ぐにも雨が降り出しそうであった。


「はぁ、火ぐらい起こせたらよかったんだけど…。」


 小さく溜息を吐きつつ、空は洞窟の奥の方へと向かった。空が洞窟に入ったのと同時にポツリと雨粒が落ちてくる。直ぐにザーザーと音を立てて激しく雨が降り出した。


「それにしても此処は何処なのかしら。」


 岩場の出っ張りに腰かけ落ちていた枝を広い、無意味に振り回しながら独り言を呟く。


 空はライフセーバーをしており、流連市下流域の海岸部では空の知らない場所は無かった。田舎特有の民家の少なさが生活排水を流すのを少なくしており、流連市の海は他の場所と比べて綺麗な海と言えた。


 だが、目の前に広がる海程ではなく、こんな場所があるのであれば、海水浴客で溢れている筈なのだ。地元民の秘密の場所と言われればそれまでだが、その地元民の空ですら知らない場所であった。


「…早く止まないかな?」


 薄暗い洞窟で雨の音を聞きながら一人である状況に心細くなってきており、早く雨が止むことを願う空。


 雨は海特有の通り雨のようで視線の先、少し先の海から晴れ間になっていく。洞窟にも光が差す量が増しており、もう少しで完全に上がる事であろう。


 空は立ち上がり、まだ小雨だが、海岸の強い日差しなら乾いてしまうだろうと考え、洞窟を出た。


 取り敢えずはこんな隅の方に居ても仕方がないだろうと考え、砂浜に戻る事にする。


「なっ、何あれっ!?」


 だが、砂浜の方に目をやると、雨が降る前にはなかった巨大な物体が浜に打ち上げられていたのだ。


「動いてる?波にでも?…違う、生き物だ!?」


 それはユラユラ揺れているように見える。波にでも揺られているだろうかと思ったが、近づくに連れてそれが生き物であることが解った。


 浜に打ち上げられて海に帰れなくなったイルカやクジラを助ける活動もしている空にとって、見たことのない生き物でも浜に打ち上げられたのであれば助けない理由は無かった。


 慌ててその生物に駆け寄る空。


「うわ~、おっきいなぁ。」


 遠目で見た時でさえそれなりに大きいと思ったが、近くで見るとその大きさは桁が違った。


 見た目は海蛇の様な長い胴体に顔の傍と尾ひれの傍に手足の様に大きな鰭が付いている。体は濃い青色の鱗で覆われており、顔は爬虫類に近い顔立ちをしていた。甲羅のない海亀と、古代魚を混ぜ合わせた様なその生き物は苦しそうに息をしている。


 魚のようでいて鰓呼吸ではなく、どうやら肺呼吸をしている様だ。鱗の一部は乾燥しだしているが、その事は問題ではなさそうである。変温動物であるのならば、太陽光で熱を取っていても不思議ではなく、苦しんでいる原因に思い当たらない。


 全て素人目であるが、ライフセーバーとして海の生き物を守る活動にも参加した経験からそれ程離れてはいないと思う。


「あっ、もしかして…。」


 空は自身が最初この生物を見た時に思った甲羅の無い海亀というワードから、一つ思いつく事があった。その思いつく事を確かめるべく、その生物の尾ひれの方へと近づく。


「やっぱり…。」


 尾ひれの方の砂地は均されており、更に深めの穴が開いていた。苦しむ様な声を出す巨大な生物の、尾ひれの方にある足の様な鰭の間から、真っ白な真珠の様な光沢を放つ楕円形の卵が産み落とされている。


 空は如何したら良いかと考えた。もし海亀の産卵なら夜中に行われ、明りや物音に敏感なために出来るだけ近づかないのが良いのだ。


 しかし、今は昼間であり、空は近づきすぎている。更には海亀の卵の場合、海の水に浸かると卵が死んでしまう為に、満潮よりも高い場所に産卵をするはずが、此処は半分ほど水に浸かっていた。


「もしかして、ちょっと待っててね。」


 もしこれが海亀と同じ生体であれば水の浸からない場所まで持っていけばいいが、余計な事をして逆に殺してしまうことも考えられる。


 そこで空は視線を巨大な生物の方に目をやり、その巨大な生物が暑さに苦しんでいる様にも見えた。


 イルカが座礁した時等は一時間以内に助けないといけないと言われている。それは自身の重さで内臓を潰してしまう事がある事と、太陽光で皮膚が炎症を起こしてしまうからだ。


 そのことを講習会に参加した時に聞かされていた空は慌てて海の水を掬い、巨大な生物に掛けてやる。



「あ~、もうっ!!こうなったら…。」



 だが、手で掬った水では殆ど意味をなさず、直ぐに蒸発してしまった。


 直情型の性格をしている空は、自身の着ていた上着を脱ぎ、袋状にして縛り、其処に海の水を汲んできて生物に掛けた。


 海の水は服から直ぐに抜けていくが、元々の掬える量が違う為、手で掬うよりも多くの水が掬えた。


 水を掛ける度に、苦しそうだった顔が気持ちよさそうに緩められる。これで正しかったんだとプルンと揺れるそれなりにある胸元を気にせず、産卵が終わるまで空は海水を運んだ。


「…ありがとう。」


「へっ?うわっ、喋ったっ!!」



 数十分後、空が気付いた頃にはすでに産卵が始まっていた事もあって、産卵は終わりを迎えた。後ろ足で砂を掛け終えた巨大な生物は、閉じていた目を開いて空を見ると、その口を開いて空に礼を言った。


 空は、その古代魚の様な巨大生物が喋るとは思わず、一瞬口を開いて呆けるもその事に驚く。


「くすくす、可笑しな精霊種ですね。」


「え、えーと…?」


「私は竜種の海竜。先ほどは助けて頂き有難う御座いました。」


「いえいえ、大した事が出来ずに申し訳ありません?」


 空が驚いた事に、優しい女性の声で笑いを漏らす巨大生物。海竜と名乗ったその生物は空に向かって改めて礼を言った。


 空は、謙遜するも、目の前の生物が古代魚の様な姿をしていることもあり、語尾に疑問符を付けてしまう。


「いえ、貴方のお蔭で助かりました。今は体力回復の為に帰らねばなりませんが、貴方が困ったときは力になりましょう。」


「え、あ、そうですね。お願いします。」


 その事にクスクスと笑いを漏らした海竜は、もう一度空に礼を言った後、体力回復の為に海へと戻る。


 空もこれ以上遠慮していても仕方がないと思ったのか、海竜の言葉に素直に頷いた。空は笑顔で海竜を見守る。海竜はズリズリと体を這わせ、海の水の中へと潜って行った。


「…うわ~、色々あったから何しようとしてたか忘れちゃったよ。」


 海竜が海へと戻って行ったのを見送った空は未だ丸出しの上半身をう~んと見せ付ける様に背伸びをする。


 巨大な生き物が座礁していると思えば産卵してるし、産卵が終わったら古代魚みたいなのに話しかけられるしと改めて整理していると、遠くの方から海水が茜色に染まりかけている空に向かって打ち上げられた。


「…えっ?」


 思わず呆ける空。打ち上げれた海水は巨大な柱の様にも見え、その中心からあの海竜が悲鳴じみた鳴き声を上げながら吹き飛ばされるのが見えたのだった。

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